ホスセリ・ホホデミの兄弟の話 ―日本書紀より―

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 昔、天皇陛下の遠い遠い先祖に、「ニニギのみこと」という人がいました。この人は神様の子として、天皇陛下の祖先になることが最初から決まっていた人だと言われています。

 あるとき、ニニギのみことは海辺に行ってみました。そこにとても美しい女の人がいました。ニニギのみことはさっそく、

「あなたはどなたですか?」

と聞いてみました。美女は、

「私はオオヤマツミの神の娘で、カムアタ カシツ姫です。でも、みんなからはコノハナサクヤ姫と呼ばれています」

と答えました。そして、「それから、私にはお姉さんもいます。イワナガ姫といいます。」とも言いました。

 ニニギのみことはこの美女がすっかり好きになってしまいました。それで、すぐに

「突然なんですが、私と結婚してくれませんか?」

と言ってみました。美女は、

「……。お父さんのオオヤマツミの神がなんていうか……。お父さんにそう言ってみてくださいな」

と答えました。

 ニニギのみことはさっそく美女の家に行き、お父さんに「私はお嬢さんが好きなんです。どうかお嬢さんと結婚させてください」と言いました。

 お父さんは「では、うちの娘姉妹、二人とも妻にしてもらおう」と言いました。大昔のことですから、その頃は、奥さんは二人いても良かったのです。さっそくご馳走をこしらえ、披露宴のお祝いをすることになりました。

 ところが、お姉さんのイワナガ姫は、美しくありませんでした。ニニギのみことはお姉さんのイワナガ姫とは仲良くせず、美しい妹のコノハナサクヤ姫とばかり仲良くしました。

 たった一日で、ニニギのみこととコノハナサクヤ姫の間には赤ちゃんができました。

 お姉さんのイワナガ姫は面白くありません。怒ってこういいました。

「もしニニギのみことが私と仲良くしていたら、生まれてくる赤ちゃんは、とても長生きしたはずよ。私の名前はイワナガ姫、岩のように長く変わらずに生きる子になるはずなんだから。でも妹のコノハナばっかりかわいがったのはおあいにく様だわ。妹の名前は『木の花(このはな)咲くや姫』と書くのよ。だから、岩に比べれば花の命がとっても短いように、生まれてくる赤ちゃんだって、皆命が短くなってしまうわよ。」

 大昔にこうしたことがあったために、人間の寿命が決まってしまい、人というものはあまり長生きできなくなってしまったのだそうです。

 さて、コノハナサクヤ姫は、さっそくニニギのみことに

「あなた、赤ちゃんができたみたいだわ。私は元気な赤ちゃんを堂々と産みます」

と言いました。ところが、ニニギのみことはびっくりしてしまいました。

「赤ちゃんができた、って……?おいおい、僕たちはまだ、一日しか一緒に暮らしてないんだぞ?いくら僕が神様の子だからって、そんな話があるもんか。……いや、まてよ?……コノハナ、お腹の子は、ひょっとして、僕たちの子じゃないんじゃ……!?」

「あなた、なんてこと言うのよ!!」

 コノハナサクヤ姫は怒りもしましたし、恥ずかしくて嫌な気持ちになってしまいました。悲しくなって、小屋に閉じこもってしまいました。

「分かったわ、こうしましょう。あなたが神様の子だっていうんなら、赤ちゃんだって神様の子だってことになるんだから、死ぬはずはないわね。他の人の子なら、死んでしまうわ」

コノハナサクヤ姫はこう言って、なんと、その小屋に自分で火をつけてしまいました。

 火をつけると同時に、もう赤ちゃんが生まれ始めました。

 火があまり大きくないときに、一人、赤ちゃんが生まれました。そこで、この赤ちゃんは「ホスセリのみこと」(()すせり、火が小さいこと)と言う名前になりました。

 火がだんだんめらめらと大きく燃え始めた時、また一人、赤ちゃんが生まれました。そこでこの赤ちゃんは「ホノアカリのみこと」(火の明かり)という名前になりました。

 火が燃えきってしまって、だんだん小さくなってきたときにもう一人、赤ちゃんが生まれました。そこでこの赤ちゃんは「ホホデミのみこと」(火ほでみ、火が沈んでいくこと)という名前になりました。

 赤ちゃんたちも、コノハナサクヤ姫も、火にはまったく焼けず、死にもしませんでした。それで、赤ちゃんたちはみな、ニニギのみことの赤ちゃんであることがわかりました。

 この赤ちゃんたちはすくすくと育ち、大きくなりました。

 ことに、一番上のお兄さん、ホスセリのみことは、海へ出て魚を釣ることが大変上手になりました。海の幸がこのお兄さんにはついていたのです。また、一番下の弟、ホホデミのみことは、山へ行って狩りをし、獲物をとることが大変上手になりました。山の幸がこの弟にはついていたからです。

 ですが、ある日、この二人は、自分たちの海の幸、山の幸が、少し飽きてきました。毎日毎日とってくる獲物や魚が同じなので、嫌になってしまったのです。

 そこで、兄のホスセリのみことは弟にこう言いました。

「なあ、ホホデミよ。たまには、お互いに仕事を取替えっこしないかい?俺の釣り針をお前に貸すから、お前はそれで魚を釣ってみなよ。俺はお前の弓矢を借りよう。それで山の獣をとってみるよ」

「なるほど、名案だね、兄さん。そうしましょう。」弟も賛成しました。

 二人は喜んでそれぞれ海と山に出かけていきましたが、釣りも狩りも、慣れない者が急にやっても上手にはできません。お兄さんは獣なんか一匹も仕留められませんでした。弟は魚が一匹も釣れないばかりか、釣り針がどこかへ行ってなくなってしまいました。

「ホホデミ、慣れないことはするものじゃあないな。お互い、元に戻ろうじゃないか、俺は海、お前は山、これが合っている。」

「そうですね、兄さん」

「さ、お前の弓矢を返すよ。……俺の釣り針を返してくれ、あれは縁起がいい海の幸の釣り針だものな」

「あ、いや、その、実は、兄さん。」と、ホホデミのみことは正直に釣り針がなくなってしまったことを言いました。

「なんだって!!」とホスセリのみこと。「なんてことをしてくれたんだ、あれは縁起のいい、海の幸の釣り針なんだぞ!?」

「ご、ごめんなさい兄さん。」弟は謝りました。

 ホスセリのみことに機嫌をなおしてもらおうと、ホホデミのみことは別の釣り針を作って返すことにしました。大昔のことなので、釣り針はお店には売っていませんから、自分で作るのです。

 ホスセリのみことの釣り針そっくりに作ったつもりでしたが、ホスセリのみことはそれを受け取りませんでした。カンカンに怒ってしまって、

「なんだ、こんな代わりの釣り針なんか!俺は、俺のもとの針を返せと言っているんだ!」

と、ますます頑固になるばかりです。

 ホホデミのみことはなんとか兄さんの機嫌を直してもらおうと、自分の刀を打ち砕いて、それで何百もの沢山の釣り針をつくり、それを籠に山盛りにして兄さんに差し出しました。ところが、これも兄さんは受け取ろうとしません。

「こんな違う釣り針が何百もあったって、もとの俺の針じゃあないじゃないか。元の釣り針ったら、元の釣り針だ!絶対に俺の、元の釣り針でなくちゃ、ダメなんだ!俺の元の釣り針を返せ!」

と、許してくれそうもありません。

 こんなにして謝っているのに、兄さんは許してくれないし、と言って、元の釣り針は、海の底のどこかへ行ってしまって、とても探せやしない……。

 ホホデミのみことはすっかり困ってしまい、とぼとぼと出て行きました。いつのまにか、海辺に来ていました。海辺に来たからと言って釣り針が見つかるはずはないのですが、そうせずにはおれなかったのです。

 ふと見ると、そこにお爺さんがいました。シオツツのお爺さん、という人です。お爺さんはホホデミのみことがしょげ返っているのを見て、

「おいおい、どうしたんじゃ。ずいぶんと悩んでいるようじゃな。」

「はい、実は……」ホホデミのみことは一部始終のことをすっかりシオツツのお爺さんに話しました。

「なるほど、それは困ったことになったのう」とお爺さん。「よろしい、わしにまかせなさい、なに、悪いようにはせん。」

 お爺さんはしっかりときつく編まれた、頑丈で大きな籠を持ってきました。そしてその中にホホデミのみことを入れ、有無を言わさず、籠ごとホホデミのみことを海に投げ込んでしまいました。

 ホホデミのみことの入った籠は、ぶくぶくと海の中へ沈んでいきましたが、不思議なことにホホデミのみことはなんともありません。

 やがて、海の中に美しい浜辺が現れました。

「ここは一体、どこだろう。」

 ホホデミのみことは籠から出て、歩き始めました。しばらく行くと、城がありました。城は大きくて立派で、美しく整っています。その城の門の前に井戸があり、井戸のそばに葉が青々と茂った木がありました。

 ホホデミのみことはそっと木の陰に隠れ、井戸のほうをうかがってみました。ちょうど、城の中からとても美しい若い女の人が出てきて、大きな鉢に水を汲みました。その水に、木の陰にいるホホデミのみことの姿が映りました。

 女の人はびっくりして、家の中に戻り、お父さんとお母さんに「家の前に見たことのない男の人がいるわ。木の下にそっと立っているの」と言いました。

 このお父さんは、海の神様でした。

 海の神様は、この人は怪しい人ではない、と、なんとなくわかりました。そこで、敷物をひろげて失礼のないようにしてから、

「さあ、そこの木の下にいる、若いお客さん。どうぞこの城に入っておいでなさい」

と、ホホデミのみことを招きました。

 入ってきたホホデミのみことの姿と、その立ち居振る舞いを見て、海の神様はホホデミのみことが高い位をもった立派な人物であることがすぐにわかりました。また、この海の神様のお城にやってきたのも、何かのわけがあることも感じ取りました。

「さて、お客人、どうしてこの私の城を訪ねてこられたのかな?」と、海の神様は聞きました。

 ホホデミのみことは、洗いざらい、これまでのことを正直に言いました。

「なるほど、よろしい。それならば、私が力になれるかも知れないぞ。なに、私は海の神様だ。まかせなさい。」

海の神様はそういうと、「おおい、お前たち、集まれ」と呼びかけました。そうすると、海じゅうの魚たちが、大きな魚も、小さな魚も、皆お城に集まってきました。

「おお、魚たちよ、よく集まってくれた。ところでこの方は、遠い所から来られた立派なお客人だ。ところで、お前たちに聞きたいことがある。このお客人は、釣り針をなくしてしまって困っているのだ。お前たちに何か心当たりはないか?」

 海の神様は沢山の魚たちにそう呼びかけました。

 魚たちは答えました。

「いいえ、知りません。釣り針のことはちょっと……。」

「ううむ、そうか。」

「でも海の神様、少し心当たりがあります。タイ君が今日は来ていません。来ていないのは、どうもこの前から、口が痛いと言っていて、病気だから今日は来ていないのです。ひょっとしたら、釣り針のことと関係があるかもしれません」

「なに、それは本当か。お前たち、さっそく行って、タイをここに連れてきなさい」

 海の王様のところへ、タイが連れてこられました。やはり、皆が思ったとおり、タイの口を調べてみると、口の中に釣り針が刺さったままになっていました。それでタイは痛くて休んでいたのです。その釣り針が、ホホデミのみことのお兄さん、ホスセリのみことの釣り針であったことは言うまでもありません。タイは無事に針を抜き取ってもらいました。

 ホホデミのみことはほっとしました。そこで、海の神様にお礼を言い、「お礼の印に、なんとか海の神様のお役に立ちたいのですが」と申し出ました。

 海の神様は「そうじゃな」と少し考えてから、

「お客人よ、あなたの立ち居振る舞いや立派な姿から、あなたはなみなみならぬ人とお見受けした。もしあなたさえよければ、私の娘のトヨタマ姫と、結婚してはもらえまいか。」

 ホホデミのみことは驚きましたが、もうあきらめかけていた釣り針を取り戻してもらった恩に報いようと、海の神様の望みに従うことにしました。

 トヨタマ姫というのは、井戸に水を汲みに来ていた美しい姫のことです。もちろん、ホホデミのみことは美しいトヨタマ姫が気に入りました。二人は結婚し、仲良く暮らし始めました。

 ホホデミのみことは、お兄さんのホスセリのみことのことを忘れていたわけではなかったのですが、海の神様の城で、トヨタマ姫と暮らすことが楽しく、ついつい三年が経ってしまいました。

 ホホデミのみことは、やはりお兄さんにきちんと釣り針を返すことで、自分がしなければならないことを終わらせなければ、と考えるようになりました。トヨタマ姫はその様子をそばで見ていて、ホホデミのみことがなんとなく落ち着かないことがよくわかりました。

 そこでトヨタマ姫は、お父さんの海の神様に「お父さま、夫のホホデミのみことは、なんだかこの頃、元気がありません。ふるさとがだんだん懐かしくなってきて、悩んでいるのですわ」と言いました。

「なるほど、そうか。彼には、わしも多少無理を言ったところがあるかもしれないからな。」と海の神様は言いました。

 海の神様はホホデミのみことを呼んで、こういいました。

「ホホデミのみことよ、三年の間、わが一族の婿になってくれて、本当に嬉しかったぞ。ところで、だいぶ、ふるさとに帰りたいようだな。お主はよく尽くしてくれた。無理をしなくともよい、もし帰りたいのなら、ふるさとまできちんと送ってつかわそう。……さ、これは、お主が兄さんに返す、例の釣り針だ。」

海の神様は、釣り針もホホデミのみことに持たせてくれました。そして、

「よろしいか、この釣り針を、普通にお兄さんに返してはならん。お兄さんは頑固に怒ってしまっていて、普通に釣り針を返しても、もはや機嫌は直らんだろう。そこで、わしが今から教えるようにして、釣り針を返すのだ。よいか、兄さんにこの針を渡すときには、『なんだい、こんな、貧乏なつまらない釣り針なんか!それ!』そう言って、投げ返すのだ。いいな?」

それから、海の神様は、二つの宝石の玉を取り出しました。

「ホホデミのみことよ、この玉は潮満の玉(しおみつのたま)、もうひとつは潮涸の玉(しおひきのたま)という宝石だ。この潮満の玉を海につけると、海の水がどんどん増えて、兄さんはおぼれてしまう。兄さんをそれで懲らしめてやるのだ。兄さんが謝ったら、こっちの潮涸の玉を海につけなさい。そうすると、すぐに水が引いてしまう。そして兄さんを助けてやりなさい。こうやって、懲らしめてから助けてやれば、兄さんも頑固な心がよくなって、お主のいうことを聞くようになるだろう。」

 ホホデミのみことが帰り支度をし、いよいよ旅立つためにお別れを言う時になって、トヨタマ姫が

「あなた、私のお腹には赤ちゃんがいるのよ。」と言い出しました。

「なんだって、それはほんとうか!?」

「ほんとうよ。いずれこの子は生まれる。私、風や波が静かな日にあなたのふるさとの海辺へ行って赤ちゃんを産むから、そのときのために、赤ちゃんを産むための小屋を作っておいてちょうだい。」

 ホホデミのみことは驚きましたが、兄さんのホスセリのみことに釣り針を返さないわけにはいきません。赤ちゃんがお腹にいるトヨタマ姫を残して、ホホデミのみことはふるさとへ帰っていきました。

 兄さんのホスセリのみことは、ホホデミのみことを待ち構えていました。

「ホホデミよ。三年もの間どこへ行っていたのだ!心配をかけおって。……まあいい、ところで、お前、俺の釣り針のことを忘れていないだろうな!?さあ、俺の釣り針を、もとどおり返せ!」

ホスセリのみことは、どうせ釣り針など見つからなかったろう、と内心思っていました。ところが、ホホデミのみことが、正真正銘の元の釣り針をとりだしたので、ホスセリのみことはびっくりしてしまいました。

「な、なんだと!?あの釣り針が見つかったと言うのか!?……うーむ、そ、そうか。……ふ、ふん。そういうことなら、まあ、その釣り針、受け取ってやらんでもない。」ホスセリのみことはもっと弟をいじめて苦しめてやろうと思っていたので、拍子抜けがしてしまいました。

「さ、兄さん、約束の釣り針はこのとおり、お返ししますよ。ふん、『なんだい、こんな、貧乏なつまらない釣り針なんか!それ!』」

 ホホデミのみことは海の神様に教わったとおり言って、釣り針を憎々しげにホスセリのみことに投げつけて返しました。

 そんな返し方をすれば、ホスセリのみことが怒り出すのは当然です。

「おい、ホホデミ!お前今、なんて言った!」

ホホデミのみことは、ここだ、と、海の神様にもらった潮満の玉を取り出し、さっと海につけました。海の水がどんどん増え、兄さんは溺れました。

「わぁーっ!たすけてくれぇー!お、俺が悪かった、なんでも言うことを聞く!」

「ほんとうですね?じゃあ、お助けしましょう。」

今度は潮涸の玉を海につけます。海の水はどんどん減って、兄さんは助かりましたが、助かったと分かったとたん、また怒り始めました。「ホホデミ、よくも俺に恥をかかせてくれたな!?」

「ふん、そうですか、じゃあ、これでどうですか」潮満の玉をまた海につけます。

溺れだした兄さんは「わあー!!本当に、俺が悪かった、今度こそ、助けてくれー!」

「いいえ、さっきも兄さんは約束を破りましたからね。私は約束どおり釣り針をお返ししたじゃありませんか。兄さんも約束を守ってください。」

「わかった、守る、守る!なんだってする、た、助けてくれー!」

 ホホデミのみことは、さんざんホスセリのみことを悩ませ、苦しめてから、ようやく潮涸の玉を海につけてホスセリのみことを助けてやりました。

 ホスセリのみことは、もうすっかりしょげてしまって、弟をいじめようという気持ちがなくなってしまいました。

「ホホデミよ、お、俺も男だ、約束を守ろう。俺が悪かった。今すぐ、俺は芸人になる。そして、お前のそばにいて、お前のために芸をやり、毎日楽しませてやろう。これから先、代々ずっとだ。それが証拠に、さあ、見てくれ」

そう言って、ホスセリのみことはフンドシ一丁の姿になりました。それから、赤い絵の具で顔におもしろおかしい模様を描くと、見たこともないような変な手振りで、足を上げたり、腰を振ったりして踊り始めました。

 大昔にこのことがあってから、今も、ホスセリのみことの子孫である「ハヤト」という人たちが、このような踊りを伝えているそうです。

 さて、それからしばらくして、お腹に赤ちゃんのいるトヨタマ姫が、波や風が静かな日に、ホホデミのみことのいる浜辺へやって来ました。トヨタマ姫が言ったとおり、ホホデミのみことは赤ちゃんを産むための小屋を作っておきました。

 トヨタマ姫は、

「あなた、ひとつだけ守ってほしいことがあるの。……私が赤ちゃんを産むとき、絶対にのぞき見しないでちょうだい。約束して。いい?」

「なんだ、そんなことか。心配するなよ、見ないよ」ホホデミのみことは約束しました。

 トヨタマ姫が小屋に入りました。決して見ないと約束したホホデミのみことでしたが、だんだん赤ちゃんが生まれるところを見たくなってきてしまい、我慢ができなくなりました。少しだけならいいだろう、と思って、隙間から小屋をそっと覗いてみました。

 そうすると、そこにいたのは、あの美しいトヨタマ姫ではありませんでした。なんと、大きくて恐ろしいサメがいるではありませんか。

 ホホデミのみことがあまりにも驚きましたので、覗き見していることが、サメに変わったトヨタマ姫には分かってしまいました。

「あなた、あんなに見てはダメと言ったのに、どうしてみてしまったの、私、恥ずかしい姿を見られてしまって、もうあなたには顔を合わせられません。ああ、どうして、どうして?……あなたと一緒に暮らそうと思っていたけど、恥ずかしくてもう、それはできません。私は海に帰ります。でも、赤ちゃんがかわいそうだから、妹のタマヨリ姫をかわりにこちらへよこします。妹に赤ちゃんを育てさせてください。」

トヨタマ姫はそういって、海へ帰っていきました。帰るときに、海と陸とが通いあっているところへ、海の神様のまじないをかけて、永久に閉じてしまいました。このため、今でも、人間は自由に海の底へ降りたり、暮らしたりできなくなってしまったのだそうです。

 トヨタマ姫の妹のタマヨリ姫がやってきて、赤ちゃんを育てました。この赤ちゃんは「フキアエズのみこと」と名づけられました。

 フキアエズのみことは、大きくなり、大人になって結婚し、三人の子をもうけました。この三人兄弟の末っ子が、「神武天皇」という人で、今の天皇陛下から百二十四代も前の、遠い遠い昔の、一番最初の天皇です。神武天皇がいたのは、今から二千年以上、あるいはそれよりももっと前のことだと言われていますが、なにぶんにも遠い昔のことなので、はっきりしたことはよくわからないそうです。


 岩波文庫「日本書紀(一)」(ISBN4-00-300041-2)を底本として、佐藤俊夫が現代語訳した。訳するにあたっては、原文への忠実性よりも、万人向けの昔話となるようにした。このため、原文にない会話が挿入されたり、意訳をしたりしている。また、昔話的な面白さを引き出すため、日本書紀に特有の「一書曰……」との書き出しで始まる、異なる出典からの少しづつ違う話の提示を混合し、取捨選択した。

 なお、原文の白文は、次の通りである。

「ニニギのみこととコノハナサクヤ姫の話」

時皇孫因立宮殿、是焉遊息。後遊幸海濱、見一美人。皇孫問曰、汝是誰之子耶。對曰、妾是大山祇神之子。名神吾田鹿葦津姬、亦名木花開耶姬。因白、亦吾姉磐長姬在。皇孫曰、吾欲以汝爲妻、如之何。對曰、妾父大山祇神在。請、以垂問。皇孫因謂大山祇神曰、吾見汝之女子。欲以爲妻。於是、大山祇神、乃使二女、持百机飲食奉進。時皇孫謂姉爲醜、不御而罷。妹有國色、引而幸之。則一夜有身。故磐長姬、大慙而詛之曰、假使天孫、不斥妾而御者、生兒永壽、有如磐石之常存。今既不然、唯弟獨見御。故其生兒、必如木花之、移落。一云、磐長姬恥恨而、唾泣之曰、顯見蒼生者、如木花之、俄遷轉當衰去矣。此世人短折之緑也。是後、神吾田鹿葦津姬、見皇孫曰、妾孕天孫之子。不可私以生也。皇孫曰、雖復天神之子、如何一夜使人娠乎。抑非吾之兒歟。木花開耶姬、甚以慙恨、乃作無戸室、而誓之曰、吾所娠、是若他神之子者、必不幸矣。是實天孫之子者、必當全生、則入其室中、以火焚室。于時、燄初起時共生兒、號火酢芹命。次火盛時生兒、號火明命。次生兒、號彦火火出見尊。亦號火折尊。齋主、此云伊播毗。顯露、此云阿羅播貳。齋庭、此云踰貳波。

 

「ホホデミのみこととホスセリのみこと、トヨタマ姫の話」

兄火闌降命、自有海幸。幸、此云左知。弟彦火火出見尊、自有山幸。始兄弟二人相謂曰、試欲易幸、遂相易之。各不得其利。兄悔之、乃還弟弓箭、而乞己釣鉤。弟時既失兄鉤。無由訪覓。故別作新鉤與兄。兄不肯受、而責其故鉤。弟患之、卽以其横刀、鍛作新鉤、盛一箕而與之。兄忿之曰、非我故鉤、雖多不取、益復急責。故彦火火出見尊、憂苦甚深。行吟海畔。時逢鹽土老翁。老翁問曰、何故在此愁乎。對以事之本末。老翁曰、勿復憂。吾當爲汝計之、乃作無目籠、內彦火火出見尊於籠中、沈之于海。卽自然有可怜小汀。可怜、此云于麻師。汀、此云波麻。於是、棄籠遊行。忽至海神之宮。其宮也、雉堞整頓、臺宇玲瓏。門前有一井。井上有一湯津杜樹。枝葉扶疏。時彦火火出見尊、就其樹下、徒倚彷徨。良久有一美人、排闥而出。遂以玉鋺、來當汲水。因舉目視之。乃驚而還入、白其父母曰、有一希客者。在門前樹下。海神、於是、鋪設八重席薦、以延內之。坐定、因問其來意。時彦火火出見尊、對以情之委曲。海神乃集大小之魚逼問之。僉曰、不識。唯赤女赤女、鯛魚名也。比有口疾而不來。固召之探其口者、果得失鉤。

 

已而彦火火出見尊、因娶海神女豐玉姬。仍留住海宮、已經三年。彼處雖復安樂、猶有憶郷之情。故時復太息。豐玉姬聞之、謂其父曰、天孫悽然數歎。蓋懷土之憂乎。海神乃延彦火火出見尊、從容語曰、天孫若欲還郷者、吾當奉送。便授所得釣鉤。因誨之曰、以此鉤與汝兄時、則陰呼此鉤曰貧鉤、然後與之。復授潮滿瓊及潮涸瓊、而誨之曰、漬潮滿瓊者、則潮忽滿。以此沒溺汝兄。若兄悔而祈者、還漬潮涸瓊、則潮自涸。以此救之。如此逼悩、則汝兄自伏。及將歸去、豐玉姬謂天孫曰、妾已娠矣。當産不久。妾必以風濤急峻之日、出到海濱。請爲我作産室相待矣。

 

彦火火出見尊已還宮、一遵海神之教。時兄火闌降命、既被厄困、乃自伏罪曰、從今以後、吾將爲汝俳優之民。請施恩活。於是、隨其所乞遂赦之。其火闌降命、卽吾田君小橋等之本祖也。

 

後豐玉姬、果如前期、將其女弟玉依姬、直冒風波、來到海邊。逮臨産時、請曰、妾産時、幸勿以看之。天孫猶不能忍、竊往覘之。豐玉姬方産化爲龍。而甚慙之曰、如有不辱我者、則使海陸相通、永無隔絶。今既辱之。將何以結親昵之情乎、乃以草裹兒、棄之海邊、閉海途而俓去矣。故因以名兒、曰彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊。後久之、彦火火出見尊崩。葬日向高屋山上陵。

 

一書曰、兄火酢芹命、能得海幸。弟彦火火出見尊、能得山幸。時兄弟欲互易其幸。故兄持弟之幸弓、入山覓獸。終不見獸之乾迹。弟持兄之幸鉤、入海釣魚。殊無所獲。遂失其鉤。是時、兄還弟弓矢、而責己鉤。弟患之、乃以所帶横刀作鉤、盛一箕與兄。兄不受曰、猶欲得吾之幸鉤。於是、彦火火出見尊、不知所求。但有憂吟。乃行至海邊、彷徨嗟嘆。

 

時有一長老、忽然而至。自稱鹽土老翁。乃問之曰、君是誰者。何故患於此處乎。彦火火出見尊、具言其事。老翁卽取嚢中玄櫛投地、則化成五百箇竹林。因取其竹、作大目麁籠、內火火出見尊於籠中、投之于海。一云、以無目堅間爲浮木、以細繩繋著火火出見尊而沈之。所謂堅間、是今之竹籠也。于時、海底自有可怜小汀。乃尋汀而進。忽到海神豐玉彦之宮。其宮也城闕崇華、樓臺壯麗。門外有井。井傍有杜樹。乃就樹下立之。良久有一美人。容貌絶世。侍者群從、自內而出。將以玉壼汲玉水。仰見火火出見尊。便以驚還、而白其父神曰、門前井邊樹下、有一貴客。骨法非常。若從天降者、當有天垢。從地來者、當有地垢。實是妙美之。虛空彦者歟。一云、豐玉姬之侍者、以玉瓶汲水。終不能滿。俯視井中、則倒映人咲之顏。因以仰觀、有一麗神、倚於杜樹。故還入白其王。於是、豐玉彦遣人問曰、客是誰者。何以至此。火火出見尊對曰、吾是天神之孫也。乃遂言來意。時海神迎拜延入、慇懃奉慰。因以女豐玉姬妻之。故留住海宮、已經三載。是後火火出見尊、數有歎息。豐玉姬問曰、天孫豈欲還故郷歟。對曰、然。豐玉姬卽白父神曰、在此貴客、意望欲還上國。海神、於是、總集海魚、覓問其鉤。有一魚、對曰、赤女久有口疾。或云、赤鯛。疑是之呑乎。故卽召赤女、見其口者、鉤猶在口。便得之、乃以授彦火火出見尊。因教之曰、以鉤與汝兄時、則可詛言、貧窮之本、飢饉之始、困苦之根、而後與之。又汝兄渉海時、吾必起迅風洪濤、令其沒溺辛苦矣。於是、乘火火出見尊於大鰐、以送致本郷。

 

先是且別時、豐玉姬從容語曰、妾已有身矣。當以風濤壯日、出到海邊。請爲我造産屋以待之。是後、豐玉姬果如其言來至。謂火火出見尊曰、妾今夜當産。請勿臨之。火火出見尊不聽、猶以櫛燃火視之。時豐玉姬、化爲八尋大熊鰐、匍匐逶虵。遂以見辱爲恨、則俓歸海郷。留其女弟玉依姬、持養兒焉。所以兒名稱彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊者、以彼海濱産屋、全用鸕鷀羽爲草葺之、而甍未合時、兒卽生焉、故因以名焉。上國、此云羽播豆矩儞。

 

一書曰、門前有一好井。井上有百枝杜樹。故彦火火出見尊、跳昇其樹而立之。于時、海神之女豐玉姬、手持玉鋺、來將汲水。正見人影、在於井中、乃仰視之。驚而墜鋺。鋺既破碎、不顧而還入、謂父母曰、妾見一人、於井邊樹上。顏色甚美、容貌且閑。殆非常之人者也。時父神聞而奇之、乃設八重席迎入。坐定、因問來意。對以情之委曲。時海神便起憐心、盡召鰭廣鰭狹而問之。皆曰、不知。但赤女有口疾不來。亦云、口女有口疾。卽急召至、探其口者、所失之針鉤立得。於是、海神制曰、儞口女、從今以往、不得呑餌。又不得預天孫之饌。卽以口女魚、所以不進御者、此其縁也。

 

及至彦火火出見尊將歸之時、海神白言、今者、天神之孫、辱臨吾處。中心欣慶、何日忘之。乃以思則潮溢之瓊、思則潮涸之瓊、副其鉤而奉進之曰、皇孫雖隔八重之隈、冀時復相憶、而勿棄置也。因教之曰、以此鉤與汝兄時、則稱貧鉤、滅鉤、落薄鉤。言訖、以後手投棄與之。勿以向授。若兄起忿怒、有賊害之心者、則出潮溢瓊以漂溺之。若已至危苦求愍者、則出潮涸瓊以救之。如此逼悩、自當臣伏。

 

時彦火火出見尊、受彼瓊鉤、歸來本宮。一依海神之教、先以其鉤與兄。兄怒不受。故弟出潮溢瓊、則潮大溢、而兄自沒溺。因請之曰、吾當事汝爲奴僕。願垂救活。弟出潮涸瓊、則潮自涸、而兄還平復。已而兄改前言曰、吾是汝兄。如何爲人兄而事弟耶。弟時出潮溢瓊。兄見之走登高山。則潮亦沒山。兄縁高樹。則潮亦沒樹。兄既窮途、無所逃去。乃伏罪曰、吾已過矣。從今以往、吾子孫八十連屬、恆當爲汝俳人。一云、狗人。請哀之。弟還出涸瓊、則潮自息。於是、兄知弟有神德、遂以伏事其弟。是以、火酢芹命苗裔、諸隼人等、至今不離天皇宮墻之傍、代吠狗而奉事者矣。世人不債失針、此其縁也。

 

一書曰、兄火酢芹命、能得海幸。故號海幸彦。弟彦火火出見尊、能得山幸。故號山幸彦。兄則毎有風雨、輙失其利。弟則雖逢風雨、其幸不忒。時兄謂弟曰、吾試欲與汝換幸。弟許諾因易之。時兄取弟弓失、入山獵獸。弟取兄釣鉤、入海釣魚。倶不得利。空手來歸。兄卽還弟弓矢、而責己釣鉤。時弟已失鉤於海中、無因訪獲。故別作新鉤數千與之。兄怒不受。急責故鉤、云々。

 

是時、弟往海濱、低徊愁吟。時有川鴈、嬰羂困厄。卽起憐心、解而放去。須臾有鹽土老翁來、乃作無目堅間小船、載火火出見尊、推放於海中。則自然沈去。忽有可怜御路。故尋路而往。自至海神之宮。是時、海神自迎延入、乃鋪設海驢皮八重、使坐其上。兼設饌百机、以盡主人之禮。因從容問曰、天神之孫、何以辱臨乎。一云、頃吾兒來語曰、天孫憂居海濱、未審虛實。蓋有之乎。彦火火出見尊、具申事之本末。因留息焉。海神則以其子豐玉姬妻之。遂纒綿篤愛、已經三年。

 

及至將歸、海神乃召鯛女、探其口者、卽得鉤焉。於是、進此鉤于彦火火出見尊。因奉教之曰、以此與汝兄時、乃可稱曰、大鉤、踉䠙鉤、貧鉤、癡騃鉤。言訖、則可以後手投賜。已而召集鰐魚問之曰、天神之孫、今當還去。儞等幾日之內、將作以奉致。時諸鰐魚、各隨其長短、定其日數。中有一尋鰐、自言、一日之內、則當致焉。故卽遣一尋鰐魚、以奉送焉。復進潮滿瓊・潮涸瓊、二種寶物、仍教用瓊之法。又教曰、兄作高田者、汝可作洿田。兄作洿田者、汝可作高田。海神盡誠奉助、如此矣。時彦火火出見尊、已歸來、一遵神教、依而行之。其後火酢芹命、日以襤褸、而憂之曰、吾已貧矣。乃歸伏於弟。弟時出潮滿瓊、卽兄舉手溺困。還出潮涸瓊、則休而平復。

 

先是、豐玉姬謂天孫曰、妾已有娠也。天孫之胤、豈可産於海中乎。故當産時、必就君處。如爲我造屋於海邊、以相待者、是所望也。故彦火火出見尊、已還郷、卽以鸕鷀之羽、葺爲産屋。屋蓋未及合、豐玉姬自馭大龜、將女弟玉依姬、光海來到。時孕月已滿、産期方急。由此、不待葺合、俓入居焉。已而從容謂天孫曰、妾方産、請勿臨之。天孫心怪其言竊覘之。則化爲八尋大鰐。而知天孫視其私屏、深懷慙恨。既兒生之後、天孫就而問曰、兒名何稱者當可乎。對曰、宜號彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊。言訖乃渉海俓去。于時、彦火火出見尊、乃歌之曰、

 

飫企都鄧利、軻茂豆勾志磨爾、和我謂禰志、伊茂播和素邏珥、譽能據鄧馭㔁母。

 

亦云、彦火火出見尊、取婦人爲乳母・湯母、及飯嚼・湯坐。凡諸部備行、以奉養焉。于時、權用他婦、以乳養皇子焉。此世取乳母、養兒之縁也。是後、豐玉姬聞其兒端正、心甚憐重、欲復歸養。於義不可。故遣女弟玉依姬、以來養者也。于時、豐玉姬命寄玉依姬、而奉報歌曰、

 

阿軻娜磨廼、比訶利播阿利登、比鄧播伊珮耐、企弭我譽贈比志、多輔妬勾阿利計利。

 

凡此贈答二首、號曰舉歌。海驢、此云美知。踉䠙鉤、此云須須能美膩。癡騃鉤、此云于樓該膩。

 

一書曰、兄火酢芹命、得山幸利。弟火折尊、得海幸利、云々。弟愁吟在海濱。時遇鹽筒老翁。老翁問曰、何故愁若此乎。火折尊對曰、云々。老翁曰、勿復憂。吾將計之。計曰、海神所乘駿馬者、八尋鰐也。是竪其鰭背、而在橘之小戸。吾當與彼者共策、乃將火折尊、共往而見之。

 

是時、鰐魚策之曰、吾者八日以後、方致天孫於海宮。唯我王駿馬、一尋鰐魚。是當一日之內、必奉致焉。故今我歸而、使彼出來。宜乘彼入海。入海之時、海中自有可怜小汀。隨其汀而進者、必至我王之宮。宮門井上、當有湯津杜樹。宜就其樹上而居之。言訖卽入海去矣。故天孫隨鰐所言留居、相待已八日矣。久之方有一尋鰐來。因乘而入海。毎遵前鰐之教。

 

時有豐玉姬侍者、持玉鋺當汲井水、見人影在水底、酌取之不得。因以仰見天孫。卽入告其王曰、吾謂我王獨能絶麗。今有一客。彌復遠勝。海神聞之曰、試以察之、乃設三床請入。於是、天孫於邊床則拭其兩足。於中床則據其兩手。於內床則寛坐於眞床覆衾之上。海神見之、乃知是天神之孫。益加崇敬、云々。海神召赤女・口女問之。時口女、自口出鉤以奉焉。赤女卽赤鯛也。口女卽鯔魚也。

 

時海神授鉤彦火火出見尊、因教之曰、還兄鉤時、天孫則當言、汝生子八十連屬之裔、貧鉤・狹々貧鉤。言訖、三下唾與之。又兄入海釣時、天孫宜在海濱、以作風招。風招卽嘯也。如此則吾起瀛風邊風、以奔波溺悩。火折尊歸來、具遵神教。至及兄釣之日、弟居濱而嘯之。時迅風忽起。兄則溺苦。無由可生。便遙請弟曰、汝久居海原。必有善術。願以救之。若活我者、吾生兒八十連屬、不離汝之垣邊、當爲俳優之民也。於是、弟嘯已停、而風亦還息。故兄知弟德、欲自伏辜。而弟有慍色、不與共言。於是、兄著犢鼻、以赭塗掌塗面、告其弟曰、吾汚身如此。永爲汝俳優者。乃舉足踏行、學其溺苦之狀。初潮漬足時、則爲足占。至膝時則舉足。至股時則走廻。至腰時則捫腰。至腋時則置手於胸。至頸時則舉手飄掌。自爾及今、曾無廢絶。

 

先是、豐玉姬、出來當産時、請皇孫曰、云々。皇孫不從。豐玉姬大恨之曰、不用吾言、令我屈辱。故自今以往、妾奴婢至君處者、勿復放還。君奴婢至妾處者、亦勿復還。遂以眞床覆衾及草、裹其兒置之波瀲、卽入海去矣。此海陸不相通之縁也。一云、置兒於波瀲者非也。豐玉姬命、自抱而去。久之曰、天孫之胤、不宜置此海中、乃使玉依姬持之送出焉。初豐玉姬別去時、恨言既切。故火折尊知其不可復會、乃有贈歌。已見上。八十連屬、此云野素豆豆企。飄掌、此云陀毗盧箇須。

 

彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊、以其姨玉依姬爲妃。生彦五瀬命。次稻飯命。次三毛入野命。次神日本磐余彦尊。凡生四男。久之彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊、崩於西洲之宮。因葬日向吾平山上陵。

 

一書曰、先生彦五瀬命。次稻飯命。次三毛入野命。次狹野尊。亦號神日本磐余彦尊。所稱狹野者、是年少時之號也。後撥平天下、奄有八洲。故復加號、曰神日本磐余彦尊。

 

一書曰、先生五瀬命。次三毛野命。次稻飯命。次磐余彦尊。亦號神日本磐余彦火火出見尊。

 

一書曰、先生彦五瀬命。次稻飯命。次神日本磐余彦火火出見尊。次稚三毛野命。

 

一書曰、先生彦五瀬命。次磐余彦火火出見尊。次彦稻飯命。次三毛入野命。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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