給料一件顛末(てんまつ)

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 今の会社に雇い入れて貰ったときに給料の相談をした。

 会長は私が提出した当時の源泉徴収票などを仔細に検分し、「あなたが今貰っている程度までなら払える」と言った。が、私はあべこべに、慌ててこれを辞退し、「その半分でお願いします」と値切ってのけたものだ。これを私は、前代未聞の珍事だと評価している。給料を貰う側が値切るなんて、実際珍事だろう。

 会長も耳を疑ったようで、「ハァ?!何を言ってる。……どういうことだ」と尋ね返してきた。

 これには理由がある。自衛官は “給料一件顛末(てんまつ)” の続きを読む

繁盛店・潰れ店雑想

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 Facebookのタイムラインに、時々「更科堀井」の広告が出る。更科堀井は私が好きな蕎麦(みせ)の一つで、麻布十番にある。(たま)さかに麻布や六本木近くに寄ることがあると手繰(たぐ)りに行く。

 独特の白い更科蕎麦は(しなや)かで旨い。勿論その味は昔から名代(なだい)のものだ。とても繁盛していて、いつ行っても混んでいる。

 更科堀井の広告には、季節ごとに、おいしそうな種物(たねもの)がよく出る。

 蕎麦屋は季節の蕎麦をいろいろと用意できる。一見バリエーションがなさそうな(もり)蕎麦や(ざる)蕎麦でも、桜や茶、海老、柚子など、季節のものを練り込んだ「変わり打ち」が出る。天婦羅蕎麦であれば、天種には色々なものがあるから、季節ごとに様々な天婦羅が蕎麦と一緒に楽しめる。汁掛けの温かい蕎麦になると、山菜、(にしん)、松茸、牡蠣(かき)、大晦日には年越蕎麦など、季節の味に事欠かない。

 冬だから牡蠣蕎麦を手繰りに行こうか、春だから桜の変わり打ちを手繰りに行こうか、と、季節ごとに味覚を思い出し、食べに行きたくなる。その季節にしか食べられないから、なんとしても行こうという気になる。

 そんなわけだから、更科堀井のFacebook広告は、折々、季節感一杯に表示され、食欲が刺激される。

 多分、更科堀井は、これからもずーっと人気店のままだろう。よほどのことがない限りは(つぶ)れることなどあるまい。

 他方、ふと、これが新規開店のラーメン屋だったらどうだろう、と思う。

 ラーメン屋は新規開店後、4年から7年でほとんどが潰れてしまい、軌道に乗って生き残るのは8%ぐらいしかない、と何かで聞いたことがある。生き残る店は1割以下だということだ。

 念のために書き添えれば、これは何もラーメン屋に限ったことではなく、更科堀井のような大老舗は別として、蕎麦屋だって同じことだ。潰れるのは飲食店だけのことではなくて、起業した会社は平均すると日本の場合7年で潰れ、世界的には4年で潰れるのだそうである。日本には明治時代から100年も残る会社があるが、こんなのは稀有な例だ。そんな中には例の「東芝」もあるが、アメリカの毒饅頭入り会社など買い取ったせいで軒先が傾いたのは、実に惜しいことだった。

 さておき、ラーメン店が広告を出すにしても、蕎麦屋のように季節ごとに何か、というわけにはいかない。ラーメン店で季節感が出せるものなんて、せいぜい冷やし中華くらいで、あとは年がら年中同じ味、同じメニューである。だから店ごと独自に何かのイベントでも打つか、近隣のイベントに合わせて何かするしかない。あるいは商品開発をしてメニューにどんどん新しいものを加え、それを機会に広告を出し続けるかだ。

 私の住む街に開店するラーメン店は、確かに、まったく長持ちせず、続々と潰れている。特に個人の店は無残に潰れていく。個人で商品開発を行うなんて、経営しながらでは無理というものだろう。いきおい同じメニューばかり出すしかなく、客は開店時に物珍しさで1回行けば、それでもう飽きてしまい、二度と行かない。

 ふと、中小企業診断士の先生がラーメン屋を開店したとしたらどうだろう、うまくいくのかな、いや、ダメなのかな、などと思い浮かぶ。

 結論は多分見えていて、うまくいかないだろう。ラーメンの技術は診断士の先生にはないし、現実のラーメン店経営は経営理論どおりでもないだろう。