青空、古書

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 早春らしく暖かさが増し、青空の広がる好日であった。

 用事があって市ヶ谷まで行った。用事を済ませ、桜樹の蕾に鬱勃と内包されるものが予感される靖国通りをぶらりぶらりと歩き、九段坂を下った。

 神田の古書店街の一画にある蕎麦のチェーン店で遅い昼食(ひる)をとる。最近躍進中の「嵯峨谷」という店だ。このチェーン店は十割蕎麦を290円で出すことで知られる。麺は更科蕎麦に似ているが、これは韓国冷麺のように押し出し式の製麺機で茹で湯に直接押し出して作るのだという。トラッドな蕎麦屋が聞いたら怒り出しかねないが、しかし、この斬新な製法を編み出したことにより、驚くほど安い値段で更科蕎麦によく似た十割蕎麦を供し、しかも食味は悪くなく、すんなりとしなやかで香りも豊かだというのだから、大したものである。

 「出羽桜」を一杯たのみ、「天もり」を肴に飲みかつ手繰ったが、これで千円以下、700円台だというのだから恐れ入る。

 さっさと帰ればよかったのだが、天気が良く、陽気に常日頃の殺伐とした気持ちを(そぞ)ろ忘れ、古書店街でつい足を止めてしまった。

 本屋、とりわけ古書店街で足を止めてしまうと、そのまま古書の瘴気(しょうき)(から)め取られて正気を失い(笑)、ふと我に返ると無駄な買い物をしてしまっていたりするからいけない。だから、普段はガマンして足早に通りすぎるようにしているのだ。それなのに今日は、つい足を止めてしまった。

 2、3時間ばかり時間を(つぶ)してしまう。古典文学の全集もののバラ売りに、「太平記」がないかと探す。

 そうするうち、三茶書店という古書店で、新潮の「日本古典集成」の5冊揃いで4000円というのを見つけた。小遣いもあったし、買いかけたが、正気を失わなかった。ガマン。ホッ。

 ちなみに「太平記」は、岩波文庫の新品だと6巻セット箱入りで、8千円近くする。

 図書館で借りるのではなく、蔵書にしてゆっくり読みたいのだが、金もないことで、仕方がない。

 結局古書は何も買わず。しかし心苦しくもなく、三省堂に立ち寄って1階の洒落た雑貨などを見、それからのんびりと秋葉原まで歩いた。

 早春の風が光る。

 家への土産がわりに、新越谷のスターバックスでマグボトルにコーヒーを詰め、ココアパウダーで香りをつけた。

 ゆっくり歩いて帰宅。

読書

投稿日:

 昨日図書館から借りだした「太平記」の釈本を読み終わる。

 この「太平記」釈本の前書きに、

 『太平記』を初めて読んだ人は、書名と中身との食い違いに驚くことでしょう。「太平」という言葉から、平和を楽しむ人々の姿は想像できても、戦乱を連想することはまずないからです。

……とある。

 思うに、現代の我々も、「軍事」を「安全保障」と言い換え、「軍事研究」を「平和研究」と言い換える。造兵を防衛生産と、歩兵を普通科と、少尉を3尉と、すべて言い換えている。

 畢竟(ひっきょう)、平和は、戦争との対比でしか評価できないような相対的なものでしかない、ということであろうか。名も定かでない作者が、血みどろの戦乱をこれでもかと描き続けて止まない「太平記」を、「太平」の記と題した所以(ゆえん)が、それではなかろうか。


 さて、次の本に移る。同じく昨日借り出した「鼠たちの戦争」上・下巻。映画「スターリングラード」の原作で、実在の狙撃手、ワシーリー・ザイツェフを主人公にした翻訳ものだ。

一杯

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 晩秋の青空がひろがり、やっと秋らしいと言える晴天の一日、明治節らしい、文化の日らしい、美しい日であった。

 早々と風呂に入る。

 私も文化、とばかり、年表など繰りつつ歴史本を読む。太平記の釈本。

 柿の種で一杯。

読書

投稿日:

 先々週の土曜日に他の2冊と一緒に図書館から借り出した「絵でみる江戸の食ごよみ」を今週月曜日に読み終わった。

 江戸時代の食べ物に的を絞った雑学本である。

 幕末頃の雑学本「守貞漫稿(もりさだまんこう)」等に多くの材を得、古川柳を交えつつ万人向けに書かれており、読んでいると取り上げられている食べ物が食べたくなって腹が鳴り、面白かった。

 図書館へ3冊を返しに行き、入れ替えに別の本を借りてくる。

 「太平記」の釈本があったので、それを借りる。実は岩波の原文6巻本をじっくりと腰を据えて読みたいのだが、買うには結構高くつく。それで国会図書館で読んだのだが、国会図書館は借り出しができないので、どうしても読みたいところをポイントを絞って読むしかなく、斜め読みになってしまう。私も自分が読みたい楠木正成伝のところだけを読むにとどまってしまい、食い足りなかった。

 借り出しのできる越谷市立図書館の本館には、この岩波の6巻本があることはあるのだが、自宅最寄りの南部分室にはない。本館から取り寄せもできるとのことだったので、一度申請したのだが、「取り寄せが来たら連絡する」と言われたまま、それっきり連絡がない。

 しかし、この釈本もそう悪くなく、最初のページを(めく)ってみるとちょっと吸い付けられる感じがしたので借り出した。

 国内本の棚を(そぞ)ろ歩いていると、光人社NF文庫の「陸軍戦闘機隊の攻防―青春を懸けて戦った精鋭たちの空戦記」があったので、それも借りることにした。海軍の戦闘機操縦者の手記は坂井三郎中尉の「大空のサムライ」などをはじめ、意外に流布しているものが多いので私も読んでいるのだが、陸軍のものは案外に読んでおらず、しかも加藤中佐などの有名人は早々と戦死しているから、第三者による客観くらいしかない。

 とはいうものの、先頃亡くなった田形竹尾准尉の手記や、樫出勇大尉の対B29空戦録、小山進伍長の飛燕空戦録などは読んでおり、その敢闘ぶりに感動を覚えても来ている。

 そうしてみると、この本も読んでおかねばなるまい。

 戦争からの連想で、以前に見た「スターリングラード」という映画を思い出した。スターリングラードの攻防戦を描いてはいるが、主人公はソ連邦英雄、稀代の狙撃手、ワシーリー・ザイツェフだ。

 たしか原作は「鼠たちの戦争」という題だったはず、と思い出した。なぜ覚えていたかと言うと、映画を見た後原作を読みたくなり、Amazonで検索したのだが、既に絶版となっていて、古本しかなく、読むのをあきらめたからだ。当時、なぜか「図書館で探す」という選択肢や、「古本を買う」という選択肢を思いつかなかった。読みたい本は買って読んでいたからである。今はそんな(こだわ)りなどなくなってしまった。

 そこで、図書館カウンターの検索端末で探してみると、南部分室に在架である。すぐに借り出した。

 結局、借り出した本は、古いにせよ洋の東西にせよ、全部戦争がらみである。

梅松論、赤坂・千早城の戦い

投稿日:

 「梅松論」は「太平記」と並ぶ南北朝時代の軍記で、太平記は南朝・後醍醐天皇寄りだが、この梅松論は足利寄りである。特徴的なのは、太平記・梅松論のどちらもが、楠正成に関しては同情的に記していることだ。

 これを借りて(めく)ってみる。

 ムックでこういうのもあり、これも繰ってみた。

永田町・国会図書館 → 麻布永坂 更科本店

投稿日:

 「暑さ寒さも彼岸まで」と言うが、本当だ。まるでスイッチで切り替えたかのように涼しくなった。虫の声も大きい。

 ただ、今年の秋雨の強さには閉口する。二百十日(にひゃくとおか)前後にはラッシュのように台風が暴れまわり、被害が出た。水害に遭った人にとっては「天高く馬肥ゆる」どころではあるまい。

 そんな土曜の朝だ。曇り空が重い。だが、垂れ込めていても仕方がない。どうにかして元気を出そうとする。

さえずり季題当番

 先週土曜日にTwitterの「さえずり派」俳句つながりの@donsigeさんから今週のお題当番が回ってきていたので、朝はそれを出題した。

 選んだのは「真夜中の月」で、なんとこれでも立派な見出し季語である。小さい歳時記には載っていないが、5巻本の「角川大歳時記 秋」には載っている

 先週のうちにブログの予約投稿でお題を作っておき、自吟も詠んでおいた。プラグイン「Jetpack」のパブリサイズ共有でツイートされる仕掛けだ。ところが、なぜか自吟だけ日にちのセットを間違えてしまったらしく、昨日ポストされてしまった

 なんともしまらぬことだったが、まあ、しょうがない。

国会図書館

 それから外へ出た。

 「太平記」を読もうと思い、最近刊行だからひょっとしてあるかな、と、近所にある越谷市立図書館の南部分室へ行ってみたのだが、検索用のキオスク端末で調べると、所蔵は市立本館で、南部分室には不在架だった。

 バスに乗って市立本館に行くと、バス代が400円や500円はかかってしまう。それならいっそ、と、結局永田町の国会図書館まで出てきた。市ヶ谷までは通勤定期で出られるので、永田町まで行っても残り2駅ほどしか払わなくてよく、往復でも300円ちょいで済んでしまうからだ。

 時間が11時前で少し遅くなっていたので、岩波の「太平記」第1巻の解説と、原書の最初の一巻をだいたい読んだくらい。

 その際に知ったことがある。Amazon・Kindle本で昔の写本の太平記が読めるが、これは1巻108円する。全40巻だと4,320円で、Kindle本としては馬鹿にならない。

 ところが、このKindle本の案内文を読むと、

「本電子書籍は、国立国会図書館が所蔵し、インターネット上に公開している資料で、著作権保護期間が満了したタイトルの画像データを、Kindle本として最適化し制作したものです。」

 とあって、国会図書館所蔵の古文書であることがわかるのだ。

 しかも、国会図書館で閲覧できるだけでなく、ネットで無料で読めることも判明したのであった。

 そのURLはこれだ。

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 とはいうものの、岩波文庫をテキストがわりにして、ゆっくり字面(じづら)を追うと、同じ文章であることがはっきりとわかるのであった。

 それから韓非子の調べ残しを少し読む。「説林(ぜいりん)」の「上」。この前、自分で書いた()み下し文が正しいかどうか確かめるためだ。結果、どうも怪しく、ところどころ違っていることが分かった。だが、まあ、大体合ってるから、もういいやあ、と、特に厳密に手直しはしなかった。

麻布永坂 更科本店

 午後遅く国会図書館から出てみたら、外は土砂降りの雨で、参ってしまう。朝家を出る時になんとか曇りのまま()つかな、と思ったので、傘を持ってこなかったのだ。

 仕方がない。ともかく、濡れながら歩いて駅に行く。

 今日はひとつ、「砂場」の名店、「巴町 砂場」へ行って見ようかと思ったのだが、ウェブで確かめてみると、土・日・祝は休みらしい。残念。

 それなら、永田町から麻布十番までは3駅ほどだから、そっちのほうへ行って見ようと思い直した。

 一昨日(おととい)、畏友F君と麻布十番の「更科堀井」へ行ったところだけれども、何、蕎麦屋に何度も行ったからって文句を言う人のあるわけでもなし。

 麻布十番には他に有名な2店、「麻布永坂 更科本店」と「永坂更科 布屋太兵衛 麻布総本店」がある。今日は一つ、「麻布永坂 更科本店」のほうへ行ってみよう。

img_4775 「麻布永坂 更科本店」は地下鉄「麻布十番」駅の「5a」出口から出ると、道路を挟んで正面すぐ、首都高に近い角の所にある。立派な店構えだから、すぐにそれとわかるだろう。

 高級なそうな店構えだが、蕎麦の値段なんて多寡が知れているから、物怖(ものお)じせずに入る。御一人様(オヒトリサマ)万歳というところだ。

 同源の他の2店と同様、寛延年間(1748~51)頃創業の老舗だが、建物は昔のものではない。だがその分、清潔で新しい。客室のデザインはかっこよく、手馴れた和装の女の人たちがこまめに世話をしてくれる。

 1階はテーブル席が十幾つか。奥と2階に宴席があるようで、今日は何か、どこかの会社の接待の席らしく、賑やかな一本〆(いっぽんじめ)の声がしている。

img_4779 早速一杯頼む。京都の清新、「澤屋まつもと」。甘からず辛からず、真っ直ぐの純米酒である。程好(ほどよ)く冷えて、疲れが取れる気がする。

 通しものには一昨日行った「更科堀井」と同じ、名代の更科蕎麦を軽く揚げて塩味を付けたものが出た。

img_4782 肴に、私のいつもの蕎麦屋でのならい、焼海苔を頼んでみる。

 他店より大きな炭櫃(すみびつ)、大きな切れで出てきた。火もほどよく熾っている。

 ただ、海苔の味は、他所(よそ)のほうが旨いように思った。

 そうは言うものの、炭櫃の蓋を閉めておけば、焼海苔は雨にもかかわらずよく乾き、歯応えも香りもどんどん良くなっていく。旨い山葵(わさび)(つま)んでは直接口に入れて味わいつつ、これまた旨い醤油を焼海苔にたっぷりとまぶし、味わいながらゆっくりと1合をのむ。

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 一杯ほど酒の残った頃おいに、「もり」を一枚頼む。

 「更科堀井」ほど白くはないが、間違いなく「更科」独特の、肌の白い、しなやかな蕎麦である。蕎麦(つゆ)は濃くはなく、あっさり、すっきり、はっきりとした旨いものだ。

img_4786 蕎麦をすっかり手繰り終わって、あとは蕎麦湯をゆっくり飲む。よく蕎麦粉の溶けた、重湯(おもゆ)のように濃い蕎麦湯で、飲みごたえよく、満足した。

img_4789 わかりやすい場所にあり、店は清潔である。肴や酒の種類も多く、堪能できる店だ。

 また、最近の東京の有名店の例に漏れず、白人が「ソバ・ランチ」を試みていたりするのも、まあ、珍しく面白いと思えば、逆に楽しい。

焼き海苔 400円
澤屋まつもと純米(京都)1合 720円
もり 880円
合計 2,000円
他に、通しもの、揚げ蕎麦

 合計2000円、多少高いが、払って惜しい値段ではなく、道楽にちょうど良かった。

 天気の(すぐ)れぬことはこのところ数日と同じで生憎(あいにく)だったものの、名店は(たず)甲斐(がい)があり、良い気分で過ごすことができた。

徹夜明けふらりへろり

投稿日:

 最近続いているパターンだが、今週末も金曜日から泊まり込みで徹夜仕事、土曜日の今朝(けさ)引けた。疲れた。まあ、大変だがこれで口を糊しているのだからしかたがない。稼ぎの分は働く。

 朝9時頃に「七里蹴ッ灰(けっぱい)……」くらいの荒涼たる気持ちで職場の門からまろび出て、帰途についた。秋色が濃い。天気は曇りで、陽光が散乱し、却って眩しい秋の朝だ。樹葉もそろそろ緑に倦み飽いているように見える。

 すっかり涼しくなった風の中を歩く。

 職場近くのスターバックスでコーヒーなど飲んでいるうち、せっかく国会図書館の近くにいるのだから、もう少し「太平記」でも読んでみようか、という気になる。

 無論、あの日本最長の古典文学を今日一日で全部は読めない。だが、国会図書館の活用法として、すばやく資料を調べる、ということがあるから、ひとつ、太平記全40巻、岩波文庫では全5巻だが、このなかから、もともと興味を持った()()けの、楠正成に関する記述の部分ばかり抜き出した目録でも作ってみようではないか。

 市ヶ谷の職場から国会図書館のある永田町までは3~4km程で、さほど遠くない。秋色など味わいつつ歩いても構わないが、どうせなら開館間もない午前9時半の()いているうちに入りたいから、有楽町線か南北線で(ふた)駅、地下鉄で行く。

角川俳句大歳時記でさえずり季題

 先日も書いたが、国会図書館はWiFi完備で、閲覧室ではコンセントも使える。

 そこで閲覧室の机にさっそく店をひろげていると、Twitterの俳句知り合いの@donsigeさんからリプライが来た。「来週の『さえずり季題』出題よろしく」とのことである。

 無論応諾、なんと都合のいい時に国会図書館に来ていることか。いつもは使っていない歳時記をここで借りて、そこから出題しよう、と思いつく。

 私が所有している歳時記は、角川の合本、それから同じく文庫、平凡社のポケット、他にノーブランドのものが一つ二つ、そんなものなのだが、今日は前から手元に欲しいなあと思いつつも高価だから手を出しかねている、あの浩瀚な「角川俳句大歳時記」の秋の巻を借り出して、そこから知らない季語を拾って出題しようではないか。

 さっそく借り出して捲ってみると、あるある。いろんな季語があるじゃあないのグフフフ、というわけで、その中から面白そうなのを選び、来週の出題を作った。

 来週の出題をお楽しみに、というところである。

太平記・楠正成登場の段の題目録

 さて本題の、今日国会図書館へ来た目的、標記のまとめをした。

 次のとおりである。


岩波第1巻

第三巻 笠木臨幸(かさぎりんこう)の事 1

第三巻 (くすのき)謀反(むほん)の事、(ならびに)桜山(さくらやま)謀反(むほん)の事 3

第三巻 赤坂(あかさか)(いくさ)の事、(おなじく)(しろ)()つること 8

第七巻 千剣破城(ちはやのじょう)(いくさ)の事 3

岩波第2巻

第九巻 千剣破城(ちはやのじょう)寄手(よせて)南都(なんと)に引く事 8

第十一巻 正成(まさしげ)兵庫(ひょうご)(まい)る事 5

第十五巻 (おな)じき二十七日京合戦(きょうかっせん)の事 7

第十五巻 (おな)じき三十日合戦(かっせん)の事 8

第十五巻 手島(てしま)(いくさ)の事 11

第十五巻 湊川(みなとがわ)合戦(かっせん)の事 12

岩波第3巻

第十六巻 正成(まさしげ)兵庫(ひょうご)下向(げこう)子息(しそく)遺訓(いくん)の事 7

第十六巻 尊氏(たかうじ)義貞(よしさだ)兵庫湊川(ひょうごみなとがわ)合戦(かっせん)の事 8

第十六巻 正成(まさしげ)討死(うちじに)の事 10

第十六巻 (かさ)ねて山門(さんもん)臨幸(りんこう)の事

第十六巻 正行(まさつら)(ちち)(くび)()悲哀(ひあい)の事 14


 多少漏れがあるかもしれないが、太平記には楠正成に関する記述がこれだけの段にわたって含まれていることがわかった。

 調べながら楠正成の人生を読み、いやもう、涙、涙。

東京・日本橋 室町砂場

 朝からそんなことで、徹夜明けの目をムリヤリ見開いて本なんか(めく)った。

 昼過ぎて腹も減ってきた。

img_4631 図書館を出て、いつもあまり気にしていない、ベンチに座っている銅像にからんでみたりなどする。

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 もう昼も遅い。そこで、今日はひとつ、前から行こうと思っていた、砂場御三家の一軒、「室町砂場」に行ってみようと思い立った。

 この木曜日にも代休で午後がヒマだったから、虎ノ門の砂場に行ったのだ。なんだか、毎回毎回蕎麦ばかり手繰って、我ながら好きだなあ、と思う。先週行った三ノ輪の砂場総本家を勘定に入れるなら、東京の砂場御三家はコンプリートということにもなろうか。

 室町砂場は日本橋に本店、赤坂にもう一軒支店がある。国会図書館のある永田町からなら、赤坂の方が歩いて行けるくらい近いのだが、室町砂場自体に行ったことがないので、今日はひとつ、半蔵門線に乗って日本橋まで行ってみようではないか。

 室町砂場の最寄駅は、神田か、三越前、あるいは大手町である。

 今日の場合、永田町から半蔵門線に乗れば、皇居の北ッかわをぐるりと回り、三越前までものの10分ほどで着く。

img_4648_tern 地下鉄「三越前」の駅の、「A10」という出口から、国道17号線に出られる。「室町砂場」までは歩いて3~4分もかからない。

 奥に坪庭、その左に別仕切りの小部屋、奥に入れ込みの座敷があり、テーブル席が十幾つか。せせこましくなく、ゆっくり座れる。

img_4641 今日も焼海苔に酒をたのむ。これは単純に好物だから。

 チョンと赤いものが乗った小鉢は通しもので、海月(くらげ)を梅肉で()えたものだ。塩気が効き過ぎず、紫蘇(しそ)のいい香りがして、海月はほどよい大きさと歯ごたえだ。飲もうと思えばこの小鉢だけで五合くらい飲んでしまえる気がする。店員さんに訊くと「これだけでお肴のご注文もできますよ」とのことであった。

 この肴と焼海苔、酒を交々(こもごも)やって、杯ひとつ分の酒が残った頃に(おもむ)ろに「もり」を一枚注文する。

img_4646 この店の蕎麦は白くて歯ごたえの良い「さらしな粉」で、つゆは濃いめ、まことに品のある、旨い蕎麦だ。

 薬味の葱は他所でよくあるようなビショビショしたものではなく、香りがよく、しかもシャキッとしていて旨い。栞を見ると、「当店の葱は千住の葱で、水で晒さないようにしています」という意味のことが書いてあって、なるほどと思った。

 テーブルに置かれている栞に、「当店は『たぬき』と『きつね』を置いておりません。それは、お客様を『ばかす』のもいかがなものかという考えからです」という意味のことが書いてあり、なかなか洒落が効いていて、いいなあ、と思った。

 東京屈指の綺麗な名店で気持ちよく一杯飲み、上等の蕎麦を手繰って、全部でちょうど1700円だから、これはそんなに高くない、実に楽しい飲み食いだと思う。

 火災に遭う前の連雀町「かんだやぶそば」、閉める前の上野「池の端藪蕎麦」、それから今も盛業の浅草「並木籔蕎麦」、それぞれ既に行った。

 つまり、これで、東京の蕎麦の名店のうち、籔・砂場と、コンプリートしたわけだ。次は麻布十番の更科(さらしな)、これは3店あると聞くが、この3店へ順番に行って見ようと思う。

 焼ける前の「かんだやぶそば」と、閉店した「池の端籔蕎麦」は、惜しいところでギリギリ滑り込みだったな、という気がする。先日池の端へ行った時、思いがけず重機で取り壊しているのを見て、愕然としたものだ。

道路原標

 微醺(びくん)を帯びて室町砂場を後にし、川沿いに日本橋のほうへ歩く。

 東京・日本橋の名物といえば、かの有名な「道路原標」というものがある。残念なことに、今までにこれを見たことがなかった。実は先日神田川クルーズに乗船してみた時に日本橋に来ていて、その時見れば良かったのだが、道路原標のことは全く念頭になく、すっかり忘れていた。

 この「道路原標」は、日本の道路里程はすべてここから測られるという原標で、日本橋の中央の道路表面に埋め込まれている。いつもは車がビュンビュン通るので、実物は遠目にしか見られない。観光客は橋の北詰めにある複製の道路原標を見学するのがならわしだ。

 ところが、今日日本橋まで来たそのとき、たまたま、日中にもかかわらず、信号の成り行きで自動車が日本橋上から一台もいなくなった。北の信号も南の信号も赤で、車が入ってこない。交通量は結構多かったのに、本当にたまたま、そういう瞬間が訪れた。

 今だ、というわけで、ゆっくりと日本橋の真ん中まで歩き、落ち着き払って、真正の「道路原標」を写真に収めることができた。これはラッキー。

img_4651 これがその写真である。

 

代休・免許・蕎麦・図書館・無月

投稿日:
免許更新でどうも釣り銭200円貰ってないみたいで腹立つ

 代休をとり、越谷警察署へ運転免許の更新に行く。

 交通安全協会には5年分気前よく支払った。手数料等と合わせて4800円。

 5千円渡したのだが、お釣りがないようなので、「あのう、お釣り貰いましたかね?」と訊くと渡しましたよと言う。

 どうも貰ってない気がするのだが、窓口が混雜していてこちらもそれに気をとられ、はっきりしないし証拠も根拠もないので、釈然としないまま、後ろに他にも人がいたこともあり、そのまま窓口をはなれた。

 講習を受けている間、「やっぱりお釣り貰ってないよなァ」と思えてきて、腹が立ち、講習に集中できず、講習内容にまで腹が立った。しかし今更窓口に蒸し返しに行ったところでどうにもならないことも見え透いている。

 多分、朝の時間特有の窓口の混雑だったし、出納をしていた職員の手元を見るともなしに見ていると、収授の順序を混交してしまったり、札をかぞえる手が慌てたりしていたので、それで私の釣りを渡したことにしてしまったのだと思われる。

 折角交通安全協会費を気前よく5年分も払ったのに、そんな自分が馬鹿に思えてきて、余計腹が立った。

虎ノ門・大坂屋砂場へ行ってみる。

 そのような事などありつつも10時過ぎには免許の更新が終わる。仕事に行ったところで通勤時間を含めると中途半端で仕事になんかならないことはハナから分かっていたから、今日は無駄に丸一日代休を取ってある。だから午後はヒマ。

 気をとりなおし、出かけることにする。

img_4622 ひとつ、前から食ってみたかった蕎麦を食ってみよう、というわけで、エッチラオッチラ、平日の虎ノ門まで出てきた。もちろん目当ては「虎ノ門・大坂屋砂場」だ。

img_4625 混んでいたので私は2階へ通され、知らない人と相席になったが、広い座卓だったのでどうということもなく、私は背後に見返り美人図のかかったところへ座を占め、ゆっくりすることができた。店内には他にも古い額などがかかっており、清潔で、サービスもよかった。

img_4627 お安いところで「澤ノ井」の純米を1合と焼海苔を頼む。酒の通しものは藪などの蕎麦みそとは違い、昆布の佃煮が出る。いい感じの塩加減で、酒に合う。焼海苔は藪と同じように炭の熾った小さい炭櫃に入れてくる。

img_4628 ほどよく飲んだ頃に「もり」を1枚。旨い。酒と蕎麦はそんなに高くない。一品500円~600円がところである。今日も酒と肴と蕎麦で1500円と少しというところであった。

img_4630 「砂場」を出て、駅までの間に金刀比羅宮を見つけたので拝んでいく。

国会図書館へ寄る

 そういえば、と思いつき、国会図書館に行くことにする。この前三ノ輪の砂場総本家でゆっくり読めなかった「新撰 蕎麦事典」というのをもう一回確認してみようと思ったのである。それから、岩波の太平記も(めく)ってみたい。

 虎ノ門から国会図書館までは銀座線渋谷行きで溜池山王まで一駅、南北線に乗り換えて永田町まで一駅である。

 以前の国会図書館は「デジタル」の持ち込みに非常に厳しく、メモなんか取るためのノートパソコンもダメだったが、最近は大躍進しており、利用者登録がしてあれば自宅からコピーを頼むことも可能だし、館内のどの端末からも非接触IDカードで申し込んだ図書の到着状況などを確認可能で、インターネットも利用できるし、なにより自分のPCが持ち込み可能、しかも5GHz帯のWiFiが無料で使えるのである。

 早速、「新撰 蕎麦事典」を探し出す。この前三ノ輪の砂場総本家で見かけた本には確かにISBN-10で「ISBN 4879931011」と奥付に書かれていたのだが、帰宅してからネットで検索しても見つからなかった。

 国会図書館で探すとすぐに見つかり、本を開けば三ノ輪・砂場総本家で見たのと同じものであることが一目でわかったが、こちらにはISBNがついていなかった。こういうことというのは、あるものである。

 その中に、次のような項目があった。

(以下 「新撰 蕎麦事典」(新島繁 編、平成2年(1990年)11月28日初版発行、(株)食品出版社)から引用)

(「さ」項の中に)

さらしな 更科 更科の総本家は東京・麻布十番にある永坂更科。寛政2年(1790)に初代太兵衛(8代目清右衛門)が「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」の看板をかかげた。これよりさき寛延(1748~51)ごろ、すでに横山町甲州屋が「さらしなそば」、浅草並木町斧屋の「更科そば」のほか、店名の上に「信濃」「戸隠」「木曽」「寝覚」などを冠するほど信州ソバの名声が高かった。永坂更科の看板商品は一番粉を使った白い御前そばで、本店のほか神田錦町・銀座・有楽町更科などが身近かな系列店として知られる。更科の屋号は、更科そばが喧伝されて生まれた俗称であろう。現在麻布十番には、永坂更科布屋太兵衛(小林正児社長)、麻布永坂更科本店(馬場進社長)、更科堀井(8代目・堀井良造社長)の3店がある。

(「す」項の中に)

すなばそば 砂場蕎麦 元祖の和泉屋の創業は定かではないが、絵師長谷川光信の享保15年(1730)版『絵本御伽品鏡』下巻に「いづみや」の暖簾をかけた店頭図がのせてあり、当時すでに営業していたことがわかる。江戸時代、大坂新町遊郭の旧西大門のあった新町二丁目と同三丁目の境にあたる南北筋の南側小浜町は、俗に砂場と呼ばれていた。土地のものは砂場にあるそば店というわけで「砂場そば」略して「砂場」といった。当初はうどんの方が有名だったようである。幕末には衰退しはじめ廃業の年代は未詳。

 一方、江戸では寛延(1748~51)のころ、薬研堀の大和屋が「大坂砂場蕎麦」の看板をかかげていた。砂場そばが江戸へ進出した経緯は明らかではないが、和泉屋の一族よりもそこで修業したゆかりの者が、砂場の盛名にあやかるための名目だったかも知れない。その後、浅草黒船町角・砂場重兵衛、糀町七丁目・砂場藤吉、茅場町・砂場大坂屋、久保町・砂場長吉などの名店があらわれた。

 文化(1804~18)のころ評判の高かった麹町七丁目砂場から慶応年間に室町砂場、明治5年に虎ノ門砂場がそれぞれ独立した。巴町砂場は前記久保町・砂場が立退き命令によって天保10年(1839)に巴町に移転した老舗。大坂に源を発した砂場そばは江戸に根をおろし、現在は砂場の暖簾会を運営するなど繁栄を続けている。

【挿絵】

大坂砂場のそば店和泉屋の図。広い店内とうしろの「かつお蔵」「そば蔵」「むぎ蔵」「醤油蔵」「臼部屋」が目を引く
竹春朝斎(信繁)画『摂津名所図会』より

(「や」項の中に)

やぶそば 藪蕎麦 雑司ヶ谷鬼子母神の東の方の藪のなかにあった百姓家の「爺が蕎麦」が藪そばの元祖。現在の雑司ヶ谷1丁目付近と思われる。当時「藪の内」とも呼ばれた。寛政10年(1798)版『若葉の梢』下巻によると「藪の内そば切はぞふしがやの名物にて、勘兵衛と云ける。参詣の人行がけに誂えて、戻りには出来して置けり。百姓家にて、商人にてはなかりしが、今は茶屋(てい)(なる)。諸所に其名を出すといえども、元来其家の徳なるべし」とある。寛政当時その盛名にあずかろうと、藪蕎麦を名乗る店が方々にあらわれた。その一つに深川藪の内(現江東区三好町4丁目に開店した藪蕎麦(薮中庵とも)は、文化12年版の番付「名物商人ひゃうばん」にあげられたばかりでなく、幕末の江戸切絵図にものるほどの有名店になった。

 その後、駒込千駄木町の団子坂藪下にあった蔦屋も藪蕎麦とも呼ばれて大いに繁盛した。その蔦屋が神田連雀町(現神田淡路町2丁目)に支店を出していたが、明治13年に砂場系の浅草中砂4代目堀田七兵衛が譲り受けた。七兵衛は経営の才に恵まれ、団子坂の本店なきあと藪の暖簾をあずかり、名実ともに藪の本家として現在に至っている。この本店のほか浅草並木藪、上野池之端藪があり、いわゆる藪御三家となっている。藪そばは藪之内・藪下から名づけられた俗称。江戸っ子は正式な屋号より俗称で呼ぶことで親しみを感じていた。

【挿絵】

駒込団子坂(東京都文京区)にあった藪蕎麦「蔦屋」。離れ座敷もしつらえてあった。

(以上引用)

 この前三ノ輪の砂場総本家で見たこの本は、もうこれでもかというくらい一杯書き込みや付箋があり、傍線が引かれて表紙もボロボロになっていたのだが、上に引用した「砂場蕎麦」のページに付箋が打たれ、「糀町七丁目・砂場藤吉」のところに傍線が引かれて、「当店のことです」と鉛筆の書き込みがあったのである。

 それから、岩波の「太平記」を借りる。

 右のように全部で5巻ある。国会図書館では一度に借りられるのは3冊なので、分けて借り出す。この前まで確か5冊まで借りられたのだが、なんだか利用者が増えたのか、3冊までになってしまったようだ。

 もちろん、いかに不肖・私こと佐藤といえども、文語体のこんな分厚い本を四半日(しはんにち)で全部読めるわけはなく、確かめたかった楠正成に関するところの記述を拾い読みするだけである。

 私が(めく)ってみたいと思っていた「湊川の合戦」は、

  •  「太平記 第十六巻 尊氏(たかうじ)義貞(よしさだ)兵庫湊川(ひょうごみなとがわ)合戦(かっせん)の事 8」(岩波文庫で第3巻p.65~)、
  •  「同 正成討死(まさしげうちじに)の事 10」(同 p.77~)

……というあたりにあることがわかった。

 しかし、ゆっくり読んでいる暇はなく、また国会図書館はどんな本でもある代わりに、館内閲覧のみで、「借り出し退出」はできず、閲覧時間切れとなってしまったのだった。

 ただ、「新撰 蕎麦事典」とは違って、「太平記」は最近発売された岩波文庫のラインアップなので、借り出しのできる近所の図書館にもあるだろう。

 ただ、これ、手に入れて所蔵したいのもやまやまなんだよねえ。

無月

 更けてきて帰る。今日は旧八月十五日で「中秋の名月」だが、月は見えない。どうやらいわゆる「無月(むげつ)」というやつだ。

 月は見えなくても、雲の裏には月がある。ないけど、ある。むしろその方が月の存在感は増す。それで「名月」とか「十六夜」などという言葉とともに、この「無月」も秋の季語として「月」の傍題になっている。

いくたびか無月の庭に()でにけり 富安風生

太平記読みたいけど、う~ん……

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 昨日思い付きで楠公(なんこう)像の前で記念写真など撮ったのだが、ふと連想して、「太平記」を読んでみたいなあ、などと思ったのだった。楠正成伝を辿りたいなら、なんと言っても、太平記でしょうからね。

 古典だから、青空文庫かどこかにフリーテキストでもないかな、と思ったのだが、意外に、ない。

太平記1ページ Kindleではバラ売りで1冊108円のがあるが、これがなんと国会図書館所蔵の写本をデジタル化したというしろもので、原典通り40巻もある上、写真の通り変体仮名のオンパレード、これでは不肖この私といえども読むのに倍も3倍も時間がかかってしまう。Kindle Unlimitedの会員なら30日間無料だというから、その間に全巻ダウンロードしちまう、というテがあるが、なにしろ、写本をそのままデジタル化したやつだからなあ……。

 岩波で出てないのかなと思って検索したら、なんと、岩波でも文庫化したのはやっと一昨年の春のことらしい。全6巻だそうだ。……そうすると、古本市場にも美本はまだまだ出ていなさそうだ。この前までの「千一夜物語」みたいに都合よく手に入らないかな、とチラリと頭をかすめたものの、こういう状況だから無理だろう。

 図書館で借りて読む、というのが、妥当なところかなあ……。しかし、手に入れて愛蔵したいのもやまやまだし、岩波の6巻モノを図書館通いで読めるほど暇でもないし。通勤電車で読むのが性に合っているが、図書館貸出の本を満員電車に持って入るとモミクチャになって傷めてしまうし。

 吉川英治の「私本太平記」は著作権切れで青空文庫入りしてるから、Kindleでも0円なんだが、どうも、原典のほうを読みたいんだよなあ……。