毎日のように野暮用があって、不自由きわまる。
今日もなにかと用事があり、ああ不自由だ、嫌だなと思っていたら、ふとキャンセルされてしまう。こういうことが必ずあるとハナからわかっているから、かえって責任のある約束をすることもできず、面白くない。
ただ、こうしてポッカリと空いてしまった時間と言うのが逆に自由なもので、これはこれで悪くない。
だから、これしきのことで腹など立てないのが処世というものだろう。
それならばひとつ、というわけで、毎回同じことばかりだが、こういう時には好きな食い物に限る。都内の職場近くにいるならまっすぐここだ。「神田・やぶそば」。
まず菊正宗を一合、焼海苔をたのむに決まっている。
飲み終わったら、そりゃあ、もう、決まったように「せいろ」を一枚、ツルツル~、……と、これに限る。
今日は曇りのち雨との天気予報だったのだが、雨などとは言うも愚か、真っ青な空がどこまでも広がって、しかも秋の匂いがそこかしこに吹き散っている。
万世橋のあたりから水面を眺めているうち、そういえば、この川にも観光船があったな、と思い出す。たしか、「神田川クルーズ」というようなことだったはずだ。
スマホは便利なもので、「神田川クルーズ」で検索すると、すぐに出てくる。日本橋のたもとから出発すると言う。
地下鉄・神田から日本橋までは二駅。「やぶそば」から神田の駅までは、ダラダラ歩いて10分弱ほどだ。
銀座線に乗り、日本橋駅を適当に降りると、銀座高島屋のあたりへひょいと出る。地上は紺碧の空が眩しい。
日本橋の看板のある、この景色の右手に観光船の乗船場がある。神田川観光は90分で2500円だ。近くのミニストップでウィスキーのポケット瓶を一本買って、迷わず乗ってみる。
築地に魚市場が移る前は、今の日銀があるところの対岸辺りが「魚河岸」で、ここで江戸の食べ物を引き受けていたのだそうである。
観光船は出ると早速、ガイドさんの名調子で日本橋の下側の焼け焦げを案内する。これぞ関東大震災で火だるまになった船によって焼け焦げた、まごうかたなきその跡だそうな。
船は日本橋川から神田川、隅田川にも出てぐるりと一周する。都内の「濃い……」ところを、年季の入ったガイドさんの案内でミッチリ90分回るわけだから、面白くないわけがない。
明治時代から変わらない橋や建造物も多い。が、バリアフリーのために工事中である、という、一時的に殺風景なものも多くあり、これは東京オリンピックを睨んでのものでもあろうか。
隅田川まで出てくると東京スカイツリーの眺めも良く、残暑とてまだ暑いものの、青天白日、補って余りある川風の豊かさである。
ウィスキーのポケット瓶を空けてしまい、面白おかしい暇つぶしになった。