ナイアシンと夢見

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 数年前から、物忘れが気になったり、どうでもいいようなことにクヨクヨと悩ましかったりするので、ネットで検索して「ナイアシン」のカプセルを購入し、時々それを服用している。

 ナイアシンというのは「ビタミンB3」のことで、ごくありふれたビタミン剤だ。

 まさか向精神薬とか覚醒剤の類ではないから、()んだからといってスカンポーン!……と人生が薔薇(バラ)色に変わるというようなものではない。

 だがしかし、服用した日には思考力や集中力になんとなく好調を覚える。最近減退を覚えるようになった記憶力などにも、やや好転を感じる。偽薬(プラシボ)効果というのもあるのだろうけれども、それだけではないようだ。

 このナイアシンカプセル、必ずしも毎日欠かさず服用しているわけでもないのだが、服用した日とそうでない日とで、ふと気づいた違いがあった。夢見が違うのである。

 ナイアシンを服んで寝た次の明け方には、なんだか、昔の夢や昔の生活や、いろいろな不安や景色が織り交ぜられた面白い夢を見る。必ずしも快適な夢ばかりではなく、その夢の恐怖や不安から逃れようと無理に目を覚ますような夢も多いが、だが、面白くはある。

 ナイアシンは脳内の重要ホルモンであるセロトニンやドーパミンの生成に必要な酵素なのであるという。それで多少夢見に影響があるものなのかもしれない。

 

 

The decoration meat bun

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 朝起きて、顔を洗って着替え、いつものようにリビングのカウンターに向かうと、妻が朝食を出してくれる。

 いつもはジュース、トースト、目玉焼き、コーヒー、牛乳など、だいたいそんなものだが、たまにはホットサンド、シリアル、ホットケーキなども出る。

 今日も欠伸(あくび)をしながらおはようと言ってスツールに腰をかける。妻は「今日はコレよ」と、「肉饅(にくまん)」を出してきた。前にも一度か二度はこんな朝食もあったが、珍しいことだ。

「いただきまーす!」
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 しかし、今日の肉饅は通常の肉饅ではなかった。肉饅の底面の平らな面が上になっており、普通はそこに丸い経木(きょうぎ)か紙が貼り付いているものだが、それがきれいにはがされていて、なめらかな白い肌になっている。その平らな面が白い生クリームで縁取られ、ショートケーキのようにデコレーションしてあって、赤や黄色のアラザンが振りかけてあり、真ん中辺に薄手のチョコレート片があしらってある。少しばかり金箔が飾られていて、なにやら美しいが、土台は温かな肉饅なのが変だ。

「ふへっ!?……ジュンコ、こ、これは……?」

「……?何、お父さん、これ、知らないの?最近『めざましTV』でやってて、すごく流行(はや)ってるのよ。」

「ははあ、流行りか。流行りならしょうがない。どれ……」

 てっきり、これはこういうお菓子風に作るための専用の肉饅で、中身は悪くしてもせいぜい餡饅(あんまん)だろう、と思ってかぶりついてみたのだが、

「ぐはっ!……かーちゃん、コレは、肉饅ではないか」

「……??肉饅ではないか、って、当たり前じゃない。そうよ。おかしい?」

「い、いや、……。おかしい、っていうか、うーん」

「お醤油つけるのよ、ほら。あと、練り辛子」

「ぬぅ」

 生クリームと醤油と中華オイスターソースの風味がよく利いたひき肉や(タケノコ)の具と練り辛子とチョコレートの珍奇きわまる味のハーモニーである。受け入れがたい。

 だがしかし、「これは流行っているんだ、人々が皆いいと言っているんだ、新聞だってテレビだって、有名な芸能人や評論家がこれはイイと言っているんだ、朝日の社説だって天声人語だってこれをきっと評価するのは間違いない、間違っていないんだ!!だから旨いものなのだ!飲み込め!受け入れろ!」と、無理やり賞味しているところで目が覚めた。

 ああ、中途半端に面白くもない夢だったなあ。

 平成二十七年大晦日、最後の夢が、デコレーション肉饅だったのは、なんの祟りであろうか。業の浅いこっちゃ(笑)。

 せめて明後日、初夢にはもう少し何か、富士とか鷹とか茄子とか、そういう夢を見たいものである。

犬入札

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 私はなぜか犬の調達の発注側の担当者で、入札をかけなければならないことになった。

 発注側担当者であるからには、犬についてどんなことでも知っていなければならない。しかし、私は犬については素人であり、そのような部署に配置されて、毎日困り果ててしまっていた。

 そんな日々、これもどうしたわけか、某大手IT企業で営業をしていたはずの知り合いが、なぜか犬屋の営業に転職しており、知り合いの(よし)みで、陰でいろいろと教えてくれた。とても助かった。

 ある日、なんだか、マスチーフとゴールデンレトリバーと(ちん)などを一緒くたにしたような大型犬の写真が問題になった。はっきり言って醜い犬で、肥満しており、目つきもぼんやりと小さく、毛足もボサボサだ。肩の高さは50センチか60センチもあるが、贔屓(ひいき)めに見ても賢そうとは言えない。

「これ、何ですか?」

と、その知り合いの犬屋の営業氏に聞いてみたら「これはチワワだ」という。

「へっ?チワワ!?そんなバカな、チワワは小型犬でしょう?」

「あ、佐藤さん、佐藤さんは犬が専門でないからご存知ないと思いますが、チワワを飼うときは、育たないように餌をあまり与えないようにするんですよ。そうするとずっと小型の愛らしいままなんですが、つい可愛さに負けて、ほしがるだけ餌を与えると、どんどん大きくなってしまって、こういう阿呆(あほ)のような姿になってしまうのです。大きくなっても知能は小型犬のままで、盲導犬とか救助犬とか警察犬とかの使役犬には使えないし、ウドの大木みたいなもんで、病気にもかかりやすくなって、困ったことになるんですよね」

「へぇーっ……そ、それは、し、知らなかったなあ。い、いやあ、いつもいろいろと教えてくださって、本当にありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして。……そういえば、もうすぐ公示でしたっけ、どうか佐藤さん、よしなにお取り計らい下さいよ」

「すみませんねえ、いつも直接お力になることができなくて……」

「いやあ、わかっておりますよ、佐藤さんのお立場は。祈ってくださるだけで結構ですよ」

……などというほのぼのとした会話があった。

 入札は電子入札になった。ところが、この営業氏は電子入札に1分ほど遅れてしまって、入札できなかった。締め切りになるところを、契約担当部署に入札書持参で大慌てで駆け込んできて、システム障害のための不可抗力だ、どうか何卒(なにとぞ)、非電子入札の書面で受付をお願いします、と懇願した。

 契約担当者も渋い顔をしたが、熱心に平身低頭する営業氏に負けてしまい、つい、入札書を受け取ってしまった。

 結局、落札したのはこの営業氏の商店だった。予定価格と比べて適正だし、なにより最も安かったのだから、それはルールどおりといえばルールどおりではある。

 ところが、納品内容の説明を聞くと、例のデカくなってしまって役に立たない、ウドの大木チワワを納品するというのである。契約担当者は腹を立て、

「あなたねえ、本来だったら遅刻した時点で資格喪失してるの、わかってるでしょう?本当なら落札できないんですよ!?それをこんなバカ犬を納品しようって、何を考えてるんですか」

「でも、でもでも、結局は入札をお受けくださったじゃないですか、ひっくり返すのはずるいですよ。仕様書には『犬』としか書いていないはずです。公定の仕様書にしたがって落札したんですよ。それに、約立たずのでくチワワだって、命のある生き物なんですよ、あなたにはそういう万物の霊長としての慈悲ってものはないんですか」

「キミは何を言っているんだ!」

……と、いうようなモメごとに発展して、発注担当の私が契約担当と営業氏の間に立ってオロオロしているというところで、目が覚めた。

 ああ、よく寝た。それにしても、ヘンな夢だったなあ。

 今日もメシは一つ覚え、チョコレート3かけら、()れたてのアイスコーヒー。