計画編


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  •  家の計画
  •  本サイトでは、ここまで、私が建築しようとしている家のことについてあまり触れなかった。記述上ややこしかったからだ。実際には大手不動産業者SHの営業KM氏と建築家のN氏は連れ立って私を訪れたのであり、当初の段階から土地と建築の計画は同時並行的に進めつつあった。と言って、私が購入した土地は、よく耳にする「建築条件付」というやつではない。「建築条件付」というのは、確かに土地は土地で売り、その上に注文建築をするのではあるが、ただし何ヶ月か以内に売主側が指定する業者で住宅を建てて下さい、それが守られないときは即契約解除、手付金と共に違約金を頂きます、というような土地のことだ。

    KURA建築診療所・あとりえくら

     私が買った土地は建築条件付ではないが、KM氏とN氏は当初から「この土地に住まいを立てた場合はコレコレこういう値段になります」というプランで持ってきていた。だからこちらも、最初から建築家N氏に頼むつもりであった。

     N氏は地元で住宅の設計をしている新進建築家なのであり、私が買った土地の周辺で見かける十数棟のヘンな住宅は、ほぼすべてN氏の仕業である。

     最初に私達が案内された家も周囲の家と比較すると驚くほど際立っていた。新築で色が派手、ということももちろんあるが、身にまとっている雰囲気が違うんである。質実にして剛健、剛健にして優美、優美にして冷静、冷静にして情熱、と、いうようなシロモノである。

     N氏がKM氏と一緒に最初に訪れた日、私に提案してきたのは次のような住宅であった。


    イメージ図


    1階


    2階

     来た最初の日にこんなの持ってくるとはたいしたスピード、と私は思ったが、後でよく考えたら、これは輸入住宅カンパニーB社の出来合いのヤツをそのままうつしてきただけであるので、ソレぐらいでできてアタリマエである。

     それはそれとして、この住宅は

    •  輸入住宅である
    •  注文住宅である
    •  ツーバイフォー工法である

     という点に大きな特徴がある。

     ツーバイフォーというのは、簡単に言うと「アメリカの在来工法」である。柱ではなくて壁で出来ている。2インチ×4インチの木材をたくさん使うところからツーバイフォーと呼ばれている。

    社団法人日本ツーバイフォー建築協会のホームページ

     私は阪神大震災で何十人と言う気の毒な方々の御遺体を収容した。そんな私が

    在来工法の家になんか住めるか!

     と思うのは当然というものである。

     私が収容した方々は、残念にも既に全員亡くなっておられた。謹んでご冥福をお祈りするものである。

     で、たまたまかもしれないが、私が収容した方々は、

    全員木造の軸組み工法住宅に住んでいて、
    倒壊により亡くなっていた

     のである。

     悲しみのうちに仕事をしている私のほうに、倒壊した木造軸組み工法住宅の隣の無傷のツーバイフォーに住んでいるネェチャンが近寄ってきて、サバサバした顔で、

    「ネェ、お財布がウチの中にあるんだけど、入っても安全かしら」

     などと作業中の私に聞いたものだ。そういう家は、たとえば、

    ○ 窓が少なく
    ○ ま四角なつくりで
    ○ 洋風な感じで
    ○ どれも比較的新しいめ

    であったため、それが当節流行のツーバイフォー工法の住宅であることは、素人である私にもよくわかった。

     もちろん、建物にも経年変化というものがあり、木造軸組であるとツーバイフォーであるとを問わず新しい間は強度もある。また最近は建築に関する法律や条例も非常に厳しくなり、頑丈な作りで建てるようになったらしい。木造軸組も複雑な「筋交(すじかい)」をタテヨコに組み合わせ、これでもかというほど金属物を打ちこんで組み立てるので、めったなことでは倒壊しないようになっているらしい。したがって木造軸組でも相当な強度があることは理解できる。

     しかし、実際の愁嘆場において私の頭の中にスリこまれた感覚は、どうしても拭い去れるものではない。

     戦闘機で言えば「軽戦闘機」であり、自動車で言えば「モノコックボディ」であるといえるツーバイフォーは、地震国日本にこそふさわしいものであると考えるものである。

     唯一不安な点は、

    「ツーバイフォーって、・・・湿気がこもりそう」

    という点であろうか。しかし、それとて人工通気のシステムや、最新の床下構造により相当改善されているはずである。



  •  二つ目の提案
  •  さて、私が土地の契約をして、間取りなどの概略の要望を伝えた次の週の土曜日。

     私が間取りなどに関して次のような要望をしたことは、「『土地編』の間取りなどの要望」のところで記したとおりである。

    •  4LDKみたいに使える3LDKがほしい。
    •  和室は不要。
    •  巨大で収納の多いリビング。
    •  2階にリビング・台所を。フロなども2階に置いてみたい。
    •  書斎スペース。

     これらの要望を基礎に、建築家N氏は次のような提案を持ってきた。


    1階


    2階


    北側から


    東側から

     次のような特徴がある。

    •  ウッドデッキがある。
    •  吹きぬけがある。
    •  「もし可能なら」と願ったロフトはない。
    •  後から仕切ることができる洋間がある。

     それから、図面を良く見ないとわからないのだが、

    5メートル近くある高い天井

    がリビングにある。

     それともうひとつ、この家は「予算を160万ほどオーバーしている」ことが挙げられる。

     この案をN氏が持ってきたとき、間髪を入れず私と妻は、

    「ウッドデッキはナシにしてください」

     と言ったものだ。たしかにウッドデッキはあればかっこいい。しかし、近所にある家で、ウッドデッキを備え付けた家は、2年から3年で手間と根気とゆったりとした精神が必要とされる「イギリス式園芸」、すなわち当節最新流行の「ガーデニング」にはとうの昔に飽きてしまい、本来茶色っぽかったウッドデッキは青々と苔むして庭は蓬々と伸び放題になっているのが関の山なのである。

     私たち夫婦は、借り物ではあるがいま一戸建ての家に住んでいて、小さいながらも庭があるのだが、2年ほど住んでみてはっきりと認識したことは、

    女房も私も庭いじりが大嫌い

     ということなのであった。そんな私たちがウッドデッキを持ったところで、行きつく先は目に見えている。

     その次に要望したことは、

    「吹き抜けなんかイランから、床を張って下さい」

     ということである。なぜって、

    書斎がないんだもん。

     一家の主が将来30年を銀行屋に売って女房子供の為に家を建てようってのに、その一家の主の専用の場所がないとは何事か!主の場所がないのに単なる見栄と見た目で吹きぬけなんか作るなアホッ!・・・と私は言いたい。

     その吹き抜けのところには床を張り、2畳半ほどのささやかな書斎にする。そういうわけで、

    吹きぬけ廃止。

    ・・・それでも2畳半かよ・・・ドチクショウ!

     それから妻が、

    収納が足りない

     と言った。たしかになんとなく足りない感じだ。1階にも掃除道具をしまうところなんかが欲しい。

     もうひとつは、

    「住宅の性能表示をしてほしい」
    これである。

     「性能表示」というのは、つい先ごろから施行された法律、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の目玉のひとつである。

    ・  住団連のサイトの中にある「品確法」の解説

     次に、「地盤調査をやること」。

     もともと、この地域の地盤がどの程度のものであるかは、建築家N氏が近隣のデータと一緒に持ってきてはいた。彼は「近隣もそれほど心配のない土地であるし、地名にサンズイが付いていないから、この土地は良好」というのである。

     しかし、近隣が心配のない土地であることと、私の買った土地がピンポイントで心配のない土地であるか否かは別問題。もしなにかあったらどうする。・・・と、いうわけで、地盤調査をプラス6万円かけてやってもらうことにした。

     最後のダメ出しは、

    予算以内に抑えんかい

    である。

     建築家氏が帰った後であらためて収納について考察してみると、やはり相当足りない。

     今住んでいる家の押入れや物入れはほとんど全部ふさがっているが、改めてそれら全部を巻尺で計り、容積を計算して図面と比べてみると確かに足りない。布団などが入る場所もない。リビングの物入れもどう考えたってもう一息欲しいところである。

     さりとて、ここに物入れ、あそこに物入れ、などと素人がいくら考えたところで名案が浮かぶわけでもない。つりあいの悪い、住みにくそうな家になるばかりである。

     そこで建築家氏に電話をかけて、「もう一息収納が欲しい。容積にしてあと約3立方メートル」とのみ伝えた。



  •  三つ目の提案
  •  その次の週、私の提案を入れて、建築家N氏は次のような提案を持ってきた。


    1階


    2階

     図だけではいささかわかりづらいが、

    •  台所に上面カウンターの収納が増えた
    •  リビングのところのカウンターの脇に、収納が増えた
    •  1階の廊下に収納が二つ増えて、クローゼットの奥行きも増えた
    •  1階の各部屋のドアの開く向きが合理的になった

    ・・・という点が今までとは異なる。

     それを見て私は思った。

    サスガ建築家・・・!

    と。

     私は要求する前に、どこに収納を増やせば良いか、自分なりに考えたのだ。しかしどこにどう増やしても家としてのバランスが崩れていくような気がして、「どこにも収納を増やす場所などナイ!」と思ったのだ。しかし、建築家が考えると、1階ドアの開きなども極めて合理的なものになり、こちらが要求した収納の容積などもきちんとクリアしてある。

     やはり素人がいろいろ考えるより、建築家にはある程度裁量の幅を持たせた方がいいようだ。しかし、本当に全部オマカセにしてしまうと、

    予算が大幅にオーバーしそうで不安

    であることも否めないが・・・。

     落ち着いてよく見ると、2階の書斎が不便だ。机と本棚を置くつもりなのだが、机に座るときっとイスがドアにごつごつぶつかるに違いない。これはダメだ。「なんとかしてくれ」と言ったら、「引き戸」を提案してきた。せっかく洋風のドアで統一してあったところを一個所だけ引き戸だなんて、なんだかガラゴロいってダサい感じだが、アチラのコトバでは「ポケットドア」というそうで、引き戸もれっきとしたものであるとのこと。ドアを引き戸化する建具・金具もチャンとあるそうだ。

     前回、「性能表示」と「地盤調査」をするように求めたが、「日本住宅保証検査機構」という会社(名前はなんだか公的機関のようであるが、株式会社である)が保証と性能表示と地盤調査との3点セットで18万円という商品を出しており、ソレを使うことにした。

     こうして出来てきた設計図を、土地の写真にマッピングしてみた。



  •  工事請負契約
  •  そうしたことどもの間に、建築家N氏は役所に「建築確認申請」をする。これが受理されると、「建築確認通知」というものが役所から来る。これには建物に関して行政的に必要な事柄、例えば面積であるとか、構造、工事そのものの名前(ウチの工事の名前は『S邸新築工事』)などが全て記載されている。

     この「建築確認通知」書(文書の件名は『建築基準法第6条1項の規定による確認済証』)は、建物の分のローンを借りたりするのにも必要である。

     この時点で設計の基本的な部分はほぼ固まっているので、「工事請負契約」というのを建築家N氏の会社と結ぶ。この時「契約時金」というものが150万円ほど要る。

     工事に関しては、契約時にいくら、着工時にいくら、上棟時にいくら、というふうに段階的に払う。我が家の場合は着工時に450万円、上棟時に450万円、という風に払う。

     こうして大体固まった設計は次のようなものである。


    1階


    2階

     建物に関する借金の段取りも少しづつ済ませ、3月29日に地元の宮司を招いて地鎮祭を執り行う手はずとなった。