居住編 その2


Index


  •  花壇を積む
  •  我が家も庭に花を植えるなどして、 つつましいながらもなんとか一応、楽しげに生活している感じになってきた。

    庭の日当たり

     おしろい花の種をまいたり、イチゴの株を増やしたり、ひまわりを植えたり、 いくらかやったのだが、どうも庭が平板な感じで面白くない。 花を増やせば文字通り華やかにもなるかと思ったが、 庭が南向きであるにもかかわらずどうも日当たりが良くなく、花を増やすにも限界があるのだ。

     なぜ日当たりが良くないかと言うと、右のように、裏のお宅との境界に低いブロック塀があるのだが、 そのために日陰ができるからである。家自体は日がたくさん入り、気持ちがいいのだが、 庭の地面は半分ほどは日陰になる理屈である。

    庭の日当たり

     そこで、考えたことは、塀沿いに右図のような形の高い目の花壇を積めば、 花壇の上面にはまんべんなく日があたり、なおかつ庭に立体感が出るのではないか、 ということである。

     もうすぐこの家に住んで1年になろうかという夏の真っ盛り、意を決して、 子供の頃の夏休みの工作よろしく、花壇作りをすることにした。

    リッチで正しい  庭に出て、地面に線をひき、巻尺で長さを測って煉瓦の個数を見積もる。 普通、きちんと強度を出したいのなら、左のように煉瓦は平たく並べるべきである。

    間違っていて節約  しかし、たかが個人住宅の庭の、せいぜい差し渡し1メートルほどの花壇である。 一端はちゃんとしたブロック塀に依託するんだし、そんなに正しさに拘る必要もあるまい、 というわけで、左のように幅の広い面をタテにして並べ、個数を節約することにする。 そうすると必要な煉瓦は約50個である。

     セメントは298円の袋が4袋ほど必要だ。煉瓦は近所のホームセンターで一番安いやつが1個88円。 それから基礎部分用に路盤用の砕石をひと袋。 煉瓦鏝や目地鏝、レベルなどは沓脱石を作ったときに買ってあるから、今回は材料費だけでよい。 これらをエッチラオッチラ庭に運び込む。

    煉瓦を水につける

     まず、作業に先立ち、買ってきた煉瓦をすべて水に漬ける。 こうしないと後でセメントを使ったとき、セメントの水が煉瓦に吸われて固まらない。 セメントは乾いて固まるのではなく、水分によって化学変化を起こすことで固まる。 したがって、乾かしてはいけないのである。

     普通のバケツには、煉瓦をせいぜい4つも入れればいっぱいである。 「たらい」やドラム缶、樽などが用意できればよりよい。 私は樽など持っていないから、ゴミ用の大きなポリバケツ(40リットル)をキレイに洗い、 それを利用した。

     煉瓦はそういう具合にして水に漬けておき、その間に他の準備をする。 煉瓦は泡がでなくなる程度まで水に漬ければ良い。 それはせいぜい15分程度のことなので、もしたらいや樽などなくても、 小さなバケツでかわるがわる漬けてもよい。

    溝・基礎

     そうして煉瓦を水につけている間、あらかじめ地面に直接引いておいた設計図に従い、溝を掘る。 溝の幅は煉瓦の幅の2倍くらいで充分である。 耕してしまわないよう、移植鏝やシャベルを使い、うまく土を切る。切ったら、砕石をひいて叩き固める。

    溝・基礎

     それが終わったら、水平具合を確かめる。角材とレベルを使う。 煉瓦を仮に置いてみて、低ければ砕石を足し、高ければ削る。 煉瓦を置くところ全部について水平を見る。

    溝・基礎

     もちろん、この時にはそれほど神経質にやりすぎる必要はない。だいたいでいいのだ。 なぜかと言うと、この上に更にセメントを置き、 そこへ煉瓦を置くからで、この時神経質にやりすぎても、どうせ後で狂ってしまうし、また逆に、 後で修正もきく。

    セメントを練る

     基礎の水平が取れたら、セメントをバケツで練る。 煉瓦用の鏝を使い、バケツの底からすくい上げるようによくこねる。 これを沢山やると、けっこう手首の筋力が付く感じである。

     一度に水を入れすぎると柔らかくなりすぎたりして困るから、 じょうろなどから少しづつ入れると良い。固さはソフトクリームぐらいの固さ、 鏝の上にセメントを載せると、流れてしまわずに山になるくらいの固さが良い。

    1段目を積む

     セメントができたら、いよいよ1段目から始める。 適当な量のセメントを基礎の上にポンと落とし、その上に煉瓦を揉むように置く。 置いたら、レベルを当て、高いところをハンマーでコンコンと優しく叩いて水平にする。 次の煉瓦を置くときには、煉瓦のコバにもセメントを塗りつけてなじませる。 隣同士の煉瓦の間隔は、目地鏝の幅よりちょっと大きめに開ける。 こういう間隔を空けても大丈夫なようにセメントの固さを上手に調節しなければならない。

     まっすぐな直線状の花壇であれば、水糸を張ってそれに合わせて煉瓦を置いていくわけであるが、 こういう曲線の花壇であるから、それはムリ。その代わり、隣同士の煉瓦の肩を合わせながら、 1個1個の煉瓦の水平をレベルで取れば、ちゃんとまっすぐに花壇を積むことができる。

    煉瓦の切り方のコツ

     半円形のカーブに煉瓦を積むわけであるから、 煉瓦の内側のかどをディスクグラインダーやタガネなどで切って落としておかなければならない。 (れんがの切り方などは「外構・庭など」参照)。 二つの煉瓦をうまく切るには、図のように所望の角度をつけて煉瓦を置き、 開いた方のおのおののカドから平行に線を引き、その線に沿って煉瓦を切れば良い。 そうすると望みの角度でピタリと合う煉瓦ができる。

    煉瓦を積む

     2段目以降も同じようにしてどんどん煉瓦を積んでいく。煉瓦と煉瓦の間をうまい具合に取る。 この時、セメントの塗りつけ具合が難しく、写真のようにセメントがかなりはみだすし、 また煉瓦も相当汚れる。 が、これはあまり気にする必要はない。このはみ出したセメントは、後で削り落とすからである。 セメントが固まるには何時間もかかる。少々固まったところでちっとも心配はいらない。

     はみ出したセメントの、表面の水分が光って見えないな、という程度まで乾いたら、 はみ出したセメントを鏝で掻き落とす。この時には鏝のカドを使って、比較的ていねいに作業をする。 目地の形を整え、目地鏝ですうーっと押しつけ、きれいにする。この時にセメントの具合が丁度良いと、 本当にキレイな目地になる。

     全部の煉瓦を積み終わったら、一時間ばかりセメントを固める。最後に煉瓦をきれいにする。 バケツにたっぷりきれいな水を汲み、スポンジに水を含ませて、 煉瓦の表面のはみ出したセメント汚れなどをこすり落とす。 この時、スポンジを一方向に一方向に動かすと良い。 また、じょうろで水をかけながら、洗車ブラシやたわしでキレイに洗い落としても良い。

     全部の作業が終了したら、セメントのついた道具などはきれいに洗う。 バケツや鏝のセメントが固まると、ザラザラして非常に使いづらくなってしまうからだ。 積んだ花壇は慌てて土を入れず、次の日曜日までガマンして放っておく。セメントを固めるためだ。

     次の日曜日になったら、ワイヤーブラシで汚れているところをもう一度キレイにする。

    水はけの穴

     それから土を入れるわけだが、この時忘れずに考えておかなくてはならないのは「水はけ」のことである。 花壇には暗渠を埋めるなどいろいろな水はけが考えられる。 この花壇は高さが60センチほどあるのだが、私の場合は、 底から10センチほどのところにインパクトドリルで写真のような穴を5箇所ほど空けた。 それから花壇の底に15センチばかり粗い川砂利を敷き、その上に土を入れることで水はけにした。

     庭から取った土に苦土石灰と枯れた葉っぱなどを混ぜ、それを下のほうに入れ、 また1週間ほどなじませ、元肥を施す。 ホームセンターで残りの分の土を買う。25リットル入りの土が398円程であった。 それを5袋入れて、やっと花壇の出来上がりである。

    できあがった花壇


  •  イチゴを育てる
  •  庭にはイチゴを植えた。 ウチには小さい子供もいるし、実のなるものを喜ぶだろうと思ったからだ。

     イチゴの育て方は、概ね次のようなものである。

    4月

     イチゴの苗を買って来て植える。

     イチゴの植えつけは本来秋にするものだが、 園芸店やホームセンターではなぜか春に苗を売っている。 こうした苗にはいくつか花も咲いているし、植えれば実もつくが、 この苗からは多くの収穫は期待できない。

     それよりも、その春夏シーズンにこの苗を大きく育てて親株にし、 そこから子株を取ることを目標にしたほうが良い。

     地面に植えるなら、土を深さ30センチほども耕せばよかろうか。 30センチほどの穴を掘り、底に元肥を施し、掘った土に苦土石灰をまぶす。 苦土石灰をまぶすのは酸性の強い土を中性に保つためのものである。 園芸の参考書や、タネの袋などに書いてある簡単な作物の育て方を読むと、 必ずと言って良いほど苦土石灰を施せと書いてある。これは、 日本の土壌は酸性に傾きやすく、まずアルカリ性に傾けることで間違いがないからである。

     苦土石灰を施した土をほぐし混ぜながら穴に埋め戻す。 私の場合は、この時、園芸店で買い求めた用土に化成肥料(マグァンプ)を用量どおり混入し、 元の土にそれを加えて土のかさを増した。

     買ってきたイチゴの苗は、おそらく黒くてペラペラの「ポッド」に入っている。 ポッドから苗を出し、耕した場所に移植ごてで穴を掘り、そこに植える。 浅過ぎても深過ぎてもダメだ。浅ければ苗が倒れ、 深ければ芽が出ない。苗の中央にある、若い芽が萌え出ている部分、王冠のような形をした 「クラウン」がちょうど地上に出ている深さが良い。この部分に土がかぶっていると、 芽が出ず成長しない。

     イチゴの実や後述する「ランナー」は、その株の親株があった方向とは反対のほうに出る。 買ってきたばかりの苗は、どっちが親株のほうだかなんだか良くわからないのが普通だ。 そんな時は、苗をじっくりと良く見る。 そうすると、苗の根もとの部分が「くの字」の形をしている事が判るはずだ。 この「くの字」のとがっている方が、花やランナーが出る方向である。その反対側が親株があった方向だ。 なので、「くの字」のとがった方を、手前正面に向けて植える。そうすれば、正面に実や花が付く。 ランナーも正面に伸びるわけだが、もし子株を取るのなら、 ランナーが伸びるほうに子株が根付くための土があったほうが良い理屈になる。

     2リットル入るジョウロで、1株に付き1杯づつ、毎日休まず水をやる。

    5月

     花が咲く。  毛の柔らかい丸筆で、花の中央の部分を撫で回す。人工受粉である。 意外とうまく行く道具が竹の耳掻きの、あの耳クソ払いの羽毛部分らしい。 うまくやると形の良い大きな実がつく。やらないとヘンな形の実がつく。 農家では蜂を放ったりするらしい。蜂で受粉すると、非常に形の良い実がなるそうな。

     この頃、「ランナー」とて、蔓が伸びはじめる。実を取ることを第一に考えるなら、 このランナーは摘んでしまう。栄養がそっちにばかり取られてしまうからだ。 しかし、今年は子株を取る、ということなら、そのまま伸ばしておけば良い。

    6月

     実がなる。子株を取るのが目的でも、一応いくつか実がつく。実が根元まで赤くなったら、 朝のうちに取り入れる。これは実にうまいものだ。ビタミンCが豊富に含まれているらしい。

     この甘い実の敵はナメクジである。実に穴をあけて貪られる。 ナメクジを駆除するには、薬品のほか、 ビールを鉢などに入れて適当な場所に置くのが良い。 容器がなければ、ペットボトルの胴を底近くで横に切ったものでもよい。 ナメクジはビールの匂いが好きで、その鉢に入っていって、あげく溺れて死ぬ。 それを集めて焼却するなり、適当に処分する。 ナメクジはけっこう病害を媒介するらしく、適切に駆除する必要があるらしい。 広東住血線虫などというものは、ナメクジ・カタツムリの類からうつるらしく、 注意が必要である。もっとも、そう多い例ではないらしいが・・・。 集めたナメクジは、ガストーチなどで焼尽すればいいのではないかと思う。

    7月

     ランナーがメチャクチャに伸び、増殖最盛期になる。

     イチゴは、ほうっておけば1つの株から30株ほどに増える。 我が家ではたった1つの株が50株にもなった。

    8月

     7月と同じだが、暑さで枯れることが考えられる。水をたくさんやり、追肥をほどこす。 水をたくさんやると言っても、昼間に水をやってはいけない。地面に日が当たり、 やった水が湯になって、根が煮えてしまうのだ。したがって、水は朝やる。 朝にやれなかった時は、夕方にやる。

     また、朝にも夕にもやればいいというものではない。 湿りっぱなしにすると、カビが生える病気にかかるのだ。 カビが元になる病気には、うどんこ病、灰色カビ病などがある。 水は朝にたっぷりとやる、これが基本である。

    9月

     下旬、涼しくなったかな、という頃、株分けをする。

     イチゴの子株は、一本のランナーに、太郎株、次郎株、三郎株・・・という具合に、 点々とできる。そのランナーが数本〜十数本伸びる。 これらのランナーを、それぞれの子株のところで切る。 親株側を2センチほど残すが、子株側は根元から切る。 こうすると、「長いほうが親株側」という目印になり、後で斉一な方向に植え付ける助けになる。

     ランナーを切ったら、移植ごてなどで掘り出す。大切なことだが、この時、「太郎株は捨てる」 ということがある。太郎株は病気を親株から受け継ぐことが多い。 また、性質が安定せず、大きな実がならなかったりする。使うのは次郎株以降にする。

     普通、植物を植え替えするときは、根に土をつけたまま植え替えするが、 イチゴは少々手荒にする。根から土を落とし、それから新しい土に植え替える。 こうすることで、春に花をつけやすくなるらしい。

     一般に植物は、死にそうになると生殖を活発に行なうようになるそうだ。 イチゴは比較的丈夫な植物であるため、なかなか死にそうにはならない。 園芸の参考書などを読むと、「イチゴは冬の寒さに当たらないとうまく実をつけない」 と書いてあるものが多い。このことも、「死にそうになると生殖を活発に行なう」という 植物の性質が現れている現象の一つである。また、イチゴが花芽を出すための科学的な条件は、 「窒素が一時遮断されること」だそうだ。冬に寒さに当たり、肥料に少しばかり飢え、 ストレスが与えられると、イチゴは花芽を出し、実が沢山なるのである。 「植え替えのとき、根をいじめる」と書いてあるものもあるが、 これも植物の「死にそうになると生殖を活発に行なう」ということの表れかもしれない。

     とは言うものの、根をブチブチ切ったりすれば、うまく根付かず死んでしまうから、 そこは適度に上手にやることだ。

     株分けをし、いつもにも増して水をやり、肥料を与え、 倒れたりしないよう1週間〜2週間ほども見守れば、活着する。根付いて育ち始めるわけだ。

    活着したら「中耕」をする。株と株の間を小さい熊手で耕して盛り上げるのである。 これをやると、その部分の雑草が鋤き込まれて死ぬし、通気が良くなるし、水持ちもよくなるなど、 いろいろといいのである。

    10月

     うまく活着したら、苗が込んでいるところを整理し、うまく行かなかった苗を取り除くことなども含めて、もう一度植えなおす。「定植」である。

     株の下のほうの、枯れた葉や悪くなった葉を取り除く。 株の中心から出ている、若く青い葉を3枚〜5枚ほど残せばよい。これを「葉を掻(欠)く」という。

     この頃から水やりの量を減らす。土が乾いていればやる、という程度にする。

    (執筆時点が10月のため、春に枯れていたらハズカシイから、 これからうまくいくたびに加筆予定(笑))



  •  猫よけ
  •  それにしても近所の猫には困ったものだ。

     糞を埋め込むし小便は撒き散らすし、その臭いがひどいのにも閉口する。 花壇に植えたものを掘り返して撒き散らすのも迷惑である。単純なものではない。 半年、一年と、来る日も来る日も丹精したものが猫によって一夜に撒き散らされ千切られてしまうのだ。 その不快感、なんとも堪えがたい。

     なにかと猫の寄りつかぬ工夫はしているのだが、ある種の工夫をしても、効き目があるのは2週間ほどだ。慣れるせいか、しばらくするとまた来る。

     ホームセンターに行くと猫よけの薬剤が売られている。 植栽を傷めない(=花壇にも撒ける)タイプのものはひと瓶\2,200と結構な値段である。 これは、猫がいやがるほどに徹底的に撒くと、概ね2回分ほどになる分量である。 3日や4日に一度は撒かねばならないから、ひと月に5本ほども空になってしまう。 1万1千円。平然としておれる経費ではない。

     私は猫が憎いタイプの人間ではない。がしかし、 自分がかわいがっているわけでもないよその家の外飼い猫が、ウチの庭にばかりウンコをしに来るというのは釈然としない話だ。私はそれを笑って納得していられるほどのお人よしでもないのである。

     なにか話のタネにでも、とWebサイトを検索すると、同じように猫糞に悩む人たちが沢山いることが解った。

     そういえば、猫を捕まえて虐殺する様子を写真に撮り、インターネット掲示板などに公開した男が法に触れて逮捕されたのは今年のいつ頃だったか。その時は「なんて非道な男だ。頭がおかしいのではないか?こんな奴は畳の上では死ねんぞ」と思うばかりで、自分の庭の被害とその男の出現の背景が結びつくことはなかった。

     しかし改めて調べると、自分の庭の被害と、自分の怒りと、自分と同種の悩みを持つ人々の気持ちと、そんな人たちが世の中には沢山いることと、そういう気持ちをインターネット上で共有した一連の現象と、その渦中でエスカレートした猫虐殺男の関係がなにやら腑に落ちた。

     新聞紙上では、猫殺し男は徹底的に膺懲されるばかりなので、そんな立ち入った背景までは解らない。猫嫌い、ペット嫌いのコミュニティらしきものが確実に世の中にはあって、思いを共有していて、しかもそれは隠れたかなり大規模なものであるらしいのだ。

     猫は自分の餌場を荒らさない。餌をやる家のそばでは糞をしないそうだ。もちろん全ての猫がそうではなく、家の中で糞をして飼い主に叩かれる始末の悪い猫もいるが、多くの猫は野生の呼び声そのままに、習性にしたがって自分の餌場を荒らさないそうだ。さもあらん、ネズミやモグラ、その他小動物を捕食する猫のこと、節操もなくあちこちに糞をすれば、自分の獲物がその匂いなどを警戒して寄りつかなくなる。何千万年と言う進化の過程で、そうした野生が猫という種を永らえさせてきたことであろう。

     だから、野良猫をかわいがる家の人は猫糞の迷惑をそれほどには感じないのだ。猫の糞害に悩む人は、逆に猫が糞をする場所で猫に餌付けをすればよい、そうすると糞害がなくなる、などといういかにも肯えそうなまことしやかな話もある。つまり、餌付けをするとその猫はよその家の庭で糞をするようになる、というのだ。

     更に調べると、2ちゃんねるの某板などでは、「『猫捕り箱』の作り方」なるものまで紹介されている。日曜大工でも簡単に作れる木箱であって、ちょっとしたトラップになっている。安く作ればおそらく500円もかかるまい。「この箱で猫を捕って遠くに棄てることを繰り返せば、次第に地域の猫は少なくなり、糞害もそれに比例してなくなっていきます」みたいな解説が書かれている。遠くに棄てると言うのはまだジェントルなほうで、昔の鼠の始末のように箱ごと水に漬けて鳴かなくなったらゴミと一緒に出すとか、残酷なことも少々書いてある。

     自宅の庭の猫糞の始末と、猫に掘り返されて千切られ、枯れてしまった花の始末を10回ほどもやった後でそういう文章を読むと、読みながら猫箱の作成方法やかかる値段、必要な工具、猫を棄てるとしたらどこへ棄てよう、などとかなり具体的な方法を頭に思い描いてしまう。合板は丈夫だが、100円ショップの反り返った集成材でもいいかな、その時はクギの頭は潰しておかなくちゃな、罠線はタコ糸じゃなくてテグスだな、すべりがいいからな、高速道路を使ってよその県に猫を棄ててくるとすると、途中箱の中で小便されたりしたら厄介だ、大きいビニール袋を用意しとかなくちゃ、などと結構具体的にものを考えているのだ。

     そこまで考えたり、調べたりして、一息ついて頭を冷静にする。

     私は、猫箱を作ることも出来る。明日、ほんの半日ほどかけて箱を作り、実際に焼き秋刀魚でも仕掛けて、2回か3回の試行錯誤でもすれば、私の住む町の猫など、ひと月もしないうちに全ていなくなってしまうだろう。否、それよりも、人間と言う生き物は恐ろしい生き物なのだ。改めていうまでもないが、人間が本当に本気になれば、猫などという種を絶滅させてしまうことなど造作もないことだ。実際、人間が責め滅ぼした生き物が何百種類あることか!。

     町に住むほんの一個人である私が、ちょこっと働くだけで町の猫は全滅してしまうのだ。

     そう考えたら、今度はなにやら猫が哀れになってきた。 しなやかな体毛や、脅かすとびっくりして逃げるしぐさなどを想像すると、今度は猫がいとおしく弱い保護物のように思えてくる。子供の頃、母猫が縁の下の暗がりに隠れて子猫に乳をやっていた。今思うと、猫には「雄猫の仔殺し」といって、雄猫が仔猫を襲う習性があるそうだが、母猫は仔を守るために暗がりに隠れて育てていたのだろう。

     私には娘がいて、猫のぬいぐるみが大好きだ。仔猫のぬいぐるみをいつもそばに置いてかわいがっている。

     随分前のことだが、娘が持っているその仔猫のぬいぐるみそっくりの仔猫が、通勤途中の私の足元をじゃれながらついて来たことがある。踏んづけそうになるし、かわいいし、どこまでも付いてくるしで閉口したのだが、駅の裏通りあたりでようやく離れた。その日の夜、帰りが23時ごろになったのだが、人通りも絶えがちな駅裏通りの路上でその仔猫が死んでいた。外傷もなく、どうして死んでいるのかわからない。今になって調べると、仔猫はまる一日飢えるだけで、体も小さいためにか、低血糖となり死ぬそうだ。その仔猫も、母猫からはぐれて、帰れないほど遠くに来てしまい、餌もなく、たった一日で死んだ。その時、本当に猫という小動物は哀れなものだ、かわいそうになあ、と思い、昔覚えた真言を心中ひそかに唱え、猫のために祈ったものだ。もし私が、猫の仔のために哀れを感じなければ、私が自分の子を亡くすようなことがあった時、バチがあたって誰も私の子のために祈ってくれなくなるに違いない、と素朴な気持ちを持ったのだ。

     そんな哀れで弱い小動物である猫に本気になって牙を剥くのは、なんだか万物の霊長たるの鷹揚悠然に欠けるような気がするのである。

     子供のいるところで「猫憎し」発言ばかりしていては、子供の教育にもおそらく良くはあるまい。

     人間の怒りは、それがほんのちょっとした怒りでも、小獣である猫にとってみれば生命をも奪われかねぬ程の力を持っている。その強い怒りの矛先が猫に向けられるのは、誤りである。 アナタの、私の怒りは、アホな飼い主や無責任に餌付けをしているような人に向けられるべきなのだ。弱く哀れな猫に怒りを向けるのは、弱いものいじめである。

     これも以前の話だが、近所で小学校高学年くらいの男の子たちが、喚声を上げながら走り回っていたことがある。ほう、今時珍しいな、けっこうけっこう、と思ってよく見ると、手に手にエアガンを持って走っている。猫を追い掛け回していたのだ。これは怪しからん、と感じたが、猫がある屋敷に逃げ込んでいき、少年たちはあきらめて去った。

     今そのことを思い返してみるに、少年たちのエアガンは、猫に向けられるくらいならその飼い主に向けられるべきであった。もちろん、エアガンなどは人に向けてはいけない。弱者である猫に向けるくらいなら、強者である飼い主に向けよ、それが出来ないならやめてしまえ、ということを私は言いたいのだ。飼い主にエアガンを撃てば、飼い主は怒り狂って、場合によっては警察ぐらい呼ぶだろう。が、警察を呼ばれたところで、少年たちの命にはなんの別状もあるまい。反面、猫は強力なエアガンで撃たれれば、場合によっては命を落とす。これは釣り合わぬ。

     少年たちが猫を追ったのは、もしかしたら周囲の大人たちが「ああっ!またクソ猫がクソしやがった!畜生!」などと日常言っているのを聞いていて、ああ、あれは害獣だから少々ひどい目にあわせたところで許されるんだ、などと無意識に納得していたのかもしれない。

     恐ろしいことだ。私にはその少年たちが、浮浪者をなぶり殺しにするハイティーンの少年たちとダブって感じられる。エアガンで猫を狩る少年は、周りの大人たちが同じ口調で「・・・ったく、不潔な浮浪者だぜ、役立たずのクセしやがって。死んでしまえ」などと呟きつづけておれば、おそらく浮浪者をも狩るだろう。

     弱いもの、哀れなものをいじめるのは良くない。本来、人間に向けられるべき怒りを、「でも俺、あそこの猫飼いババアに恨まれたくないもんなあ」とか何とかいうような、結局は自分がかわいいだけの理由で猫に向けるのは間違いだ。人間は賢く身体も大きいのであるから、「うらまれたくない」という、所詮その程度の理由での怒りの転嫁でも、それを猫に向ければ猫は死ぬ。アナタは、ワタシは、弱い猫をいじめるのではなく、飼い主に怒りをぶつけるべきである。猫を殺すんなら飼い主を殴れ!

     だがしかし、ですよ。

     だからと言って、ウチの庭に糞してほしいわけではないぞ

     つまり、なんとなく猫がウチの庭をよけるようになってくれれば、それが一番なのである。

     ネット上をうろつくと、さまざまな How to がある。いわく、

    •  猫よけ剤。植栽を傷めぬものもいろいろ売られている。効く効かないはさまざま。効かないことも多い。

       猫よけ剤の中でも、タバコの葉を原料にした「キープアウト」という商品はかなり良く効くというウワサ。

    •  煙草の吸殻など、煙草関係全般は猫よけに卓効ありというウワサ。葉をポロポロ撒くだけでOK。吸殻を棄てて庭を汚くすると猫も来ないとか(笑)。しかし、煙草の葉はいわずと知れた猛毒。一本食えば大人一人が死亡する。子供が遊ぶ砂場に煙草の葉を撒くのは×。花壇は場合によるが、私のようにイチゴなどを植えているのなら、猛毒イチゴになっちゃうから×。
    •  レモングラスのほか、レモンの匂い関係は効くらしい。しかし慣れもあり、効く効かないはさまざま。確かに猫は柑橘類を忌避するらしいが、飼い猫が蜜柑を置いたコタツの上で丸くなっている図を思い浮かべてもらえば、都市の猫はそんなものには既に慣れっこというのも納得がいく。
    •  レモンの匂い関係は全般に高価につくわりには効き目はいまひとつだが、100円ショップの自動車用の芳香剤は、同じ位の効果なら激安。
    •  前述の猫捕り箱。猫一匹が入るくらいの木箱をつくり、スライドする落し蓋をつけ、竹串程度の棒か針金で支える仕組みにし、猫が箱に入って板を踏むと、その竹串に結びつけたタコ糸が引っ張られ、落し蓋が閉じる仕組み。でもこれを使うならご町内の愛猫家と一戦交えて撃滅するぐらいの覚悟が必要。
    •  花壇には竹串を植えておくとよりつかなくなる。
    •  猫を見つけたら水をかけると来なくなるらしい。
    •  地面が濡れていると水がキライなので来なくなる。しかし、花壇に水をやりすぎると根腐れするので一考を要する。
    •  猫がフンをする場所に100円ショップの金網を敷いておくと、掘りにくくなって来なくなる。
    •  野球のネットやサッカーのゴールに使われているような2センチ目ぐらいのネットを2センチくらいの深さに敷いて埋めると、掘りにくくなって来なくなる。
    •  ホームセンターに売っている、針を植え付けたようなとがりのあるネット。ただ、これをあちこちに置けば、こんどはコッチが怪我しちゃう危険が(笑)。小さい子のいる家の庭ならなお。
    •  一般に猫は犬がニガ手。犬を飼うと瞬時に来なくなるそうな。体長20センチほどのほんの子犬を飼っただけで来なくなったと言う話もある。ただ、その犬が余計に花壇を掘り返して倍もウンコ撒き散らすようになったとか(笑)。
    •  餌付けをすると、ウンコはしなくなるという話も。ただ、その場合、アナタの家でウンコしなくても、よその家の花壇と庭でウンコするようになってしまう。(前述)。
    •  猫のいやがる超音波などを発する装置も幾種類か売られているが、これも効く効かないはいろいろで、効かない場合も多いらしい。
    •  猫は子供が実は嫌いらしい。子供が庭でずっと遊んでいると来ない。でも、夜中も子供を庭で遊ばせておくなんてことは不可能。
    •  花壇には、マルチングもかねて、れんがをゴツゴツと砕いたものを空いたところに敷く。とがっているせいか猫が来にくくなった。3週間ほど効き目があったが、3週間目にクソされた。残念(これは私が独自に考えて試した。)。
    •  キッチンハイターやワイドハイターなどの漂白剤を撒くと寄り付かなくなるらしい。しかし、もちろん植生を傷めるから花壇には×。砂利や縁側、ウッドデッキなどにクソされるようなときはいいらしい。

     …ま、どんな方法でも猫は慣れるらしい。

     安いやり方として、今度は煙草の葉を試してみようかと思っている。