犬入札

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 私はなぜか犬の調達の発注側の担当者で、入札をかけなければならないことになった。

 発注側担当者であるからには、犬についてどんなことでも知っていなければならない。しかし、私は犬については素人であり、そのような部署に配置されて、毎日困り果ててしまっていた。

 そんな日々、これもどうしたわけか、某大手IT企業で営業をしていたはずの知り合いが、なぜか犬屋の営業に転職しており、知り合いの(よし)みで、陰でいろいろと教えてくれた。とても助かった。

 ある日、なんだか、マスチーフとゴールデンレトリバーと(ちん)などを一緒くたにしたような大型犬の写真が問題になった。はっきり言って醜い犬で、肥満しており、目つきもぼんやりと小さく、毛足もボサボサだ。肩の高さは50センチか60センチもあるが、贔屓(ひいき)めに見ても賢そうとは言えない。

「これ、何ですか?」

と、その知り合いの犬屋の営業氏に聞いてみたら「これはチワワだ」という。

「へっ?チワワ!?そんなバカな、チワワは小型犬でしょう?」

「あ、佐藤さん、佐藤さんは犬が専門でないからご存知ないと思いますが、チワワを飼うときは、育たないように餌をあまり与えないようにするんですよ。そうするとずっと小型の愛らしいままなんですが、つい可愛さに負けて、ほしがるだけ餌を与えると、どんどん大きくなってしまって、こういう阿呆(あほ)のような姿になってしまうのです。大きくなっても知能は小型犬のままで、盲導犬とか救助犬とか警察犬とかの使役犬には使えないし、ウドの大木みたいなもんで、病気にもかかりやすくなって、困ったことになるんですよね」

「へぇーっ……そ、それは、し、知らなかったなあ。い、いやあ、いつもいろいろと教えてくださって、本当にありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして。……そういえば、もうすぐ公示でしたっけ、どうか佐藤さん、よしなにお取り計らい下さいよ」

「すみませんねえ、いつも直接お力になることができなくて……」

「いやあ、わかっておりますよ、佐藤さんのお立場は。祈ってくださるだけで結構ですよ」

……などというほのぼのとした会話があった。

 入札は電子入札になった。ところが、この営業氏は電子入札に1分ほど遅れてしまって、入札できなかった。締め切りになるところを、契約担当部署に入札書持参で大慌てで駆け込んできて、システム障害のための不可抗力だ、どうか何卒(なにとぞ)、非電子入札の書面で受付をお願いします、と懇願した。

 契約担当者も渋い顔をしたが、熱心に平身低頭する営業氏に負けてしまい、つい、入札書を受け取ってしまった。

 結局、落札したのはこの営業氏の商店だった。予定価格と比べて適正だし、なにより最も安かったのだから、それはルールどおりといえばルールどおりではある。

 ところが、納品内容の説明を聞くと、例のデカくなってしまって役に立たない、ウドの大木チワワを納品するというのである。契約担当者は腹を立て、

「あなたねえ、本来だったら遅刻した時点で資格喪失してるの、わかってるでしょう?本当なら落札できないんですよ!?それをこんなバカ犬を納品しようって、何を考えてるんですか」

「でも、でもでも、結局は入札をお受けくださったじゃないですか、ひっくり返すのはずるいですよ。仕様書には『犬』としか書いていないはずです。公定の仕様書にしたがって落札したんですよ。それに、約立たずのでくチワワだって、命のある生き物なんですよ、あなたにはそういう万物の霊長としての慈悲ってものはないんですか」

「キミは何を言っているんだ!」

……と、いうようなモメごとに発展して、発注担当の私が契約担当と営業氏の間に立ってオロオロしているというところで、目が覚めた。

 ああ、よく寝た。それにしても、ヘンな夢だったなあ。

 今日もメシは一つ覚え、チョコレート3かけら、()れたてのアイスコーヒー。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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