春夜

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 降りつのっていた雨がからりと晴れ上がると、うたた高気圧性の風に吹かれて既に桜は散りはじめている。

 市ヶ谷見附の交差点で外濠の水面をながめていると、つい足が靖国通りへ向く。

 靖国通りの桜が散る下、金曜の夜を夜桜で楽しもうというつとめ人の男女が、罪のない笑顔を浮かべて和やかにそぞろ歩いていく。

 私もふと千鳥ヶ淵の夜の花筏に心惹かれぬでもなかったのだが、去年の大鳥居から手前の喧騒が思いやられ、増辰海苔店で好物の海苔を需めて引き返す。

 五日の月がするどい筈の尖りをおぼろに鈍らせてひょいと浮かんでいる。春夜は花の匂いの底に麝香のような淫靡な香りをしのばせている。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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