日本ITストラテジスト協会関東支部オープンフォーラム2019

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 今日は日本ITストラテジスト協会関東支部主催「オープンフォーラム2019」に参席した。

 最近数年の会場は決まって「秋葉原UDX」(旧青果市場辺りの大きなビル)だったが、今年は「一橋大学の一橋講堂」で行われた。

 私はチラシの「一橋大学」を瞥見(べっけん)して、それだけを頭に入れ、エイヤッと国立市まで行った。駅前でノンビリと昼飯など喰った。

 文教都市を標榜する街で、すばらしく幅広い並木通りをノンビリと歩き、一橋大のキャンパスに入った。

 案内板を見たのだが、一橋講堂というものはなく、最も近い名前のものは「兼松講堂」である。時間は12時ちょっと過ぎであった。

 ハテ……というので、門内の守衛さんに「あのう、すみません、一橋講堂っていうのは、どこでしょうか?」と聞いてみたら、

「ハァ!?一橋講堂!?……いや、ありませんよコチラには。そういうのはちょっと……こちらにあるのは『兼松講堂』ですしねえ……」

「えっ、私、もしかしてとんでもない方に来たのかしら?」と私。

 守衛さんはちょっと考えて、パッと表情を改め、

「あっ、そうだ、わかる。一橋講堂ってのは聞いたことがありますよ、ちょっと待ってくださいよ、どこに書いてあったっけ……」

と、守衛所内に備え付けてある「マップル」をバラバラッと繰ってくれた。

「あ、ここだここだ。千代田区一ツ橋……これはあれですよ、水道橋の向こうの、アッチのほうですよ」

「ゲゲッ!……私、全然違う方に来たんですねえ、こりゃまいった、守衛さん、どうもありがとうございました」

「いえいえ、慌てずお気をつけて」

……というようなわけで、中央線の快速特快で急遽神田まで引き返し、十数分ほど遅れて着いたという塩梅式であった。

 東京の各大学のキャンパスは、アッチコッチにバラバラにあるからヤヤコシイ。

 高等教育に縁のない私は、今日という今日まで知らなかったが、一橋大学はかつて東京の一ツ橋、すなわち、現在の学士会館のあたり、今日のオープンフォーラムの会場付近に所在したが、関東大震災の被害をしおに国立市に移転したのだそうである。

 親戚のニイチャンが一橋大だったが、どこに通っていたのかも今日まで知らなんだ(笑)。

 多少遅れたものの、聞きたかった特別講演はだいたい全部聞くことができた。

特別講演1:『今、日本に必要なデジタルトランスフォーメーションとは?』 ~ 「所有」から「利用」へ、デジタル化がもたらす新しいビジネスモデル サブスクリプションが普及する背景

 江端浩人事務所代表・江端浩人氏による講演であった。

 江端浩人氏は日本マイクロソフト・日本コカ・コーラ等大企業のCIOを歴任し、デジタルで経営を牽引してきた斯界の第一人者であり、その手腕については堀江貴文氏やDeNA創業者の南場智子氏らと並び称される人物である。

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)という観点からは、氏は過去にもDXにかかわってきており、Windows95のエンタープライズへの導入やiPhone、クラウドなど、多くの事例で活躍してきている。

 氏は最近、「サブスクリプション・モデル」に着目しこれに注力している。

 サブスクリプション・モデルとは、例えば「Microsoft Windows」のライセンス形態の一部に見られるように、「使用権を賃貸する」業態である。最近はWindowsのようなソフトウェアだけでなく、スマホの定額通信や定額制の動画配信サービス、Amazon Kindleの読み放題など、デジタル業界では既に定着しているが、他にも自動車のシェアリングやスターバックス・コーヒーの定額サービスなどにも見られ、最近では月額定額の「ラーメン食べ放題」や、女性向けの定額の美容院、「定額住み放題の住居」などまで登場している。

 このモデルは利用者側から見ると「気に入ったブランドを気にすることなく安定して利用でき、割安感があり無駄な所有をしなくてすむ」利点があり、提供者側から見ると「収益を先取りして安定させ、多くの場合増収になる」という利点がある。

 江端氏自身も「動画広告を作成するサービス」をサブスクリプション・モデルで立ち上げ、取り組んでいる。

 実は、昔から富山の薬売りや牛乳配達など、日本には昔からサブスクリプション・モデルがあったが、現在のサブスクリプション・モデルとはインターネットをはじめとする電子的な仕組みが介在するか否かが大きく異なる。電子的な仕組みにより、提供者側と利用者側の情報格差の解消などがかつてとは異なる状況となっているように思われる。

 サブスクリプション・モデルの普及には条件があると氏は考えている。すなわち、単なる定額ではなく「付加価値」「出会い」例えば新しいファッション、いつも一流の美容室、BtoB、日本に非常に合ったモデル(おもてなしなど)、常連さん文化、お小遣い制、顧客の手間を省く(リコメンド)等々である。

 また、サブスクリプション・モデルは原価が低い商材(すなわちデジタル情報など)に合ったモデルであり、原価が高く供給量が少ないものは合わない。

 これからのサブスクリプションモデルを含め、企業の経営全体を俯瞰すると、社会的な意義をもたない会社やブランドは支持されなくなる。単純なCSR活動だけでは不十分であり、世界的なSDGsの広がりが背景にあることを踏まえ、これらにも注力することが必要であると氏は言う。また、氏はブランドアクティブズム、ダイバーシティなど、改めて取り組むべき課題は多くあるはずであると指摘している。

 氏はデジタル・トランスフォーメーションの視座からサブスクリプション・モデルをとらえて活動中であるが、これと「デジタル人材育成」をもライフワークとして取り組み中とのことであり、「一番自分の身になるのが人に教えることと思う」として講演を締めくくった。

 聴講者からは、「利用者から見て『所有をしない』ことは有利なことのように思えるが、その一方、GAFAなどデジタル経営の成功企業は、例えばGoogleが検索により取得した情報を独占していることに見られるように、『所有』の利点を最大限に生かしている。この『所有』と『非所有』の相克を如何にとらえるべきか」との質問もなされ、この点でさらに整理が必要かとも思われた。

特別講演2:『POST2020に向けたITヘルスケアサービス/ウェアラブル技術を活用した生体情報センシングの研究とビジネス化』

 WINフロンティア株式会社CAO (Chief Algorithm Officer)・芝浦工業大学客員准教授・駒澤真人氏による講演であった。

 WINフロンティア株式会社は、ウェアラブル技術を使用した人間情報を扱う会社である。

 特に最近は心拍数の測定による感情の変化などを定量評価することに成功しつつあり、多くの応用を広げている。

 単に心拍を測定することであれば、従来から医療機器の長時間心電図採取などが利用されているが、最近はセンサの小型化、また周辺機器、特に記録の高密度・高容量化(SDカードなど)、スマホとの連携による通信、ひいてはクラウド・リソースの活用などにより、コンシューマー・レベルで気軽に心拍を測定することができるようになった。

 かつては記録に限界があったために、長期間の測定が必要な感情の変化などのモデルに当てはめづらかったが、現在はクラウドのストレージの利用などにより、ビッグデータを参照して心拍から感情の変化を検知し、個人のメンタルチェックを行うことができるようになった。

 これによって「自律神経の活動」を測定し、メンタルヘルスの管理に有用な製品が得られるようになったという。

 氏の会社では、指先の血流量をスマホのカメラで測定することのできるスマホアプリ「COCOLOLO」を開発し、産業医のカウンセリングにこれを活用するなどしており、「働き方改革」への応用なども提案している。

 今後の注力領域として、一般に心拍数は継続して測定してもらうことが難しいため、「ヘルスゲーミフィケーション」、すなわち、健康状態取得活動をゲーム化して面白くし、熱中してもらうことなどを試みており、既にそのようなゲームもリリースしている。また、「ヘルスリテラシ」、すなわち健康へのリテラシ向上、健康教育、知識の普及を図りたい、としている。

 他に、感情を分析した製品開発、製品のリラックス効果を定量的に評価するなども試みており、例えばユニクロのジーンズのリラックス度の評価をセンサを使用して計測して定量評価し、他社製品と比較するなどといった業務にも成果を収めつつある。

 POST2020において氏は「ストレスマネジメントの総合プラットフォーム」を目指す、とし、今後さらに皮膚の下にインプラント型センサを埋め込んで詳細なバイタル・データを計ることなどを試みたいとした。

 「ゆっくり生きると自律神経が整う」ゆっくりよく噛んで食べることなど、何事も意識してゆっくり行動してみると、自律神経のコントロールに有用である、と結語した。

特別講演3:『あらゆるモノに知性を与える「エッジディープラーニング」の可能性』

 LeapMind株式会社CEO・松田総一氏による講演であった。

 社会では既にAIの応用が浸透し、各所で実用されている。一方、更にAIを活用するには、太い通信帯域やリソースにコストのかかるクラウドのみの利用に頼らず、情報発生源に近い「エッジ」においてAIによる高速な前処理を行うことが有利であることはかねて指摘されているところである。

 松田氏の会社は、この「エッジ」領域でのディープラーニング・ハードウェア開発で成長している。

 氏によると、日本におけるAIは、既に遠く米国・中国の後塵を拝する状況であり、世界をリードしようとするにはもはや手遅れの状況にあるという。しかし、唯一、「組み込み」ドメインでは米・中に勝るものがあると氏は見ており、その所以からエッジでのディープ・ラーニングにチャレンジし、成功しつつある。

 現在、AI~ディープラーニング界は急激に増大する「原データ」「ビッグデータ」と格闘しつつある。今後、スマホをはじめ、IoTデバイスが増えることでデータ量が爆発し、必ず「エッジ処理」が必要になる。

 クラウドはインターネットが必須、レスポンスが遅い、利用料金が高い。一方、ローカルに置かれたGPUはデバイス単価が高く、消費電力が大きい

 ところが、組み込み向けのFPGA・ASICは、ネット常時接続が不要であり、デバイス単価が安く、レスポンスも早くて消費電力が小さい。

 こうしたことから、ASICはテレビ、カメラ、電子レンジ、冷蔵庫などに応用され、FPGAは電車、フォークリフト、監視カメラ、ドローン等に応用されている。 

 これらはセグメンテーション・ノイズリダクション・姿勢推定、超解像、物体検出などに使用されている。

 世界の趨勢に眼を転じると、最近Google PIXEL4が発売され、美しい写真が撮れるカメラが話題になっている。既に光学的な技術については、カメラは限界に達していて、機械的・工学的に美しい写真を追及することはもはやできない状況にあるが、PIXEL4は撮影された生画像データを機械学習・ディープラーニングによる画像レタッチによって美しく加工しているのである。つまり、ソフトエアによるハードウェアの性能引き上げが常態化しており、この点でPIXEL4は時代の象徴的な製品であると言える。

 他にもエッジにおけるディープラーニング活用は応用が幅広く、自動車、製造業での異物・不良品検出、宇宙での応用、セキュリティカメラでの混雑状況検出、ドローンの自律操縦などで着々と成果を得ている。

 氏は今後更に低消費電力化・低システムコスト化を図って成長を狙いたい、として講演を締めくくった。 

JISTA会員による公開パネルディスカッション「POST2020における課題」

 モデレーターは富田良治氏、パネラーは赤沼直子氏、仲尾健氏、満川一彦氏、諸葛隆太郎氏の4方であった。

 「POST2020」における課題が世の中においても議論されている。いわく、「オリンピック後に景気が落ち込む」「2025年に団塊世代が75歳に」「労働人口が2000年から2025年に400万人減少する」……等である。

 また、経産省が先頃出した「DX(デジタル・トランスフォーメーション)レポート」も話題となっている。これにいわく、「2025年の崖」「既存システムの老朽化、複雑化、ブラックボックス化、データを有効に活用できない」……等である。

 こうした現状認識の下、斯界の中核を担う日本ITストラテジスト協会の正会員4名が討論を行った。

 経営陣におけるデジタルに関する現状認識と、技術陣におけるそれにはやはり乖離なしとせず、ここにおいて「ITストラテジストの存在意義」があろう、というコンセサスが概ね討論の結論となったように感じた。

 また、「意外と経営側の人は足元が見えず、社内にどういう技能を持った人がいるかがわかっていないことが多い、社内にこういう人がいて、足りない人はこういう人ですよ、とか、そういう当然のことが提案でき、把握して報告できる、そういうこともITストラテジストの職能の一つではないか?」との意見もあり、自分の職場にも人材育成上そういうところがあるな、と感じて参考になった。

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