災害派遣で人を助ける

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 「自衛隊の悪口言う奴なんか、災害時に助けるな!まして『貧乏人呼ばわり』する奴なんか、助けなくていい!」みたいなことを書いている人が結構いて、いや、それは違うぞ、誰でも助けなきゃいかん、何なら戦時だって、敵国の困っている人や、傷を負った敵だって、助けなきゃいかんのだぞ、人道ってモンがわからんのか、などと内心ブツブツ考えていて、ふと次のようなことを思い出した。

 3尉の頃、私は阪神淡路大震災の災害派遣に従事した。神戸では「平和の街神戸を軍靴で踏みにじるな!」だのと一般の人から抗議された。海自からは輸送艦「さつま」他の艦隊が派遣されて神戸港に入り、大いに陸自を助けてくれたのだが、神戸の人々はこれをしも「平和の港たる神戸港への戦争道具の入港を拒否する」などとがなりたてたものだ。

 私も当時若かったものだから、抗議には不満と言うか、なんとはない敵愾心すら覚えた。なにより、私も1個小隊ほどの手勢を指揮していたから、彼ら若い隊員の気持ちも大事にしなければならなかったのだ。

 そんな中、私はたしか当初2週間くらい、部下を率いて兵庫区の人命救助活動に従事した。阪神淡路大震災の被害では、震災後に発生した火災でまる焼けになってしまった長田区の被害がよく知られるが、私が従事した兵庫区のほうは、火災はそれほどではなかったが、震源直上だったこともあって家屋、特に老朽住宅の倒壊がことのほかひどく、多くの人々が生き埋めになり、凄惨な現場となった。

 人命救助とご遺体の捜索がひと段落した後、態勢が変更され、「生活支援」に災害派遣業務がシフトしていった。私は中央区の区役所に設置された自衛隊連絡所の連絡幹部として連絡業務に従事した。連絡所長は私の本属とは違う、よその大隊長(2佐)だった。温厚篤実だが、訓練には厳しく、古武士のような風格のある人物だった。

 倒壊した建物の瓦礫の処理や、破損したり、倒壊の危険がある家屋などの整理について計画・調整するため、そういった建物や所有者のリストが区役所側から提供され、その説明を受けた。

 その時、区役所の職員さんがある建物のところを指で示し、声を少し潜めてこう言った。

 「この建物の持ち主さんなんですがね。共産党の活動家で、市議さんなんかにもつながっていましてね。普段からかなり気難しい、厄介な方ですんで、対応する際にはどうぞ十分お気をつけください。……触らぬ神に祟りなし、手をつけない、というのも、ひとつの案としては、アリかも知れません」

 私は(なるほど)とその言葉を受け取った。自衛隊への抗議活動のことが少し頭をかすめた。私はリストのその部分に、ペンで「〇」に「勢」のマークを書きこんだ。

 今はどうか知らないが、その頃の自衛隊では、国内の注意を要する政治勢力などのことを「マル勢」と略して呼び、〇に勢のマークで表したのだ。

 私はリストを持ち帰り、連絡所長である大隊長に調整結果を報告した。大隊長は温顔でいちいち頷き、疑問点を確かめながら報告を聞いた。

 「佐藤、ところで、リストの、この『マル勢』は、なんだ」と大隊長。

 「はっ、この建物の持ち主はかくかくしかじかで、十分注意を要するとの区役所側からの言い添えがありまして」

 温顔で報告を聞いていた大隊長の表情が、途端に険を帯びた。

 「なに……? だからどうしろと?」

 「はあ、……どう、ということではなく、十分注意を」

 「おい。注意!? 何を言っとるんだ。共産主義者だから、作業の順序を変えたり、作業しなかったりしろと、お前はわしにそう言っとるのか!?」

 「え、いや、決してそのような」

 「馬鹿者!」

 大隊長は大声一喝、怖い顔で私を叱った。

 「いいか、佐藤。そこに住んでいる人、その建物の持ち主、それが誰だとか何の政党だとか、思想だとか、そんなものが関係あるか。それで助けるとか助けないとか、そんな判断をするのか!? 誰でも分け隔てなく、公平に助けるんじゃないのか! この『マル勢』を消せ。わかったか」

 「……。」

 私はこの一部始終を今も忘れない。その後も多くの災害派遣に従事したが、この大隊長の叱正は私の行動規範の一つであり続けた。

 叱って下さった大隊長に、今も感謝している。

 上司に教わったことで長く心に留まったことはそれほど多くない。が、この一幕は、心に長く留まった数少ない教えの一つである。


 この記事は、Threadsに書いた記事の転載です。

投稿者: 佐藤俊夫

 60歳前の爺。技術者。元陸上自衛官。40年勤め上げ、2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者。 セカンドライフはシステムエンジニアになって働いています。

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