「高楼(たかどの)」

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 島崎藤村の「若菜集」に、「高楼(たかどの)」という詩がある。嫁ぐ姉とその妹との、夕まぐれのひとときの詩だ。

 唐突だが、私こと佐藤、オッサン流に現代調へ翻案してみた。

「展望台」 原詩 島崎藤村  現代調への翻案 佐藤

お姉ちゃんが結婚することになりました。
ずっと一緒に過ごしてきたお姉ちゃん。結婚式までの間、寝ても醒めても、お姉ちゃんのことで頭が一杯です。
いよいよ明日はお姉ちゃんの結婚式です。

「ねえ、お姉ちゃん。ちょっと、展望台に行ってみない?」
と誘いました。お姉ちゃんは「うん、いいよ」と言ってくれました。
小さい頃にお姉ちゃんと、この山の展望台に何度も登って、息を切らせながら下を眺め、それからいろんな遊びをしたものです。
このところ、お姉ちゃんは結婚の準備もあり、忙しくて話もできませんでした。
だから一緒によく登った展望台に、お姉ちゃんを誘ったのです。
久しぶりに登る展望台の上からは、子供の頃から慣れ親しんだ、私たちの育った街の眺めが既にもう懐かしく、いっぱいに望めました。

「お姉ちゃん、明日着る服って、もう全部出来てるんだよね?」
「あたりまえじゃない、結婚式の前にウエディングドレスがないなんて、そんなことありえないわよ」

「ねえ、お姉ちゃん、ちょっと寂しくない?」

私の問いに、ちょっと間を置いて、お姉ちゃんが答えました。

「お別れっていうのは、何度もあるわよ、あんたも、私も、これからずっと。・・・なによ、あんたがそんなこと言うから、ちょっとしんみりしちゃったじゃない、・・・あんたと私と、お父さんとお母さんと、昔からずっと一緒だったよね。」

「お姉ちゃんは幸せだよね、好きな人とずっと一緒になるんだよね。明日からもうお姉ちゃんに簡単に会えないって思うと、寂しいよ。」

「あんたは、私と年も離れてるし、これから楽しいことがいっぱい、それこそいっぱいあるわよ。恋だってするし、友達と仲良くなったり喧嘩したり、やり甲斐のあることだって見つかるかもよ?・・・そのたびに、私を思い出すかもね。私、お嫁にいったら、あんたと離れちゃうし、ひょっとしたら、もう一生のお別れかもよ?」

「お姉ちゃんって、小さい頃から私のお姉ちゃんだったよ。眼も唇も、髪も綺麗で、私、いっつもお姉ちゃんみたいになりたいって思ったよ。もう、今日でおしまいなんだよね」

「いつも、あんたが楽しく明るくしてくれたわ。お姉ちゃんが綺麗だなんて、よく言うわよ。あんたの方が優しくて楽しかったよ。歌もうまかったし、ピアノを弾いたりして、小さいころから、あんたは面白かったなあ・・・もうあんたの歌とかピアノとか、聞けないんだ」

「お姉ちゃん、結婚したら、けっこう、大変なんじゃない?家のこととか、全部お姉ちゃんがするんでしょ?お姉ちゃんホントに心配だよ、病気になっちゃうんじゃない?・・・私、今日、お姉ちゃんにあげる花でも買ってくればよかったなあ」

「もう、何泣いてんのよ、しょうがない子ね・・・もう、泣かないで、かわいい私の妹が台無しじゃない、・・・拭いてあげるから、よしよし・・・お姉ちゃん、幸せになるから。あんたのこと、絶対忘れないから。」

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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