Today’s drinking and snacks 今日の酒肴・菜の花の浸しもの

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 最寄り駅「新越谷」の駅ナカ、澤光青果店へ立ち寄ったら、「菜の花」が出ていた。

 いかにも春らしい。買って帰り、浸しものを作って一杯やった。

 例によって動画に撮り、YouTubeにアップロードした。

 動画の中で読んでいる本は、先日老親から貰い受けた「平凡社 世界教養全集 第26巻」から、「アラビアのロレンス」である。

千一夜物語(13)

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 今年の正月前からずっと読み続けていた「千一夜物語」、今日ようやく13巻全部を読み終わった。通勤電車内で少しずつ読んでいたので、約7か月、月に2冊くらいのペースでゆっくりゆっくり読み進めてきたことになる。

 日本でも絵本や童話などの児童文学に翻案されて有名な「船乗りシンドバードの物語」「アラジンと魔法のランプの物語」「アリ・ババと四十人の盗賊の物語」などはフルサイズで全部含まれる他、それこそ「数え切れないほどの……」知られていない物語がテンコ盛りだ。
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 上述の有名な話の他に、「教王(カリーファ)大臣(ワジール)御佩刀(みはかせ)持ち」の話が何度も出てくる。

 「教王」というのは、千年以上前のイスラム帝国──私などは若い頃、学校の歴史の授業でこれを「サラセン帝国」と習ったものだが、今はこの呼び名は「学問の欧州中心主義から来た蔑称である」とされるようになり、サラセン人とかサラセン帝国とは言わなくなったのだそうな──最盛期、アッバース朝第5代教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシード(最近の表記では『ハールーン・アッ=ラシード هارون الرشيد‎ ​ Hārūn al-Rashīd』だそうな)のことである。

 実は、この千一夜にわたる数え切れないほどの物語の全巻を通じて、それこそ最多登場回数ではないかと思えるのが、このハールーン・アル・ラシードなのだ。

 水戸黄門か、暴れん坊将軍かという具合に、大宰相のジャアファル・アル・バルマキーと御佩刀(みはかせ)持ちの宦官マスルールを助さん格さんよろしく左右に従え、変装して街を歩き回り、直接庶民とふれあい、ある時は不正を糺し、あるいは弱者を助け、あるいは珍しいことに驚嘆したりする。

 この最終巻では、そのハールーンがどのようにして教王位を継いだかが、シャハラザードから直接でなしに、シャハラザードが語る物語の中の登場人物の口を借り、話中話として語られる。

 そして、全13巻、千一夜にわたるこの浩瀚(こうかん)なアラビアの古譚集の最終巻の、それも最後に近く、唯一の実話ではないかと思われる一話が出てくる。それは、この3人の主従のうちの最も重要な人物、大臣(ワジール)ジャアファルが、一族もろとも滅ぼされる話である。

 実在の人物であるこのジャアファル・アル・バルマキーは、ディズニーアニメの「アラジン」にも、「大臣ジャファー」として名前が登場する。ディズニー映画では悪役として描かれているが、実際のジャアファルは洒脱で軽妙な性格であり、かつ、教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードの忠実な家臣で、教王のなくてはならぬ右腕であった。
 
 ジャアファルは教王が最も信頼する臣下であったにもかかわらず、突如逆鱗に触れ、王命によりマスルールに首を()ねられる。のみならず、一族もろとも、親兄弟に至るまで滅ぼされてしまうのだ。バルマク家は大きな一族であったため、その処刑は1200人にも及んだという。このことは史実だが、千年以上も前の事なので、研究が進んだ今もその原因ははっきりとはわからないそうだ。この千一夜物語の中でも「原因には諸説がある」とされ、シャハラザードはいろいろな歴史家の説を引用し、この物語の決まり文句風に言えば「さあれ、アッラーのみが真実を知りたもう」として物語を置く。

 さて、最後にもう一度、この物語全体を振り返ってみよう。

 物語のスタートはよく知られるとおりだ。すなわち、妃の不貞と淫乱に怒り狂ったシャハリヤール王が、ついに暴王となりはて、治下の処女を差し出させては一夜(なぐさ)んだだけで殺してしまうようになる。ついに国の処女は大臣の二人の娘を残すのみとなってしまうが、この二人娘のうち、姉のシャハラザードは自ら父に申し出て、暴王のもとへと嫁ぐのである。

 シャハラザードは他の処女たちと同様、一夜で殺されると誰もが思った。

 しかし夜更け、シャハラザードは「せめて妹ドニアザードに今生の別れを告げたい」と王に乞う。王はこれを()れる。やってきた妹はせめて別れに、いつもの昔話を聞かせてください、と姉に頼む。姉は明日の処刑までの時間が許す限り妹に物語をしてやることにし、語りはじめたのが「商人と鬼神(イフリート)との物語」であった。ところが、物語の一番いいところ、途中で夜が明けてしまうのだ。隣で物語を聴いていた暴王シャハリヤールは、どうしても続きが知りたくなり、その日一日だけはシャハラザードの刎頸(ふんけい)を延ばす。

 だが、これは賢い姉妹の作戦なのであった。

 こうして、物語は千一夜にわたる「切れ場」の連続となり、シャハラザードは一夜一夜を生き延びる。また、こうして国中の処女が一日一日、命を救われる。

 この物語のスタート、ここまでのところはよく知られる。あまり知られていないのは、この枠物語の最後、「大団円(めでたしめでたし)」と題されているエンディングだ。それは次の通りである。

 千一夜にわたって物語を聞いた暴王は、物語の中に含まれる教訓や叡智、愛や善悪について聴き、学ぶうちに精神が熟し、寛仁で立派な王に変貌するのだ。そして、決してシャハラザードの命を奪うまいと誓うのだが、この約3年の間には、二人の間には長男と双子、合わせて3人の子供が生まれていたことが、この最終夜に明かされる。お産の間もシャハラザードは王に物語をし続けたのである。王はこの子供たちに、千一夜目にはじめて引き合わされて、感動のあまり涙にむせぶ。IMG_3918

 少女だった妹ドニアザードは大人の女になっており、これは同じく改心したシャハリヤール王の弟王に嫁ぐことになる。そして、弟王は感動して退位し、姉妹の父大臣はその代わりの隣国の国王となるのである。

 最終ページはデザインになっており(写真)、フェードアウトしていくかのように物語が結ばれる。

千一夜物語(11)~(12)

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 毎日の通勤電車内の楽しみ、「千一夜物語」、第11巻を読み終わる。

 このアラビアの古譚集には、よく知られている物語としてこれまでに「船乗りシンドバードの物語」「アラジンと魔法のランプの物語」がそれぞれ5巻と9巻に収められていた。

 つい先ごろ知ったのだが、この中で「アラジンと魔法のランプの物語」は偽書なのだという。研究の結果明らかになった純正の千一夜物語にはこの話は入っておらず、複雑な経緯で後に紛れ込んだ物語なのだそうな。

 だがしかし、その紛れ込んだ時期というのは数百年も前のことらしく、それくらい昔なら、まあ、紛れ込んだいきさつも含めて、「広義の千一夜物語」とみなしても差し支えないのではあるまいか。


 この11巻には、これも童話や絵本でよく知られる「アリ・ババと四十人の盗賊の物語」が収められている。多くの人の記憶にある話とだいたい同じだと思う。このマルドリュス版の千一夜物語では、隠忍自重な善人アリ・ババの射幸と、その女中(女奴隷)マルジャーナの賢く果断な大活躍の、2部構成とでも言うべきものになっている。

 マルジャーナは38人の盗賊を殺すのみならず、盗賊の頭目をも刺殺し、主人一家を守る。私など、むしろその健気さにいとおしさを覚えるのだが、これが理解できず、不愉快だと言う人には何の物語であるかすらもわからないだろう。

 今もしこの物語を絵本にでもすれば、「盗賊はびっくりして逃げて行ってしまいました」とか、「盗賊の頭目はアリ・ババとマルジャーナに(あやま)って、その後みんなで仲良く暮らしました」などというふうに改変されるだろう、「かちかち山」や「桃太郎」がぬるい仲直り譚に改変されているように。

 だが、婆さんを惨殺した狸は責め苛まれた挙句溺死させられなければならないし、鬼ヶ島の鬼はやはり全て滅ぼされなければならなかった。アリ・ババの身の危険は、賢く可愛いマルジャーナの機転と手によって、38人の盗賊どもを煮えたぎった油で()き殺し、盗賊の頭目を彼女の策略で刺殺してこそ、救い得もしようし、完結もするのである。

 引き続き12巻を読む。

 ふと思い出したことに、自分が持っているCDの中に、「これがフィリップスCDだ」という、おおかた30年ほども前のCDがある。CDというメディアができたばかりの頃の、CDそのもののプロモーションのために作られたもので、確か、ソニーの初代のポータブルCDプレイヤーを買った時、無料でついてきたものだったはずだ。

 その中に、ラリー・コリエルというギタリストが演奏する「シェエラザード」(つまり千一夜物語のシャハラザードのこと)という曲の一楽章が入っている。

 不思議な感じのする味わい深い演奏だ。これを聞きながら岩波文庫特有の細かい字を追うのは、まことに楽しいことである。

千一夜物語(10)~(11)

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 通勤電車の楽しみ「千一夜物語」、10巻を読み終わり、次は11巻に進む。

 本当に読み飽きない物語集で、楽しめる。

 この古い物語の中のイスラム教徒は、酒を飲み、「釜掘り野郎」などと言って変態を軽蔑しつつも、なんとはなしにホモやらレズも友達で、「邪教徒は滅ぼされよかし」と口では言いながら、なんだかんだ言ってユダヤ人やキリスト教徒と仲良く暮らしており、つまりは非常に寛容だ。

 アメリカのテロとの戦いの文脈で聞かされるイスラム教徒の頑迷さとは少し違う。

 物語と現実は違うということはわかっている。しかし、本来は多分、現代のムスリムーンも、物語の中の古いアラビアの人たちのように、もっと優しい感じなのではないかと思う。

 なぜ今のように変化したのか、それとも、変化なんかしておらず、イスラム教徒が変な風に感じられるのはアメリカの宣伝によるもので、今も寛容で優しいのか、研究するなりしてみないと本当のところはわからない。いつかよく調べてみようと思う。

片野文吉のルバイヤート

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 へえ、こんなのがあるんだ?……315円とかなら、買ってもいいかな……?うーん、どうしよう。今度また国会図書館へでも行くついでがあれば、その時に読めるんだけど……けど、図書館で急いで読むのは、詩の読み方じゃないしな……。国会図書館、貸出はしてないんだよな……。

千一夜物語(9)~(10)

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 通勤電車の楽しみ、「千一夜物語」、ひきつづきゆっくりゆっくり読み進め、第9巻を読み終わる。

 一千夜にわたって語られるこの長大なアラビアの奇譚、第9巻にはそのうち第622夜から第774夜までが収められているのだが、このうち第731夜から第774夜までは、何を隠そう、この物語集の中で最も知られた物語の一つ、「アラジンと魔法のランプの物語」なのである。

 「アラジンと魔法のランプ」はディズニーのアニメーションなどにもなっているので、知らぬ人のない物語であるが、原作はもう少し素朴で、かつ味わい深い物語になっている。

 他に「目を覚ました永眠の男の物語」「ザイン・アル・マワシフの恋」「不精な若者の物語」「若者ヌールと勇ましいフランク王女の物語」「寛仁大度とは何、世に処する道はいかにと論じ合うこと」「処女の鏡の驚くべき物語」が収載されている。

 この中では、私には「若者ヌールと勇ましいフランク王女の物語」が最も印象に残った。美しいヨーロッパ白人(フランク人)の王女は回教に改宗して主人公ヌールとの愛に生きるのであるが、なぜか美青年ヌールを守るため戦士となって父王が差し向けたフランク軍の一軍団を一人で壊滅させるという支離滅裂な物語である。おいおいヌール、お前が闘うのとは違うんかい!!というようなツッコミどころもさておき、その戦闘シーンの翻訳が「講談」みたいになっているのである。

以下引用・p.225~

 フランク王はこのように将軍(パトリキウス)バルブートが(たお)れてしまったのを見ると、苦しみに我と我が顔を打ち、衣服を引き裂き、同じく軍隊を率いる第二の将軍(バトリキウス)バルトゥスと呼ばれる男を召し出しました。これは一騎討にかけての勇猛果敢をもって、フランク人の間に聞こえた豪傑です。王はこれに言いました、「おお将軍(バトリキウス)バルトゥスよ、いざ、その方の(いくさ)の兄弟バルブートの死の(あだ)を討て。」すると将軍(バトリキウス)バルトゥスは、身を屈めて答えました、「お言葉承り、仰せに従いまする。」そして戦場に馬を走らせて王女に迫りました。

 けれども女丈夫は、同じ姿勢のまま、動きません。駿馬は橋のように、足の上にしっかと身を支えています。見るまに、将軍(バトリキウス)は馬の手綱をゆるめ、姫をめがけて殺到し、穂先は(さそり)の針にも似た槍を擬して駆け寄った。相打つ干戈(かんか)の音は戞々(かつかつ)と鳴る。

 その時、全部の戦士は、彼らの眼がいまだかつてこのようなものを目睹(もくと)したことのないこの戦いの、恐ろしい驚異をよりよく見ようとして、一歩前に進み出ました。そして感嘆の戦慄が、すべての軍列に走りました。

 けれどもすでに、濛々(もうもう)たる砂塵に埋まっていた二人の敵手は、荒々しく相衝突し、空を鳴らす打ち合いを交わしています。かくて両人は永い間、魂荒立ち、凄まじい罵倒を投げ合いながら、戦っていました。そのうち将軍(バトリキウス)は相手の(まさ)るを認めずにはいられず、心中に思った、「救世主(メシア)にかけて、もう我が全力を発揮すべき時だ。」そこで死の使者たる槍をつかんで、振りまわし、敵を狙って、「これを喰らえ!」と叫びながら、投げつけた。

 けれども、マリアム姫といえば、東洋西洋きっての無双の女傑、地と砂漠の騎手、野と山の女武者であることを、彼は知らなかったのです。

 姫は早くも将軍(バトリキウス)の身ごなしを見てとって、その意中を看破してしまいました。されば、敵の槍がこちらに向かって放たれると、それが来たって我が胸もとを(かす)めるのを待って、いきなり宙で受けとめ、肝を潰した将軍(バトリキウス)のほうに向き直って、そのままその槍で腹のただ中を突くと、槍は一閃背骨を貫きました。そして相手は崩れ落ちる塔のように倒れ、その武器の響きは音高く木魂(こだま)しました。彼の魂は永久に戦友の魂の後を追って、至高の審判者の御怒りによって点火(ひとも)された、消し得ざる焔の中に赴いたのでございます……

✦ ……ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ。

以上引用

「見るまに、将軍(バトリキウス)は馬の手綱をゆるめ、姫をめがけて殺到し、穂先は(さそり)の針にも似た槍を擬して駆け寄った。相打つ干戈(かんか)の音は戞々(かつかつ)と鳴る。」

……て、アンタ(笑)、という感じである。

 驚くべきシャハラザード妃の物語は更に次の巻へと引き継がれる。