面倒臭いからもうこれでいいです(笑)

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 いい記事が出ているのだが、なんかちょっと違う。

上記記事より引用
組み込み用OSとは

 OSと聞くと、パソコン用OSのウィンドウズを思い浮かべる人が多いだろう。クラウドサービス(外部に保存したデータやアプリケーションなどをネット経由で呼び出して使うサービス)などに用いられる大型コンピューターでは「ポジックス」というOSが主に使われている。スマートフォンのアプリケーションを動かすアンドロイドOS(アンドロイド端末用OS)やiOS(iphone端末用OS)もポジックスのプログラムを部分的に使っている。こうしたコンピューター用のOSは「情報処理系OS」あるいは「汎用OS」と呼ばれている。

 これに対し、電子機器などに組み込まれている小さなコンピューターを制御するOSが、組み込み用OSだ。

 いや、「『ポジックス』というOS」て、う~ん、……微妙に違うと思うんだが、……半分くらい合ってるッちゃあ、合ってるので、……説明するの面倒臭いから、これでいいですわ、もう(笑)。


追って書き

 面倒臭いのでもうこれでいいですわ、……と言い捨てて放っておくのも技術者としてどうなのかという気がするので、あっさりとではあるが付記しておきたい。

 POSIXはOSではない。「OSが備えるべきAPIの層の規格」である。

 APIとは、コンピュータのプログラムがコンピュータの資源や機能を使おうとする際の「窓口」と思えばよい。この「窓口」の例えで言うなら、窓口を規格化するということは、建物に設けられた窓口の開く方向、位置、大きさ、縁の材質、開け閉めのための手順、……等々、といったことを取り決めておくようなものである。

 「層」と書いたが、これも建物で例えることができる。建物の規格にはいろいろな角度からの規格がある。木造か鉄筋コンクリートか、といった主な材質に関するものや、洋風か和風か、といった内外装に関すること、軸組かツーバイフォーか、といった構造に関することなどだ。これには「洋風・和風」といった抽象的な取り決めから、「木造・鉄筋コンクリート」といった具体的なものまで、「層」のように取り決める事柄が数多く重なっている。コンピュータも同じことで、取り決めておくべきことは非常に多くあり、建築物におけるがごとく、抽象から具象に至るさまざまな取り決めがあるのだ。これが「APIの『層』」と書いた所以(ゆえん)である。

 POSIXはそうした「取り決め」、すなわち「ある角度から見た場合の(つまり、『ある層』の)規格」のことである。

 記事にあるような「ポジックスという名の情報処理系OS」なんてものは、ない。あるのは「OSに関連するPOSIXという名の規格」である。その点でこの記事は誤りである。この誤りは、一般の人のために読みやすく簡単にした、というのと異なる。誤りであるとするのが書き過ぎであるなら、この記者の各種OSに関する理解がこうなのだ、ということになる。

 この記事全体は「いまやITRONが世界標準として確固たる地歩を築きつつある」ということが主旨であり、POSIXに関することは本題ではない。だが、たとえ些末なことであろうと、ここまで縷々述べたような技術的な点について正確さを欠いているということは、この記事が技術的な事柄について述べたものであるだけに、その主旨とすること全般に関する正確さについて疑いが持たれてしまうのも止むを得まい。調査研究本部主任研究員を肩書とする人の書くものであるのなら、技術的に正確な記述がなされなければならない。

 というか、この記事への本来のツッコミどころはPOSIXの話ではなく、「記事はITRONとBTRONを一応区別して書いてはおり、それは正しいけれど、一般の読者にはそんなことなんかわからない。また、ITRONのシェアについて、定量的な根拠を何も書いていない。例えば、『自動車の制御に広く使われている』としているが、ではITRONの市場占有率は何パーセントなのか、という問いには、この記事はまったく答えていない」……というところだろうか。