亭主ドライバ

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 去年のいつぞやの夕刻のこと。

 ウィスキー呷ってダラダラしてたら、「ちょっとお父さん、台所手伝ってよう~」と妻の悲鳴である。どうも洗い物など、台所がたまってしまったようだ。

 もとより、家庭において妻の命令は絶対厳守である。妻は家庭の首相であってみれば、その命令はたとえ家長の私であろうと、墨守死守でなければ近代立憲制度の実をないがしろにすることに繋がっていってしまう。

 それはさておき、妻は台所に私を呼びつけるや、じつにテキパキと私をドライブしはじめるのである。

「抽斗からラップ出して。……違う、右の抽斗ッ。もう~」

「冷蔵庫あけて水に漬けた生姜の鉢をだして!」

「それにラップかけて、野菜室にしまうのよ。」

「それから、フライパンの生姜焼きの残り、アルミカップに小分けにして。」

「それをラップに包んで。休み明けにお父さんのお弁当に入れるんだから。……あーっ、だめよ、ピチピチに包んだら。ふんわり包むのよ。……あーっもう、それは、こう!こういうふうに!!」

「終わったらアッチの椅子に座ってて!」

 これらのことを、自分は洗剤を計ったり皿を洗ったり製氷皿に水を足したり布巾を漂白したりしながら、ピシピシと責め立てるように命ずるのである。

 随所にパイプライン処理や、時として分岐予測なども入ってその最適化っぷりは有無を言わせぬ。

 多分、妻は私よりCPUコアや同時処理可能なスレッドが多い。

 ……ああ、妻はウチの総理大臣なんかするより、4ビットCPUのプログラマになったほうがよっぽど向いていたのではないかと、腹の底から思うわ。