大エルミタージュ美術館展

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 起床して、梅雨前の晴れた空を見上げる。暑くなりそうだな、などと思う。朝風呂を使う。昨日深酒して、そのまま寝入ってしまったからだ。

 最近、土曜日には何かした方が休日が長く感じられるな、と思うようになり、金のかからないこと、図書館に行くとか、そういう行動をとるようになった。……ただ、そのたびに蕎麦を手繰りたくなり、立ち喰いで済ませておけばよいものを、砂場や籔に足を伸ばすものだから、なんとはなし、小遣いは減る。

 さておき、前から見たいなと思っていた「大エルミタージュ美術館展」に行ってみようと思い立った。

 大エルミタージュ美術館は、人ぞ知る、ロシアの一大美術館である。ロシア帝国時代、エカテリーナ女帝の治世に始まって、ロシア革命でも(こぼ)たれることなく、営々と今日まで、目を見張るようなコレクションを維持充実し続けてきたのである。

 最近よく巡回展示があり、数年前にも関西で展示があったようだが、東京方面にはこの春から回ってきていた。ゴールデンウィーク中、行きたいな、と思わないではなかったのだが、混雑に辟易していたのだ。

 それで今日ようやく行ってみた。

 そりゃもう、眼福というのはこういうことだろう。

 展示の説明で初めて知ったが、フランス革命の頃のロシア女帝として知られるエカテリーナ2世は、ドイツからロシア帝室に嫁入りしたのだという。私は生粋のロシア王女だとばかり思い込んでいた。ところが、このエカテリーナ2世と言うのは、亭主のピョートル3世からクーデターによって帝権を奪い、皇帝になったというスゲェ女なのだそうな。知らなんだ。

 で、そのエカテリーナ2世は、自分の出身地であるドイツ(プロイセン)と戦争をしていたのだが、そのゴタゴタで、ロシア帝室から借金を負うハメになった大商人があった。その大商人から貸金のカタに巻き上げた超一級品の絵画の数々を収蔵したのが、この「大エルミタージュ美術館」の始まりだそうである。

 恥ずかしながら、展示品に関する予備知識は「ゼロ」で見に行った。だが、洋画はキリスト教関係の題材が多いので、キリスト教嫌いのくせによく聖書を読む私には、含まれる情報を理解できる絵が多いのであった。

 幼少の頃のイエスとバプテスト(洗礼者)のヨハネを描いたスペインからの蒐集(しゅうしゅう)品、「幼子イエスと洗礼者聖ヨハネ」(バルトロメ・エステバン・ムリーリョ画)という絵に興味を覚えた。イエスが子供の頃にバプテストのヨハネと友達だったという話は聖書には存在しないが、これは当時よくスペインの絵画に取り上げられた題材なのだそうだ。

聖母マリアの少女時代
(フランシスコ・デ・スルバラン)

 また、聖母マリアの想像画もよく描かれるが、その中に幼少時のマリアを描いたものも多いらしく、「お前、ソレ、見たんかい!」というほど写実的である。その一つがこれだ。

 どれもこれも、ヨーロッパが最もヨーロッパらしかった時代の絵であり、見るべきものであった。

 図録と、お土産に絵葉書、本の栞(ブックマーク)など買う。

 さて、森美術館のある森ビルは、500円払うと屋上に行ける。もとより、高いところが大好きな私。「アホと煙は高いところにのぼる」なぞというが、高いところは楽しい。折から、今日は光化学スモッグが発生していたということを後から知り、その通り眺めはあまりよくはなかったが、それでも、都内が一望の下であった。

 東京タワーが真正面だ。

 清々とした気持ちで六本木ヒルズを後にしたことであった。