アイスキャンデーと戦争

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 「アイスキャンデーと溺死」という話がある。

 「アイスキャンデーの売れ行きと、子供の溺死の件数を集計し、最小自乗法を利用して相関を調べたところ、相関係数0.9998と、極めて強い正の相関があることがわかった。アイスキャンデーは子供の溺死に強い影響を与えているらしい。したがって、アイスキャンデーの販売を適切に制限することで、夏の水の事故を減らすことができるはずである。」

…という研究が大真面目に行われたらしい、という話である。

 常識を備えた大人であれば、このおかしな研究が間違っていることに気づいて、誰でも微笑せずにはおれまい。アイスキャンデーと溺死の間には、「気温」という中間要素があり、それをまったく見落としているからだ。

 この極端な例話は、実は出所も都市伝説的に怪しいらしいが、わかりやすく面白いので、統計と数値を利用した一見正確風な論理に騙されるな、といった警句的意味合いでよく語られるそうである。

 この研究を笑う人は多い。だが、「アンタにはこれを笑う資格なんかないよ」と言ってやりたくなるような人が、世の中にはたくさんいると私には思える。

 例えば、警察官が街頭に増えたのを見て、「ああ、いやだ。物騒な世の中になったものだ、昔はこんなことはなかったのに。いやだいやだ」と、反射的に思う人はいないだろうか。

 これは、

 「街頭でパトロールをしている警察官の、面積ごとの人数を集計した。また並行して、単位面積あたりの犯罪発生率を集計し、この二つの相関を分析した。その結果、単位面積あたりの犯罪発生率と、同じ面積あたりの警察官の数には、非常に強い相関が認められた。したがって、警察官の人数を減らすと、犯罪発生件数は減少すると考えられる。」

…というのと同じ理屈だ。「アイスキャンデーが溺死の原因になる」という統計のおかしな結論と、警察官を見て物騒だと言うことと、この二つはあまり違わないと私は思う。

 この警察官を、そっくりそのまま軍隊、軍人、戦車と言ったものに差し替えても同じことが言える。

 「アイスキャンデーを制限して、子供の水の事故を減らそう!」

 「軍隊を廃止し、世界から戦争をなくそう!」

…まるで同じである。

 昨今、安全保障問題は大変なやかましさで新聞やテレビをにぎわしている。私にはその内容について論ずる資格はない。だが、いろいろな意見があってよく、安全保障問題に限らず、重要な問題については徹底した議論が自由に尽くされてこそ本邦らしいと言える、とは思う。

 しかしそうはいうものの、「アイスキャンデーを禁止すると水の事故がなくなる」「おまわりさんをなくせば犯罪が減る」式の、キチガイのようなものの考え方はやめて、冷静に検討と考察を行ってほしい。テレビ広告や編集された街頭インタビュー意見なんかに左右されず、自分の脳で落ち着いて考えてほしいと思う。

(これは当時、Facebookに書いた文章です。)