花、緑、街

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 通勤途上、皇居の外濠沿いに数多く植わっている桜の一つにふと目をやると、ほんの数輪から十輪ほど、咲き始めている。咲いているのはその一樹だけだが、他の木も蕾を大きく膨らませて、今にも咲きそうになっている。

 建ち並ぶマンションの植栽には躑躅(つつじ)皐月(さつき)が多く植えられているが、躑躅に一、二輪ほど咲いているものがあり、皐月も気の早いものがぽつりと一輪、赤く咲きかけている。こうしたマンション周囲の植栽は幅広く長く作られていて、その延々とした緑の帯の中に赤い躑躅が開いた様子は、鮮烈な色のインキをそこに垂らしたようで印象に残った。「万緑叢中紅一点 動人春色不須多」という。まさしくそのように思えた朝だったが、実は「万緑」は、日本では夏の季語である。

 勤務先にある桃色で八重咲、早咲きの特殊な品種の桜は満開と言ってよい程だ。その樹に()(じろ)が来たのを見た人もあった。場所によってはほぼ満開の桜もある。

 東京は世界屈指の大都会で、コンクリートジャングルなどとも言われる。しかし冷静によく周りを見ると、都行政のよろしきを得てか緑化には注意がよく払われており、至る所入念に街路樹や植栽が施されている。私の住む埼玉の住宅密集地などよりよほど緑は豊かだ。