|
資金編Index
さて、住宅を手に入れるも入れないも、私は「借金」と言うことに関して無知過ぎる。無知ということは本来恥ずべきことだ。だがしかし、私はこの無知に関してはちっとも恥じてはいない。だって、借金って、もともと恥ずかしいことでしょ?そのことに関して私が無知であるということは、今まで私がいかに借金と言うものと無縁で、己のみを恃んで生きてきたかという証左になりこそすれ、恥じなければならない要素にはなりはしないと思うからである。 とは言うものの、数十年単位で返さねばならない重い借金をしようと言う者が「へへ、ワシは借金したことないから、そんなこと知らんもんね」というわけには行くまい。それより以前に という話もあるが、 そういうわけで、今までの主義主張などどこへやら、操を失ったアバズレ女のごとく多額の借金を背負う道を転がり落ちてやることにした。まるで好きでもない男に犯されて、その男がイヤなのについ付き合ってしまうダメ女のようだ。 だがしかし、30年もかかって返す借金をするということは、自分の将来30年を安売りしてカネに変えることなのだ、ということを世の中の人はもっと認識すべきであると思う。不動産屋は二言目には「今は金利が安いですから」と言いたがるが、ダマされてはいかんぞ。世の女房連中は自分の亭主に「新しい家に住みたーい」と遊び半分にせっついて、「だって、○×さんのとこだって新築したじゃなーい」などと言いたてているようであるが、 自分の亭主が将来を銀行屋に売り飛ばして女子供の為に身を尽くして住みやすい環境を手に入れようとしているのだと、深刻に認識せんかい。男たるもの、時として社会正義を貫くために仕事を辞めなければならない場合もあるのだぞ。仕事を辞めればローンは払えぬ。収入が減るからね。住宅ローンを組むということは、将来にわたって自らの正義を断行することをあきらめると言うことなのだ。現実の社会と言うものは正義が容れられるようにはできていないから、将来にわたって一定の収入を得ようとすれば、正義を捨て、ウソをつき、悪い上司に従って悪事を働かなければならないのである。 まっ、ウチの女房はそこいらの悪妻と違って、新築してくれなんぞとせっついたことは一度もないがネ、ワハハハ!
住宅ローンは複利計算だ。だが、貯金の時の複利計算みたいに単純ではない。例えば「元利均等返済」という、払う額に変化のない返し方の場合だと、年ごとに元本から利息を計算し、その年返した額から利息分をさっぴいて、残りで元本を減らす。その時に小数点以下を丸めるから、科学技術計算みたいなわけにはいかない。
とは言うものの、一応、式はある。小数点以下を算入したところで、大まかな目安をつけるのにさしつかえはあるまい・・・。
年間返済額 = (借り入れ額 * (金利 * (1 + 金利) ^ 返済期間)) / (((1 + 金利) ^ 返済期間) - 1)
借入可能額 = 年間返済額 / ((金利 * ((1 + 金利) ^ 返済期間)) / (((1 + 金利) ^ 返済期間) - 1))
但し、「^」はべき乗記号とする。
二つ目の「借入可能額」を使えば、私が借りることのできる金額がわかるわけだ。よっしゃ!早速計算だ!! 私がムリなく払える額は、月々6万円だ。ボーナスは払わないから、年間72万だ。えーっと、金利は・・・、各銀行のウェブサイトを見てみると・・・
・・・多くの銀行が、「2年固定」とかいう商品の金利が、平成14年1月現在、1.95パーセントだ。こう言う金利が借入期間にわたってずぅう〜っと続くとは思えないが、話をまず単純にしてみよう。借入期間を長くすると返済がラク、という考えもあるから、期間は35年借りる、と。 サァ計算だ計算だ!! 720000 / ((0.0195 * ((1 + 0.0195) ^ 35)) / (((1 + 0.0195) ^ 35) - 1)) ・・・イコールっ、と・・・
アレでしょ?今、「史上最低金利時代」なんでしょ?それで、私が一生働いて借金返して、使える額が1800万?ダメじゃん、ゼンゼン。だって、建築家のNさんが書いてきた計画って、4000万だもん。2200万足りません。計画中止。 ・・・しかし、だよ。これで計画中止しちゃうのって、残念過ぎるじゃない。もうちょっとなんとかナンネェのかよ。 なにかローン指南みたいなものはないもんか。こういうときはインターネットで検索だ! ウェブ上をさまよううち、もうすぐなくなると巷間騒がれている「住宅金融公庫」のサイトを見つける。ふむふむ。 ・・・しかし・・・それにしても、これって、要するに、「借りるな」って書いてない??そうだよなぁ・・・そりゃそうだ。借金って、本来ハズカシイことなんだもんな・・・。 しょうがねぇ、ボーナスでいくらか返す計画を・・・とか考えて、住宅金融公庫のそのページを見ていたら、
・・・とか出やがる。そりゃそうだよなあ。ボーナスって、普通出るか出ないかわからねーんだから・・・ って、ちょっと待てよオイ。 必ずボーナスは出るんだった。よっしゃあああ! ボーナスと月々合わせて、年間150万がとこ返してやろうかぃ。さあ計算だ!どうだ!
貯金1000万のうち、多くは定期に入ってたり証券買ったり、いろいろやってるから、今すぐ使えと言われて使えるお金は300万ほどだ。それを足せば4000万ちょい。
でもさ、金利って、変わるんでしょ?コロコロ変わるから、「史上最低金利」とか言って騒いでるワケだよな。だいいち、今「史上最低金利」なんだったら、これから上がりこそすれ下がることはないわけじゃない。そういう状態でこんなキツキツだったら、マズいような・・・。 金利って、上がるの?どんなふうに上がるわけ? ・・・っていうか、そもそも、どこのどいつがどうやって決めてるのよ、ソレ。
ちょっととぼけてみたが、金利は日銀が決めたものがモトになっていることは、いかに借金について無知な私といえども、社会人として一応知っている。そのごくわずかな知識を元に、ウェブサイトを検索だ!! そうして、いろんなことを知った。 そもそも金利と言うものは、「公定歩合」によって決まる(らしい。)。その公定歩合が決まると、「短期プライムレート」というものが決まる(らしい。)。「短期プライムレート」、略して「短プラ」は、「銀行が企業に一年以下の短い間お金を貸す際に、基準にする金利」だそうだ。「負債がなくって経営状態にまったく問題がなく、資産をキッチリ持っている」ような企業を仮定し、そういう企業にもしお金を貸すとしたらコレコレこういう金利で貸しますよ、という、「もとになる金利」。それを「短プラ」というそうな。 で、その短プラ、普通は「公定歩合プラス1パーセント」である。 住宅ローンの場合、各銀行が金利を決めるわけだが、普通はどこの銀行でも「短プラ」プラス1パーセント、つまり、公定歩合プラス2パーセント、というのが住宅ローンの金利だそうだ。 で、私が知りたいのは、 ということなんである。 未来が読める奴はいない。専門家に聞けばわかると思いがちだが、その専門家連中が持てる知識を総動員して「絶対にイケル!」と結論して、総がかりでビシバシ予測しまくって投資しまくって使いまくって、 だから専門家に聞いてもダメだよなァ。 そうは言うものの、一応、聞いてみるだけは聞くのが真摯な男の取るべき誠実さ。で、職場の近くの某銀行に電話をかけて、ローンの係の人にアポを取り、昼休みに聞きに行った。 で、いろんな商品のことを聞いた後、切り出した。「あのう、結局のところ、これから金利はどうなるんでしょう?」 女性だったけど、その答えは、秀逸と言うほかはなかったね。 ・・・専門家って、そういうもんなのよ。
未来が読めないときにどうすればよいかと言うと、それは過去を読むことだ。30年未来を読みたければ、30年過去を読むのがよい。必ずしも正しい方法とは言えないけれど、参考にはなる。 私はこれから35年間借金を返そうとしている。だから、過去30年間の金利を調べれば良い。公定歩合のデータは、日銀のウェブサイトから手に入る。
で、これらのデータはCSV(Comma Separated Values)になっているから、テキトーに表計算ソフトに流し込み、グラフでも描いてみれば良い。Excel持ってなくて、1-2-3持ってるから、1-2-3でやってみた。 (最大化) 注目すべきなのは青線の公定歩合だ。これは30年分以上のデータで描画している。その他のものは30年分もデータがないから、20年〜10年前のあたりから描画している。 で済ませてしまってはただのアホ。ここから何か読み取らなければならない。 じっと眺めると、公定歩合には一種のリズムがある。何年かおきに高騰したり下落したりしているのだ。理系の人であれば周期関数だ、FFTで近似だ、と言うかもしれない。しかしまぁ、たしかに絶好の離散データ集合ではあるが、これしきのことでFFTでもあるまい。ダロカンで類型化してみよう。 公定歩合のデータは、過去30年間で3度、高騰している。そして、 と言えるのではないか。 その金利の上下が、今後35年間も同じようにあるとすれば、次のようになることだろう。
住宅ローンの金利が公定歩合に連動するのなら、今の金利にこの上下動の効果を加味すれば良い。そうして、年毎の金利を計算して、で、2年固定とかいう商品を選べば2年間は固定金利なんだから、隔年ごとに効果を加えた新しい金利で計算すればよいわけだ。 で、そんなややこしいこと電卓でなんてやってられないから、ロータス1-2-3のワークシートつくって、35年分エフェクトかけて計算した。 そうしたら、次のようなことがわかった。
ダメじゃん。4000万の家なんて。
その時点で私は、自分の両親に土地を買うかもしれないことを告げた。そうしたら、猛反対されてしまった。 両親の言うことは、全く筋道だっておらず、はっきり言って支離滅裂で、何度聞いてもよくわからない。両親の意見はとにかくナニがなんでも絶対にどうあってもダメなものはダメ。反対!ということなのである。こんなに支離滅裂な意見は今までに聞いたこともない。 全くどいつもこいつも、私を追い込み、莫大な借金を負わせて自分の商売を済ませ、私の血と肉とによって自分の快楽を得、私を窮地に立たせようとするようなヤツばかりであり、信用できない。両親まで敵に回ってしまった。 断るも断らないも、こういう無理な計画をどうして私のところへ持ってきたのか。まずはそれをよく確かめないといけない。 そう思っているところへ、大手業者SHの営業KM氏が電話をかけてきた。「この前のご提案ですが、いかがでしょう?」というわけである。 私には疑問がふたつあった。「4000万円の借金を返すことは私にはムリ」ということと、「本当に家を貸せるのか」ということである。 ふたつ目の「本当に家を貸せるのか」というのはこれはナニか。 私は本来転勤族だ。従って、自宅を購入することには土台無理があるのだ。だからこそ、狭く汚いながらも官舎がある。しかし、その官舎が狭く汚く住みにくいこと、また、その官舎に定年まで住んだとしても、結局最後には何らかの形で自分達の住処を手に入れなければならなくなるのは同じであることなどから、自宅の購入を検討しているわけでもある。しかしやはり転勤はある。 そこでこう考えた。「10年間だけ持ち家に住もう」。 どういうことかというと、転勤族とはいえ、ある程度までなら上司に土下座で頼めば、なんとか転勤しないで済む面も無きにしも非ずなのだ。そうやって、とにかくしがみついてでもなんとか今の職場に置いてもらえるよう努力する。それを伸ばしに伸ばしてぎりぎり可能な年数は、10年ぐらいである。 一方、私には子供がある。子供達を権謀術数と思惑と嫉妬と亭主の役職と陰口が渦巻く官舎になぞ、できれば置きたくない。だからといって借家ばかりに住んでいては破産だ。そういう自分達の快適さ、経済上の観点のほか、子供の教育上の観点から言っても、また子供をのびのびと育てるためにも、持ち家が最も良い選択であると言える。 しかし、子供が大きくなるまでには20年強ほどの年数がいる。20年もの間ただの一度も引越しをしないなどと言うことはどだいムリだが、その20年のうちの大部分を一戸建ての持ち家で育ててやる、ということなら、それならなんとかなるかもしれない。 では、20年のうちの「大部分」というのは、何年くらいを言うか。娘が大人になるまでの20年間、その真ん中へんの10年間を一戸建てで育てるとする。前後が5年づつ。今長女は4歳だから、いろんな物事も理解できる14歳〜15歳までは、一戸建てで育つことになる。 これが私の考えた、「全期間はムリだが、娘達の子供時代の大部分を一戸建てで過ごさせる」計画である。この際、可能な限り単身赴任を排除することはいうまでもない。子供達には父親が必要なのだ。 で、その10年間が過ぎたとしよう。あるいはもっと早く、やむなく転勤になると言うこともあり得る。そのときに購入した家の始末をどうつけるかだ。 先般KM氏とN氏が来たときに、私は「私は本来転勤族で自宅を購入しても無駄遣いになる可能性がある」と彼らに言ったのだ。その時、「貸家にすることもいいと思います」と二人は言った。「私達の計画する家なら、11万とか12万でも借り手はつくと思います」とも言った。なるほど、それなら家賃でローンの残りを返すことも十分可能だ。 だがしかし、本当にそんなに簡単にこちらに都合のよい値段で借り手がつくのか。 こういう対価でやり取りするものは、世の中の原理として、「市場」「需給」によって価格が決定されるものであることは疑う余地はないだろう。日本は基本的に自由経済を基調とする国だから、市場によって物の値段は決まるのだ。土地だって、結局のところは一般のモノの市場とは違うとは言いながらも市場が値段を決めている。昔はマルクス経済学が流行って、「モノには労働価値が含まれているので、モノの値段はそれによって決定されています」などとされていたが、ふっ、ばかばかしい。 なんにせよ、常に過需であれば私に有利なのであり、逆に過給なのであれば私に不利である。この需給に関する数値的な状況を把握して、過去のデータと比較対照すれば、私にもある程度の判断はつく。 つまり、KM氏とN氏の言ったことを確かめるには「賃貸住宅の市場」というものの状況を把握することなのだ。しかし・・・
こんなこと、不動産業者だってそうそうは知るまい。いや、知ってても教えてなどくれないだろうな。しょうがない、これはもう、営業KM氏に聞くしかない。 それで、電話をかけてきたKM氏に、「この市の、賃貸住宅の市場の状況なんかを知りたいんです。」と素直に聞いたのだ。 営業KM氏は、二つ返事で「わかりました。少しばかり資料もございますから、改めてそれをお持ちいたしましょう」と言った。
年が改まり平成14年の1月。大手業者SHの営業KM氏は、建築家N氏と一緒にやってきた。 KM氏は、「REINS」という公共の機構のウェブサイトから印刷した賃貸借の取引の成約状況の一覧表を携えてきた。「REINS」というのは、「不動産流通機構」というものであるらしい。土地や住宅を売ったり買ったりするときには、この機構で公開することになっているようだ。 東日本REINSのウェブサイト http://www.reins.or.jp/ KM氏は、こうまくし立てた。 「佐藤さんが土地を購入されて住宅を建てる、資金計画がご心配だとか、イエイエ全くその点心配ありません、これは銀行が融資をするときに使う資料です、見てください佐藤さんの御年収だと、なんらの無理もないことが解るでしょう、銀行は年収の30パーセントまで返済額にあてる計画でも貸してくれます、30パーセントまでなんですよもちろん税コミで。佐藤さんは800万の御年収だから、満杯まで貸して年240万返す計画でも貸すんですよ、どうです余裕でしょう?仮に佐藤さんの御年収を手取りベースで計算したって、年に150万返す計画ならそれでも25パーセントでしょ?銀行は過去の莫大なデータからこういう尺度で貸すわけですから、逆に言ったら佐藤さんは余裕でこれだけ返済できるわけですよ。賃貸事情ですか?そうですね佐藤さんが建てた住宅を賃貸にするかも知れない場合があるのはそれはもっともです。ささ、この資料を見てください。ホラ、ね?御覧下さい、こーんなヘンピなところで、家賃月々30万なんていうスゲェ物件だって一発で成約してるでしょ?これはですねぇ立地がいいからですよ立地が。佐藤さんが家を立ててそれを貸すに当たってはだからこそなんらの心配もない、佐藤さんが買うべき土地は、かならず借り手は居る立地です。えぇえぇそうですとも結局不動産を借りるも借りないも決め手は「立地」なんですよ。いい土地ですヨあそこは。アノ値段で買えるのは今だけで、後になったら絶対ムリ。絶対にムリムリ。今がチャンスなんですよ最後ですよ今だけなんですよ、そうでしょう?それでも心配とおっしゃるなら、これこのとおり、家賃収入を保証する賃貸システムも私どもSの系列にはございます、大丈夫ですよ、ささ、ご決断を・・・」 ふーんなるほどねぇハァハァ、貸せますよね決断ですよねフムフム・・・と私は頷いて聞いていた。ん??
ちょっと待ってくれ、決断、って・・・? 彼らは市内の賃貸住宅市場の説明に来たのではなく、
のだった。アウアウアウ・・・。 「・・・いやーぁ、決断って言われてもネェ・・・実は親なんかにも反対されてましてネェ」 と私が言ったら、やおら建築家のN氏が口を開き、 「あー、気持ちはわかりますよ。ソレは。でも、親ってものは、逆にそれ、喜ぶと思いますよ?私だって、田舎の親をクニにおいて、それでこちらで商売する、って言った時、『えーっ、帰ってこないのかヨ』って言いましたもん。でも結局、息子が独立して立派になって、商売大きくして、それは親を喜ばせたわけでしょう?佐藤さんが自分で考えて自力で持ち家建てて自分の女房子供をしっかり養って、それは結局親が喜ぶわけじゃないですか。親なんてものは、ネ?反対するもんですヨ子供のすることなんかなんにだって」
私は、みんなが納得して、気持ちよく気分よく、にっこり笑って物事を進めたかったから、もう少しゆっくり親にも説明して、「それならお前の好きなようにせい」とぐらいは言わせてからモノを考えるつもりだった。そしたら「買え買え」ときた。しばらく押し問答をしたが、テキもサルものひっかくもの、ナマナカなことでは引き下がってはくれない。いわく、アノ土地がアノ値段で買えるのは、もう今週だけなんです。今はこうして非公開の物件を商ってますからこの値段なんですけど、来週はこの物件公開しなきゃならんのです。そうしたら○○○○万円にはなっちゃうんですよ。どうかどうか、ココでご決断をおおおおっ!イヤイヤ、私の両親も年老いている、親の意見と冷酒はすぐに効かずに後で効く、老親の言い分を、老い先短いことでもあり、私の都合ではありますがしっかり聞いておいてやりたいのですだから今週返事と言うのはとてもムリ。でもでも、佐藤さん、アノ立地のアノ、あのいい土地が、売れてしまいますヨどうするんです待ってもそれは一週間だけなんですよ市場に出ちゃうんですよアノ土地が!! ・・・などという押し問答をしたあげく、KM氏は次のように言った。 「これは購入申込書です。で、今日コレをご記入いただいて捺印も頂きます。で、それを私が当面は預かっておきましょう。購入申し込みを差し入れはしません。それならまだ購入した、ってことにはならないでしょう?で、佐藤さんに熟考頂き、それで佐藤さんが買おう!と思ったら電話ください。電話一本でこの購入申込書を行使することにいたしましょう。どうです?」 ・・・私は結局、こうしてズルズルと相手の言いなりになって土地の購入申し込みを記入し、ハンコを押してしまった。記入している最中にも、『これを預かっておくと言ったって、このKM氏はこのまま購入申込書を行使するに決まっている。俺もズルズルとこの土地を買うことにしてしまうんだろうなァ』と思っていた。 その週、親の返事を私は待った。KM氏たちが来るに先立って、両親に事情を説明した長い手紙を書いてあったのだ。その返事を私は待ったのである。しかし、返事はこなかった。 結局、親を納得させないまま、私はKM氏に返事をした。 「土地、買いますので、購入申し込みのとおりにお願いします。」 こうして私は、「他律によって」土地を買った。 経験上、こういうことをすると、今後の一連の行動は、全て相手に操られ、相手の意思によって縛られ左右されていき、相手の思うままに使役させられていくことになるだろう。一つの敗北は、爾後の全ての敗北の原因となるのだ。100円とか200円とか言う問題ではない。
なのだ。今後の全ての行動において、土地の購入に際して私がつけてしまったこの汚点は、影を投げかけるに違いない。 こんな大きな買い物をすれば普通はなんだかさっぱりとふっ切れるものだが、ちっとも嬉しくもなく、イヤな後味が残ってしまった。
こうして私は他律によって○○○○万円にも及ぶ大きな買い物をしてしまった。 そうしてもう一度落ち着いて考えてみると、「資金計画に無理がある」点については、まったく解決されていないのだった。 銀行は年の返済額が年収の30パーセントまでなら、ローンにOKを出すと言う。しかし、それはおそらく、
という話ではあるまいか。ヤツらはビジネスで金を貸しているだけで、借り手の幸福なんかどうだっていいわけなんだから・・・。ローンを完済したその次の日に、借り手が首をつって死んだって、そりゃあ銀行屋にはなんの影響もない。 一方、金利の変動を考慮した返済計画だと、私は定年で辞めるとき、退職金を半分ほど使えば、なんとかローンを完済できることが解った。娘達を大学にも行かせないといけないから、残り半分の退職金はないものと思わなければならない。退職金は定年後の生活費には全くならないわけである。したがって、私は老骨に鞭打って死ぬまで働きつづけなければ、
のであった。 ・・・退職金も使って返済、か・・・。 ボーナスはおろか、ついに退職金にまで手をつけるってか。ミジメな宮仕えをエンエンと続けた挙句、ようやく老後を安らいで過ごすためのささやかな元手を得たと思うのもつかの間、焼け石に水の如くに住宅ローンでソレを一気に使ってしまえ!てか!!??
全員悪魔じゃァアア! ・・・もう、どうでもええわい。ワシャ、知らんもんね!!
「土地編」に続く
|