出征兵士と越谷音頭

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 私は埼玉県越谷市に住んでいる。越谷の子供たちの運動会や、盆踊りなどで必ず流れる民謡音頭の一曲に、「越谷音頭」がある。

 運動会や盆踊りでこの音頭がかかる際には、録音や放送の音質があまりよくなく、歌詞がほとんど聴き取れない。レコードも古いため、音がくぐもって聴こえるのだ。私の子供たちも聴き取れておらず、しかもなお、それを「♪はぁ~ァア~ぁああ、はが~ぁげ~ふぅぐ~ぅほ~え~ほひはゃ~ほだぁ~ひ~ぃぃぃ……」と聞こえている通りにモノマネするので、おかしくてたまらない。終わりのほうのメロディで「♪ヘェ~~~ぇえ、え~ぇえ……」と唸るところがあるのだが、そこで声を裏返し、狂ったように「へぇえェエエエェエエェエッええっええッ!!」と目を血走らせて唸ると特に面白い。

 さておき。

 この越谷音頭のこと、特に気にもしていなかったのだが、ふと思い付いてネットで検索してみた。

 驚いた。

 あの聞き取りづらい録音、男女がかわるがわる歌っているのはなんとなくわかるし、男声がなんっか、聞き覚えがあるな、とは思ってはいたのだが、上掲ページによると、それがなんと、かの林伊佐緒なのである。

 歌手・林伊佐緒(明治45年(1912)~平成7年(1995))と言うと、作詞作曲もこなし、日本の「シンガー・ソング・ライター」の先駆けとして知られる。

 で、この林伊佐緒の最も有名な曲と言うのが、実はこれなのだ。

出征兵士を送る歌

 この「出征兵士を送る歌」には逸話が二つほどある。

○ この軍歌(戦時歌謡)は、陸軍省が公募したものだった。林伊佐緒は、この曲に優れた腹案を持っていたが、当時既に音楽家で、有名な歌手であったため、応募しても別枠になってしまうと思われた。そこで、変名・匿名で応募し、見事に1等で当選したという。しかも、他にも公募で1等を取って大ヒットした曲は数多くある。

○ 放送録画時、林伊佐緒の声量はすさまじく、Youtubeの動画を見ると、マイクを口から大きく離しているにも関わらず、バックコーラスのマイクが声を拾って、バックコーラスのボニージャックスを遥かに圧倒していることがわかる。

……という、そういう名歌手・名曲だ。

 越谷で親しまれる、あののどかな音頭を林伊佐緒が歌っていたとは、実に感慨の深いものがある。このギャップ感。

 で、越谷音頭の正確な歌詞が前掲のページで明らかになったので、それを見ながら歌っていたら、これまで耳で聞こえたとおりにモノマネをしていた次女が、

「もうっ、お父さん、あの全然意味の分からない聴こえ方をマネするのが楽しかったんじゃない。無粋に歌詞を明らかにしないでよっ!面白くなくなっちゃうじゃないよぉ~!」

とヌカすのである。

 ぬぅ。もって瞑すべし。

 それと、越谷音頭と一口に言っても、戦前に作られた「越ヶ谷音頭」と戦後作られた「越谷音頭」、旧節と新節の二つがあることも、越谷市民としては弁えておかなければならないところだろう。

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