読書

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 60年前の古書「世界教養全集」を読み続けているが、ふと本屋で見かけた上掲書が気になり、ちょっと脱線して読んでみた。もともとオスマン帝国の歴史に興奮にも似た興味と言うか憧憬を覚えていたからだ。

 それは、イスラム国家であるにもかかわらず、デヴシルメによるイエニチェリ、すなわちキリスト教徒の優秀な少年を改宗させたイケメン揃いの特攻隊をもって東ローマ=ビザンツ帝国を滅亡させ、今もって繁栄するイスタンブール=コンスタンチノープルを陥落させた武勇と、にわかには理解しがたい多様な国家形態が目を惹くからである。

 あの微分音のオンパレードと言える、耳をそばだてさせて止まない独特の軍楽を打ち鳴らしながら、軍船が山越えして金角湾に突入していく様子を想像すると、コンスタンチノープルの首脳陣がそれを見てどれほど肝をつぶしたか、などと思われて興奮する。

 本書は、まずそのコンスタンチノープル陥落をダイジェストして読者を満足させ、次いで、ゆっくりとオスマン帝国の歴史とトルコ共和国の現在までを語る。

 昔からトルコは親日的で、日本もトルコが好きだが、意外に二度の大戦で互いに敵国だったことを意識している人はあまりいないことも、ちょっと触れておきたい。

 

コスタリカの軍事に思う

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 コスタリカは非武装中立だと言うが、トリックはある。

 すなわち、常備軍はないものの、コスタリカの憲法ではアメリカ大陸の安定や国防のための交戦権は否定されていない。そのため、有事に臨時の軍事組織を編成することができ、その場合にはあらかじめ訓練された予備役が召集令にしたがい兵役に馳せ参じる。徴兵もあり、いざとなれば若者を召集することもできる。日本でそのような強引なことは無理だろう。

 コスタリカの予備役制度は、旧体制派の反乱を懸念した内戦時の首魁フィゲーレスが、自らに近い者を訓練し、武力対立の恐れに備えていたことを背景に発足した。1955年に隣国ニカラグア政府の支援を受けた旧体制派が国境を越えて侵入したとき、実際に予備役が召集されている。

 常備軍が廃止されたコスタリカといえども、規律に従う「力」というものは必要で、そのため約1万人の規模をもつ国家警察が国境警備や海上監視などを行っている。その中には、暴徒鎮圧などの中心となる4500人規模の警備隊もある。

 人口わずか500万人足らずのコスタリカに1万人の潜在的パワーがあることは、日本の人口に置き換えれば20万人にも匹敵しよう。そこへ、有事には前述の予備兵役召集と徴兵が加わり、2万人程度の規模の動員ができる。つまり、いざというとき、日本に置き換えると60万人規模に匹敵する軍事力を発揮できるのだ。

 また、通常の警察と異なり、諜報活動を担う諜報安全省の監督下にある特殊部隊は、自動小銃のみならず、各種高度な軍事装備を備えている。米軍との共同訓練にも熱心だ。

 こうして概観してみると「軍隊なんか持たない」と言ってるくせに着々と常備軍事力を蓄えている日本と、「常備軍は廃止しました(でも強力な警察による潜在的軍事力と、予備兵役も徴兵もあって2万人動員できるけどねテヘペロ)」というコスタリカなど、五十歩百歩の似たりよったりである。

 思うに、バチカンみたいな小さな主権体だって、お飾り的とはいえ、今でもスイス傭兵に戦斧(パイク)を持たせて警護させ、厳然と睨みを効かせている。

 人間の歴史は殺し合いの歴史、万巻でも及ばぬ膨大な戦争巻物の集積だ。

「犬猫その他多くの哺乳類と同じように腹を見せて無抵抗恭順の姿勢を見せれば相手にも惻隠の情というものがあり、降参さえすれば侵略されることはない」

というような漠然とした平和獲得方法を夢想する向きがあることも無理はないが、残念ながら人間なんてものは、自ら理性の動物などと定義していながら、その実、偸盗(ちゅうとう)、邪淫、妄語、綺語、悪口、両舌、慳貪(けんどん)瞋恚(しんに)、邪見、嫉妬、差別など、どす黒くおぞましいものが渦巻く腐った大脳を搭載した厄介な(ケダモノ)だ。犬猫のように清純純真無垢天然のそれとは異なる。

 今後千年を経れば、あるいは軍隊も戦争もなく、ひいては盗みも人殺しもいじめも差別もない天国がこの世に実現するかもしれないが、実に無念なことに、私たちが孫くらいの世代に残しうるものは、結局やっぱり軍隊と戦争と盗みと人殺しといじめと差別のある陰惨な世界でしかない。

 それを直視し、その上で生き残るための曲芸じみた振る舞いを演じ続けるしかない。


 コスタリカの非武装中立にシンパシーを寄せるような文章をThreadsに見かけ、それへなんとはない違和感を感じたので、それへのアンチテーゼのコメントは遠慮し、全く独立に新規スレッドとして書いたものに加筆・編集し、転載したものです。

読書

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 引き続き世界教養全集を読む。

 第27巻の最後、三つ目の「ジョゼフ・フーシェ ――ある政治的人間の肖像―― Joseph Fouché: Bildnis eines politischen Menschen」(シュテファン・ツヴァイク Stefan Zweig著・山下肇訳)を読み終わった。昨日3/20(水)(祝日『春分の日』)行きつけの蕎麦屋「SOBA満月」の開店前の待ち行列で本編を読み終わり、解説は昨日、会社の昼休みに読み終わった。

 いつの時代のどんな人物かも知らないまま読み始めたのだが、これがまた、とても面白かった。

 フランス革命にまつわる伝記と言うことであれば、同じ “読書” の続きを読む

志村けんと柄本明の老妓コント

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 突然だが、その昔の「志村けんと柄本明の老妓コント」というのを思い出した。二人が扮する黒紋付の婆芸者が珍妙な掛け合いを演じ、ゲストの若い芸妓をいじめたりするもので、面白かったが、あのデフォルメされた老妓の完成度を素で楽しめる人というのは、今の世の中には最早いないのではあるまいか。神楽坂あたりで芸者を揚げることのできる大人はあのコントなんて見てなかったろうし、若い金持ち経営者なんかは世代じゃないだろうし。


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葬送のフリーレン 第14巻

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 待ちに待った「葬送のフリーレン」第14巻

 Kindleの定期購読配信を買ってあるので、発売日の未明0時にはすぐに読むことができる。それがKindleのいいところで、しかも一昨日の発売日18日はたまたま去る3月9日(日)に働いた分の代休だったから、ゆっくり読める運びだった。

 だが、3月13日に予定していたシステム運用作業がたまたま起こった別のシステム障害の復旧作業で吹き飛び、それが3月18日に延期になってしまい、帰宅が深夜になった。
 だから読めなかった。

 で、結局、Kindleは既に買ってあるのにも関わらず、職場近くの丸亀製麺でお昼に釜揚げうどんを食べ、向かいにある本屋「くまざわ書店」で葬送のフリーレン第14巻の「特別短編小説付き特装版」が新刊書棚にディスプレイされているのを見かけ、その瞬間気絶してしまった。モールの出口のところでハッ!と目覚めて正気に返ったところ、手にしっかり、第14巻特装版とレシートが握りしめられていた。

 昨夜ゆっくりKindleを読み、さっき特別短編小説を読んだ。面白かった。


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定年退職3年目元自衛官の確定申告

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 ほとんどの自衛隊の同期生、御同輩各位と同じく、定年退職して数年たつ自衛官が「ハテいかほどのものか」と興味津々戦々恐々として迎える退職3年後の確定申告を済ませた。

 大したことはなかった。e-Taxとマイナンバーカードでちゃっちゃと申告、他の控除と差し引き、納税65万円。クレジットカード払いでサクッと爽やか納税。アバヨ、おカネちゃん……ってなもんである。

 さて、なんでこんなことが興味津々戦々恐々なのか。それは、自衛隊の定年制度と退職金制度の特殊さによる。

 自衛官は一般の公務員とは異なり、50代前半~後半にかけて定年を迎える。勤務年数が少ないから退職金も大して多くはなく、ために、口を糊するには私のように会社員になるが、頭が悪く人殺しの技くらいしか芸がない元自衛官なんぞに大した雇い主なんかあるはずもなく、たいていは中小企業の安月給でコキ使われる身の上となる。

 だが、そのような暗澹たる将来が見通せてしまうと、「どれひとつ、自衛隊に入隊して定年まで頑張ってみてやろうかい」などという若者がいなくなってしまう。

 そこで、一般の公務員にはない、「退職金の上乗せ」のようなものがある。「若年定年退職者給付金」というのがそれだ。普通の自衛官であれば、今日現在、1千百万~1千3百万程度が支給されている筈だ。

 ただ、この若年定年退職者給付金、受け取り手の退職自衛官にとっては「退職金の上乗せ」なのだが、法的な建て前は違っていて、「自衛官が在職中、将来への憂いなく任務に邁進できるよう、退職後の生活を扶助するもの」という位置づけだ。したがって、「良い会社に就職して高い給料がもらえるようになった者は、給料が高い分、若年退職者給付金を国に返金せよ」ということになっている。

 制度の建て前はそういうことなのだが、貰い手にとっては、一度貰った退職金を、「お前はその後給料貰いすぎてるから退職金返せ」と言われているのと同じという、阿漕というか、なんともやりきれないシステムになっているのだ。

 しかも、2回の分割払いなのである。2回に分けて支払われるが、1回目と2回目の間に再就職した会社での給与を報告させられる。まあ、若年定年退職者給付金は税金から支払われるものなのだから仕方がないが、支払われる側にしてみると、退官して自衛隊とは縁が切れて、まったく関係のない会社に勤めている者が、なんでもとの勤め先に「私の今の給与はこんだけです」などと報告せにゃならんねん、いくら貰おうが俺の勝手やんけ……と感じるのも無理のないところだ。しかしまあ、文句を言っても仕方がないこともわかっているので、源泉徴収票の原本まで添付して、キッチリ正直に報告はする。

 加えてなおかつ、2度目の分割払いの分は、制度の建て前上退職金ではないのだ。税率の安い「退職所得」ではなく、生活扶助のためにやむなく渡すだけだ、ということで税率の高い「一時所得」で確定申告しなければならないのだ。

 他の控除なしに生のまま払うと、23%の税率、私の場合は160万円強を納税しなければならない。

 で、まあ、医療費に配偶者、扶養、保険料、その他諸々の控除を差し引きして、65万円の納税には収まった次第。


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射撃指揮通話の思い出

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 自衛隊を定年で辞めて会社員となり3年経つし、野戦特科部隊から離れて20年以上経つが、今でもふとした折などに

「ヒトサン、こちらニイロク、修正射、送れッ!」

「ニイロク修正射マテ……送れ!」

「座標ヒトニイ、サンヨン、ゴオロク、ナナハチ、標高サン、ニイマル、方位角サンニイ、ヨンマル送れ」

「(復唱) 送れ」

「射撃中の機関銃含む露天掩体陣地、正面ゴオマル縦深ゴオマル、効力射には時限 送れ」

「(復唱) 了解マテ……ヒトサン射撃命令、1中修正、M557瞬発装薬緑4、効力射にはM520時限1発集中、送れ」

「了解送れ」

(指揮所と戦砲隊)「中隊修正射ーッ、中隊ッ!M557しゅんぱぁ~つッ、そーやく緑4、ほういか~くっ、サンニイ、ナナマル、しゃか~くっ、サン、ヨンマル、各個に撃てッ!」

……なんぞという射撃指揮通話が脳内をリフレインし、小声で呟いてしまうことがある。

基準砲班では……

弾薬手 「はんちょーッ、たまっ!」

班長 「よし!」

弾薬手 「よぉ~い、込メッ、いっち、にぃ!!」(ゴチーン、と弾込め)

弾薬手 「装薬緑4!」

班長 「よし!」

照準手 「照準ヨシっ!」

班長 「よし! (手を上にあげて)……よぉ~い、(手を振り下ろす)テッ!!」

ドォーンッ!!

班長 「第2発射ッ」

指揮所 「第2発射、了解マテ、ニイロク、発射せり!秒ぉー時、ヒトニ秒!! 送れ」

前進観測者 「秒時ヒトニ秒了解 送れ」

指揮所 「だんちゃーくッ、今!」(ピカッ、……ドゴーン!!)

前進観測者 「遠ーシ、ニイマル右、左へヨンマル、引けニイ、マルマル 送れ!」

指揮所 「了解マテ、ほういかーくッ、サンニイ、ゴォナナ、しゃかーくっ、サン、ニイゴォ、つぎッ!!」

基準砲班長 「よぉ~いッ、テッ! 第2発射ッ!」

指揮所 「第2発射、了解マテ、ニイロク、発射せり! 秒ぉ~時、ヒトヒト秒、送れ」

前進観測者 「秒時ヒトヒト秒了解、送れ」

指揮所 「だんちゃーくッ、今!」(ピカッ、……ドゴーン!!)

前進観測者 「近シ、線上ッ、増せヒト、マルマル 送れ!」

指揮所 「増せヒト、マルマル、了解マテ。いっぱーツッ!!ホウイカークッ、サンニイ、ロクマル、しゃかーくっ、サン、ニイハチ!」

基準砲班長 「よぉ~いッ、テッ! 第2発射ッ!」

指揮所 「第2発射、了解マテ、ニイロク、発射せり!秒ぉー時、ヒトニ秒!! 送れ」

前進観測者 「秒時ヒトニ秒了解 送れ」

指揮所 「だんちゃーくッ、今!」(ピカッ、……ドゴーン!!)

前進観測者 「遠ーシッ線上ッ!時限、引けゴォマル 送れ」

指揮所 「時限引けゴォマル、マテ! 中2門!! M520時限ッ、秒~時ヒトヒトテンゴォ、ほういかーくッ、サンニィ、ロクナナ、しゃかーくッ、サン、サンマル、斉射ッ!」

戦砲隊長 「中2門ッ! よぉ~いッ、テッ! 第2第3発射ッ!」

指揮所 「第2第3発射、了解マテ、ニイロク、発射せり!秒ぉー時、ヒトヒト秒!! 送れ」

前進観測者 「秒時ヒトヒト秒了解 送れ」

指揮所 「だんちゃーくッ、今!」(ピカッ、……ドゴーン!!……2発の時限信管弾が狙い通り空中爆発)

前進観測者 「曵火(エイカ)ヒトマル! ヒトサン、同一諸元効力射ッ!」

指揮所 「同一諸元効力射マテ! 中隊効力射ーッ、中隊ッ! いっぱーつっ、特別修正、第1、方位角増せニ、第4、方位角引けヒトッ、第5、方位角引けニッ、各個に撃てッ!!」

 ピカピカ、チカッ!!……ドン、ドドドン、ドンッ!……と敵機関銃陣地の頭上に集中曵火(わざと空中破裂させる射撃)が弾着……

前進観測者 「曵火ヒトマル、遠し線上、曵火ヒトゴ、命中…… ヒトサンこちらニィロク、任務終了、機関銃含む敵露天掩体沈黙ッ!」

指揮所 「ヒトサン了解、終わりッ!」

 考えてみたら、小銃ももういっぺん撃ってみたい気もしないでもないが、10榴や15榴の射撃のほうがしてみたいかも。


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読書

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 引き続き世界教養全集を読む。

 第27巻の二つ目、「ディズレーリの生涯 La Vie de Disraëli」(アンドレ・モロワ André Maurois 著・安藤次男訳)を、行きつけの蕎麦屋「SOBA満月」の開店前の待ち行列の先頭で読み終わった。

 いつの時代のどんな人物かも知らないまま読み始めたのだが、面白かった。

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