読書

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 引き続き60年前の古書、平凡社の世界教養全集を読んでいる。

 最近、漫画を読んだりもしていて、こちらの方は休み休みなのだが、しかし、少しずつ読み進めている。

 第24巻の第2作目、「人間の土地 Terre des hommes(サン・テクジュペリ Antoine de Saint-Exupéry 著・堀口大學訳)」を読み終わった。読み終わったのは東京駅八重洲北口にあるバー「The Old Station」内で一杯やりながらのことである。この全集では割合に中著の部類に入り、135ページからなる書である 

 サン・テクジュペリの本は、「星の王子様」「夜間飛行」を若い頃から読み()っている。本書「人間の土地」は、中学生の頃、属していた部活動(水泳部)の顧問の先生だった上野先生という方が愛読しておられ、自分の家の書棚にもこの全集の背表紙にその書題を(かね)て見慣れていたから、知ってはいた。しかし、その頃の私は本書にそれほど興味を()かれず、この巻の一つ前の「アムンゼン探検誌」のほうへ興味が向き、そちらの方ばかり開いていた。

 だからしっかり読み通したのはこれが初めてだ。

 読んでみて、やはり、難解・晦渋(かいじゅう)であることは否めないと思う。それもあって、中学生の私は「チラ見」で本書を遠ざけてしまったのだろう。これは原文だけの所為(せい)ではなく、おそらく、碩学・堀口大學の翻訳の(しか)らしむる所なのでもあろうか。

 だが、既に壮年になって久しい私には、この思索に満ちた内容が染み入るように感じられる。

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気になった箇所
平凡社世界教養全集第24巻「人間の土地」より引用。
他の<blockquote>タグ同じ。p.255より

 君の心に、この出発を促す種を蒔いたかもしれない政治家の大言壮語が、はたして真摯であったか否か、また正当であったか否か、僕は知ろうとも思わない。種が芽を出すように、それらの言葉が君のなかに根を張ったとしたら、それは、それらの言葉が、君の必要と一致したからだ。それを判断するのは君一人だ。ムギを見分けることを知っているのは、土地なのだから。

p.258より

 現在、ヨーロッパには、二億の意味のない人間が更生しようと待望している。工業が、彼らを、農民としての伝統から引き離して、黒い貨車の列が混雑している集散駅のような、これら巨大な猶太人居留地(ゲットオ)のなかへしめ込んでしまった。労働者街の奥で、彼らは、目覚めたいと待っている。

p.259より

 しかし、こういう種類の偶像は、人を食う偶像だ。知識の進歩のために、または病気を癒すために生命を失う人は、自分は死ぬが、同時にまた、生命のため役立っている。領土の拡張のために命をささげることは、りっぱなことかもしれないが、今日の戦争は、その助成すると称するものをじつは破壊している。今日では、種族全体に活を入れるために、少量の血を流すなどということはなくなっている。飛行機と爆弾とでなされるようになってから、戦争は、一種血まみれな外科手術でしかなくなってしまった。お互いにコンクリートの壁で作った隠れ家の中にはいって、仕方なしに毎晩毎晩編隊を送っては、相手の内臓部を爆撃し、その生命の根源を破壊し、その生産と交換を付随ならしめる。勝利は最後に腐るほうの側にある。しかし双方とも、たいていは同時に腐ってしまうのだ。

 上のような部分は、人間の本然の姿への回帰への衝動だと喝破しているかのようであり、感動を覚えた。これらの部分は、あえてだろうか、第7「砂漠の真ん中にて」の後に第8「人間」として置かれている。この構成と内容が相俟(あいま)って、戦慄に似たものさえ胸に迫った。

 この書の真骨頂はこの章「第8」にこそあると思う。

 次は引き続き第24巻から「たった一人の海 Seul à travers l’Atlantique, A la poursuite du soleil, Sur la route du retour」(アラン・ジェルボー Alain Gerbault 著・近藤等訳)を読む。一書にまとめられているが、どうやら「たった一人の大西洋 Seul à travers l’Atlantique」「太陽を求めて A la poursuite du soleil」「故国への道 Sur la route du retour」という3書の合本(がっぽん)であるようだ。この巻の半分ほどを占める大著なのだが、これまで全く興味を覚えなかったので、どんな内容かも知らない。とにかく読んでみよう。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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