漫画及びアニメ「異世界おじさん」と私

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 標記「異世界おじさん」。面白くて、何度も読み返し、アニメも全部見た。

 連載開始は5年前の6月から、単行本の1巻は同じく11月、アニメの放映は今年の春までだったから、流行からは少し遅れて楽しんでいることになる。

 とはいうものの、私がこの漫画を知ったのは令和元年(2019)頃のことで、割と早くから注目してはいた。最寄の旭屋書店にフラッと立ち寄った際、「立ち読みお試し」で第1巻の半分くらいに減らしたものが書棚に吊るされていた。それを読んでとても面白かったので、以来ずっと全部読みたいものだと思っていたのだ。

 その後、この漫画を読みたい読みたいと思いながら読まずにうち過ぎてしまった。これほどの大ヒットになったり、アニメ化されたりしていたことは全然知らなかった。単純に忙しかったからだ。

 私は令和4年(2022)に40年間勤めた自衛隊を定年退官して会社員になった。それで忙しかったのである。また、去年の冬には母が亡くなり、身辺がゴタついてもいたので、漫画を読んで笑って過ごすというわけにもいかなかった。

 そんな日々だったが、先月、不覚にも新型コロナウイルス「COVID-19」に(かか)ってしまった。実のところ大したことはなく、多少高熱は出たものの、それは風邪でもはしかでもインフルエンザでも同じことだ。熱も一両日くらいで下がってしまった。私の自衛隊時代の同僚も含め多くの人が亡くなっている中で、後遺症も特になくさっさと完治した僥倖に感謝しなければなるまい。とはいうものの、会社で人に感染(うつ)しまくるわけにもいかないから、ルール通り家にいなければならない。いきおい、無聊(ぶりょう)である。

 無聊は逆に楽しみでもあって、Kindleで「異世界おじさん」単行本既刊分を全部買って読むことができた。

 さておき。

 会社勤めは忙しい。自衛隊が暇だったというわけではないが、定年前は多少偉くなっていたから、余裕もなくはなかった。自衛隊では部下同僚と雑談をすることは、自殺や精神病予防、暴力その他のハラスメントを排除する上で重視されていて、これは「服務指導」と呼ばれ、目くじらを立てられることはなかった。だが、会社では新人であるからせっせと働かねばならぬ。上司同僚と無駄話をしている暇などは全然ない。会社では当たり前のことなのだろう。

 とはいえ、たまさかには飲み会や時ならぬ昼餐(ちゅうさん)会もあり、そんな折には雑談に花が咲く。私も水を向けられると自衛隊時代の話などをすることがある。

 40年もの間苦労した自衛隊のことなどさっさと忘れてしまい、新しい仕事に精を出したい。定年前にそこそこ偉かったことなど完全に忘れ去り、一新入社員として謙虚誠実に仕事をして給料を貰いたい。……そういう気持ちは山々(やまやま)なのだが、「異世界おじさん」のように記憶を消す魔法などはないから、忘れることは不可能だ。だから話の流れがそうなると、話さざるを得ない。

 「そういえば、昔、こんなことがありましてね」と昭和50年代(1975~1984)の自衛隊の話をすると、皆面白がって聞いてくれる。昭和の大昔の話に限らず、ごく最近の話でも、新聞やテレビではまったく報じられることのない話もあって、そういう話も、秘密に触れないよう注意深く話すと、皆、感心驚嘆の(てい)で聴き入ってくれる。新入社員とはいえ年配者である私への配慮や遠慮、気遣いを差し引いても、面白がってくれていることがわかる。

 私は退官後エンジニアとして会社員になったのだが、40年も自衛隊にいたという経歴と、そこからは推察しづらい今の私の仕事への熟練ぶりとのギャップが、周囲の人たちには珍しいものに映るようだ。また、普通の会社の習慣などに一驚一嘆し、昼休みに都会のおいしいランチに舌鼓を打って喜んでいる私の様子も、周囲の人から見ると微笑ましいもののようだ。

 ふと思った。私は漫画の「異世界おじさん」を面白がっているが、私自身は、周囲の人からすると「異世界おじさん」のようなものなのではないか。たしかに、ずっと会社勤めをしている人にとって自衛隊なんて異世界そのものでなくて何だろう。しかも、1任期や2任期の4~5年、あるいは10年やそこらチョッピリ自衛隊のメシを食ったというような素人連中とはワケが違う。15歳で自衛隊に入隊し、40年もの間ドップリと自衛隊の水に()かり、否、水に浸かるどころか泥水をも相当飲み、17個あった階級を14個も昇った私だ。これが「異世界から来た人」でなくてなんだろう。そう思うと、自分で自分がおかしくてたまらない。

 そう感じてみると、忘れたいと思っていた筈の自衛隊の記憶も、人に話してみると相手が喜ぶからこちらも存外(きょう)が乗り、嫌な気持ちも薄らぐのだった。

 休題。

 この漫画「異世界おじさん」で一番面白いところだと私が思うのは、第3巻の19話~20話あたりで、漫画で読んでもアニメで見ても、何度見ても腹を抱えて笑ってしまう。よくこんな話を練り上げるなあ、と、作者「殆ど死んでいる」氏の才能に驚嘆するばかりである。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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