Monocle(モノクル)

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 モノクルを一つ買った。いわゆる片眼鏡だ。他人が感じるであろうよりもかなり実用的かつ合理的だ。二つほど感想を。

感想一つ目

 一つ目。

 そもそもなんでこんなものを買ったのかというと、老眼のためである。視力の良い私は――なにしろ自衛隊で毎年受けることになっていた健康診断の視力検査では、視力検査図の一番下まで正確に見分けてのけ、「2.0『以上』」などと判定されたことすらある――その分逆に老眼が早く来てしまい、34歳の頃から老眼鏡をかけている。視力の良い人に老眼が早く来るというのはよく言われることのようだが、私の見るところでは、視力の良さがゆえに僅かな見えづらさに敏感であったということではなかったかと思う。

 そんなわけで、かれこれもう20年以上も老眼鏡のお世話になっている。

 老眼鏡で困るのは、付け外しだ。というのも、老眼鏡をかけると遠くが見えない。しかし老眼鏡を外すと今度は近くが見えない。なので、こまめに付け外しをするが、それが面倒だ。おっさんの場合その面倒を(いと)い、眼の半分下に老眼鏡をずらしてかけ、遠くを見るときには眼鏡の上縁越しに裸眼で見、机の上の書類など近くを見るときは下に視線をずらして老眼鏡のレンズを通せばよいからで、これが言うところの「鼻メガネ」というやつだ。私も普段はラウンドタイプの古臭いデザインの老眼鏡を鼻メガネにして仕事をしている。

 ただ、鼻メガネはいかにもじじむさく、おしゃれな女性は鼻メガネを嫌う。だから女性では、付け外しが便利になるよう、首掛けの細い金チェーンなどで胸前にぶら下げてみたりする人も多い。余計な話をすれば、敏感な女性は老眼鏡の「老」という漢字を嫌い、殊更に「リーディンググラス」などと英語で誤魔化(ごまか)したりもするようだ。だが、日本語には複数形がないからこれでもよいが、英語で言いたいなら「Reading Glasses(リーディング・グラッシーズ)」と複数形を用いなければならぬ。「グラス」だと、今私がここで取り上げようとする「Monocle(モノクル)」の意味になるのだ。

 さておき、付け外しの面倒を解決するには遠近両用レンズというのもある。もともと近視だった人が老眼になると、見える範囲が狭まって非常に不便である。それで、レンズの上側が近視用の凹レンズ、下側が老眼用の凸レンズになっているものをかける。昔はこの上下のレンズの境目に細い線が入っていて、その線を目当てに視線をずらしてものを見たものであったが、今の遠近両用レンズはシームレスな研削で作られていて、自然な視線移動でものを見ることができるようだ。

 で、長年そのような不便を抱えつつ、ある時、ネットを漫渉していて、モノクルに興味を持った。「昔の欧米人や明治時代の日本人は、なんでこんなものをかけていたのだろう」ということである。勿論、これは「伊達(ダテ)」でもあったのだが、結論から言うと「遠近両用眼鏡」なのである。すなわち、モノクルを着けた側の眼が近用、着けないほうの眼が遠用になるのである。

 実際、購入したモノクルを着けてみると、なんと便利なこと。

 これまで、仕事に行くときは勿論のこと、例えば買い物に行くときなどでも、品物に書いてある字が見えないから老眼鏡を持っていくのだが、かけっぱなしでは遠くが見えないからポケットに入れて持っていくことになる。ところが、ポケット越しに壁や物にぶつけたりするとすぐに老眼鏡は壊れてしまう。ましてや毎日の仕事で鮨詰めの通勤電車に乗るときは尚更で、人に挟まれてモミクチャになって壊れてしまったこともこれまでに何度かある。満員電車の場合、首から老眼鏡をチェーンなどでぶら下げても同じで、モミクチャになって壊れてしまう。また、電車の場合、上着の胸ポケットでないほうのポケットに老眼鏡を入れて座席に腰かけているとき、不用意に上着の裾が開いて隣の席に拡がっていて、その上に人が座ってしまい、その人が無雑作な人物で勢いよく座られたりなどすると「ベキッ」と簡単に眼鏡が壊れてしまう。さりとて、ケースに入れて携帯するとかさばり、しかも必要な時にモタモタとケースを取り出して蓋を開けて老眼鏡をかけねばならず、ここぞという機微な時に困ってしまう。

 そういったすべての場面でモノクルは便利だ。シンプルな構造だから多少のことで壊れない。首からかけて電車に乗っても壊れるところはない。しかも左右で遠近両用になり、ずーっと着けていても不便なことがない。

 日本人の眼窩のつくりではうまく装着できないという言う人も多いようだが、それも人によるのだろう。私はあまり気にならない。

感想二つ目

 

 さて、二つ目。

 モノクルは購入しようとしてもなかなか見つからない。Amazonには度なしレンズの伊達モノクルがいくつか見つかるが、これは度なしだから老眼にはどうにもならない。最近の若者はハロウィーンの仮装などに購入するようだ。

 それで、私は英国ヨークシャーにある有限会社ジョイアス JOIUSS Ltd. という眼鏡店の「モノクルマッドネス Monocle Madness」というブランドを購入した。今のところ、同種の品物は世界広しと言えどここでしか扱っていないようだ。

 去る9月17日に同店のウェブサイトで購入してしばらく待っていたところ、見慣れない英文のメールが何通か着信した。なんだまたSPAMかよ、まあ、いいけどさ、なんぞと思って消そうとしたが、ん?ちょっと待てよと開いてみると、なんと、英国「帝国郵政 Royal Mail」のブランドマークが描かれている。

 この帝国郵政、今は会社組織が運営しているそうだが、1516年というから500年以上前、ヘンリー8世によって創立された王立逓信省が前身なのだという。16世紀、日本でいえば室町~戦国時代のことだから、相当昔のことだ。

 その後、日々刻々と、「出荷しました」「輸送便に乗りました」「日本に着きました」等、トラッキング連絡が来た。今度は日本郵政のウェブサイトで「川崎の国際交換局に着きました」「通関手続き中です」などとすぐにわかる仕組みになっている。

 まったく、なんと精緻で、良い時代に我々は生きているものだなとつくづく感じる。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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