短波とダイポール・アンテナ

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 別になんの必要があるわけでもなしに、無駄遣い、気晴らしでAIWAのラジオを買った。短波や長波も受信でき、PLLシンセサイザー同調のものだ。1万円以下で買える。結構売れているらしい。十数年前までソニーなどからBCL用途でこういうラジオが出ていたが、PLLシンセサイザー搭載のものだと当時4万円くらいはした。今、ソニーはもとより国内メーカーの殆どが高性能ラジオからは撤退してしまったらしい。

 私などが子供の頃、小学生や中学生の趣味として「BCL」は代表的なものと言えた。もちろん「DX」と称して、遠方にある受信困難な海外の短波放送を受信するのが醍醐味ではあったが、小学生にも入手できる普通のAMラジオでも、北京放送や朝鮮中央放送、モスクワ放送などの近隣諸国の放送は聴くことができた。日本語放送は一定の時間しかかからず、各国語の放送は聴いても意味がわかるはずもなかったが、音楽などは聴いているだけで面白くはあった。北朝鮮から各国に放たれた工作員に向けての「乱数放送」は、聴くだに不気味で、しかしそのゾクゾク感がたまらなかった。意味もなく聴き入らせてしまう魔力のようなものを乱数放送は持っていた。

 中学生の頃、父が短波の受信できるラジオを買ってきた。ソニーの「スカイセンサー」という銘柄で、ICF-5600という型番だった。私のためのものではなかったが、末っ子の私が家族を押しのけてこれに夢中になった。

 私は中学校を出ると陸上自衛隊に入り、旧少年工科学校を出て特殊無線技師になった。それもこの子供の頃のBCL体験が大きく関係していたろう。

 さてこの程買ってきたAIWAのラジオを試してみる。当時と変わらず、北京放送は高い感度で入るし、朝鮮中央放送の「平壌の声」は、電離層のフェージングで眠気を誘うように途切れながら、相変わらずあの激越な調子で米韓をコキ下ろしている。

 ただ、インターネットの進歩は残酷なもので、十数年前から各国は次々と長距離短波放送を取り止めてインターネット経由のストリーミング配信などに切り替えてしまい、モスクワ放送などももうやっておらず、人気放送局だったラジオ・オーストラリアの日本語放送も、とうの昔にないらしい。しかもなお、数十年もの間休むことなく発信され続けていた日本標準電波「JJY」の短波放射も、既に20年以上も前に廃止されていたのだそうな。子供の頃の私は単調な標準電波の秒時音を聴いているだけで妙に落ち着いたものだったのだが。

 しかし、それでも短波帯には多くの海外放送がまだまだひしめいており、聴き取れぬながら多くのポイントでPLLが同調する。

 どうもよく聴きとれない、となれば鮮明に受信してみたくなるのが人情というものだ。

 こう見えて私も無線技師のはしくれ。それ来た待ってましたとばかりリード線の余り切れを取り出し、即席のダイポール・アンテナを作って張り伸ばす。

 ダイポール・アンテナの原理と作り方は簡単だ。マクスウェルの電磁波理論によって無限大の速度で空間を突き進もうとする電波は、アインシュタインの相対性理論によってその速度が光速で頭打ちとなり、結果、一秒間に3億メートル進む。従って、3億を周波数で割れば、これがメートル単位の一周期の波長である。

 電線を2本揃えて持ってきて、その一方を直角に開き「T型」にする。「T」の横棒の両端の長さを上で述べた波長の丁度半分にすると、電波は電線の中を共振し、電気エネルギーとして電線から取り出せるようになる。電線を2本使うから、これを「ダイ di 2」ポールアンテナというわけだ。

 聴こえにくい朝鮮中央放送のあたりを聴いてやろうと2分の1波長の約12.8メートルを割り出す。その更に半分、6メートル40センチのリード線を両側分の2本、ラジオへの引き込み分の長さを足して取り、先端にラジオへの接続用の3.5mmモノラルミニプラグを取り付ける。

 私の自宅は2階の曲尺(カネ)勾配の三角天井から1階の床まで、階段を経由してほぼ吹き抜けで、天井の一番高いところからこのダイポール・アンテナを吊るすと、丁度2階リビングのテーブルの辺りがラジオへの引き込みになる。

 こんな簡素で雑なアンテナでも、波長をぴったりに合わせてあるから、ラジオに接続した途端、目の覚めるような高感度で放送の音声が入る。

 単に気晴らしの遊びでしていることだが、楽しい。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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