浅草・並木藪蕎麦

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 忙中有閑。

 最近、蕎麦と言うと赤坂の室町砂場へばかり行っていたが、今日は久しぶりに浅草・並木籔蕎麦へ行った。平成26年の3月以来だったか。ほぼ3年ぶりだ。

 昼時は混んでいるから、行くなら14時半ごろが適当だ。これは東京の蕎麦名店全部に言えることである。この店は中休みをとらないので、なおのこと午後の遅い時間に行くのが良い。

img_4886 とりあえず酒を一合。通しものは固く練った蕎麦味噌で、これが案外に甘く、香ばしい。

 以前は浅い青磁の盃を出してくれていたように思うが、今日は切子硝子(きりこガラス)の盃で出してくれた。酒はいつも通りの菊正宗、落ち着く旨さだ。

 以前に来たときは、客の世話をしていたのはすべて女の人ばかりだったが、今日は若いお兄さんが一人いたのも興味を惹いた。

img_4887 肴に焼海苔をたのむ。この店も下に熾火の入った炭櫃で出してくれる。乾いていてうまい。ごく濃い口の醤油と山葵を添えてくれる。

img_4888 盃に一杯ほど残っている頃おいに、「ざる」を一枚たのむ。

 この(みせ)の最大の特徴は、東京随一とも言える、この辛汁(からつゆ)だろう。だが、単に醤油がキツいとか、塩辛いというのとは違う。複雑な味が様々に溶け込んでいて、旨い。

 蕎麦湯は土瓶で出してくれる。(つゆ)の塩気がきいているので、蕎麦湯に少しずつ差せば全部飲み切ってしまえる旨さだ。

菊正宗 1合 750円
焼海苔 750円
ざる 750円
合計 2250円

 この店の値段は、更科と砂場のちょうど中間ぐらいである。50円ほど値上げしたのかな、と思ったが、記憶違いかもしれない。

 のんびり飲み、藪蕎麦ここにあり、というほどの蕎麦を名代(なだい)辛汁(からつゆ)で手繰って、まあ、安いという程ではないにもせよ、「そんなに高くない」のであるから、まことに幸せである。

 自作「東京蕎麦名店マップ」に写真を足しておく。

室町砂場 赤坂店

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 国会図書館へ「太平記」「梅松論」その他千早赤阪城の闘いに関するものを読みに行った

img_4807 その後、今日も蕎麦を手繰ろうということで、国会図書館から歩いて行ける最も近い名店、標記「室町砂場 赤坂店」へ行った。

 「室町砂場 赤坂店」は、国会図書館からは15分ほどで歩いて行ける距離にある。国会議事堂の前を通って、首相官邸の裏へまわり、溜池山王から山王日枝(さんのうひえ)神社まで来たら大きく目立つTBSのビルのほうを目指すと良い。TBSの反対側の裏通りに、渋いたたずまいのこの店が見つかる。

 店は小さく、数寄屋造りの渋い2階建てで、赤坂とはいえ裏通りの静かなところにある。

img_4806 空いていると踏んだ土曜の午後の遅い時間、臆せず暖簾をくぐる。

 先客は二組ほどで、妙齢の白人女性と日本人女性が卵焼きなんかをつつきながら低声の英語で話し込んでいたりした。

img_4809 私はまず酒を冷やで一合、それから焼海苔を頼む。なんだかこれが蕎麦屋での習慣のようになってしまった。

 酒は菊正宗だ。海苔は蕎麦屋でよくある炭櫃入りではなく、「神田・まつや」と同じように小さい海苔箱に入れてくるが、言うまでもなくよく乾いており、厚手の上等の海苔で、がっしりと旨い。それに、他所より多く入っている。

 通しものは浅蜊と針生姜を時雨(しぐれ)風に薄味で煮付けたものだ。旨い。

img_4810 いつものとおり、一杯ほど酒が残っている頃おいに「もり」を一枚頼む。

 他の砂場と同じく黒からず白からず、それでいて歯応えのある、しっかりした蕎麦が出てきた。(つゆ)は濃い目だが辛くはない。多すぎない程度に盛られており、また上手に盛ってあるから絡まることもなく、手繰り易い。

img_4811 蕎麦湯は濃い目に蕎麦粉が溶け込み、飲み応えがあってうまかった。

菊正宗 1合 750円
焼海苔 350円
もり 600円
合計 1,700円

 全部で1700円ちょうどだ。それほど高くなく、あっさりと楽しい飲み食いであった。

 このところ毎週蕎麦ばかり手繰っているが、面白いし旨いので、やめられない。

 「東京蕎麦名店マップ」を更新し、この店の写真も載せておく。

img_4814 酒臭い息では信心の上でどうかとも思ったが、山王日枝(さんのうひえ)社に詣でて帰った。

平日に「巴町 砂場」

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 私は若い頃から長年、ゴチャゴチャしたDQN(ドキュソ)職場で働いている。色々と前近代的で不便な職場だが、そういう職場なので不満や愚痴を言っても仕方がない。

 だが、そんな私の職場も、鈍重ながらも世間の潮流には乗っていってはいる。最近は「男女共同参画」とか「ワークライフバランス」というようなことにも相当注力するようになってきた。色々な施策のお陰で、子育て世代などは一昔前と比べると大変恵まれている。

 今日も上の方からの施策で「とっとと帰宅しろ」というような日にあたった。こういう日は朝7時には出勤して、給料分の時間は働くという仕組みだ。ありがたいことだが、しかし、帰れもヘッタクレも、昨日の日曜日には有無を言わせず呼び出されて終夜働かされており、その分の時間はなんだかウヤムヤにどこかへ行ってしまっているのだから、なにやらいい加減ではある。

 さておき、こういう日にしかできぬことだってある。例えば「土日祝が休みの蕎麦屋に行く」、これであろうか。

 そうと決まれば、遠く江戸時代の砂場蕎麦に続く東京屈指の名店、「巴町 砂場」に行くしかなかろう。

 改めて簡単に記せば、大坂城築城のための土木置場――これが()うところの『砂場』――にあった「和泉屋」という蕎麦屋の流れを汲んで、江戸に店開きしたのが(こうじ)町(麹町)七丁目「砂場藤吉」(今の三ノ輪の『砂場総本家』)、久保町「砂場長吉」などである。「砂場藤吉」から暖簾分けしていったのが今の「虎ノ門 大坂屋砂場」と「室町 砂場」で、「砂場長吉」が今の「巴町 砂場」である。その辺りの事は先日このブログにも記しておいた。いずれも東京屈指の砂場の名店だ。

 三ノ輪の「砂場総本家」には既に行ったし、また、「虎ノ門」と「室町」は土曜日もやっているので、先日念願を達成して2店ともに行った。しかし、「巴町」だけが「土日祝は休み」であり、平日はあまり時間のない私には行けないのである。

 何にせよ、「早く帰れ命令」の今日と言う今日は、これは「巴町に行け」という神のお告げにも聴こえるものがある。

 「巴町 砂場」の営業時間は昼11時~14時、夜17時~20時だ。このことだけをとってみても行ける人を選ぶ蕎麦屋さんだ。

 だがともかくも、職場から地下鉄を乗り継いで急いで行く。最寄り駅は「神谷町」で、これは東京タワーの最寄り駅としてもよく知られている。「巴町 砂場」には神谷町駅の3番出口から出るのが一番近い。

 地上に出るとそこが「桜田通り」だから、これを北の方へ2、3分も歩けば、通りの右側(東側)に店がある。

img_4790 店はビルの1階にあるが、美しく、店内の趣味も非常に良い。入って右側の床の間ふうのしつらえに生け花と日本人形が飾られ、店の奥には切り火鉢風の囲み卓の席もある。

img_4792 いつも通り酒と、焼海苔を頼んでみる。酒は菊正宗、通しものは枝豆だ。海苔は蕎麦屋のお決まりで、下に熾火の入った炭櫃で供される。

 海苔は厚手のいい香りのもので、日本酒にまことに合う。山葵もおろし立てで旨い。

 ゆっくり飲んで、一杯ほど酒が残っている頃おい、「せいろ」を一枚頼む。この店の名物は「趣味のとろろそば」と「特せいろ」だと調べてきてはいるが、初めて入ったのだから、スタンダードなものを、と思ったのだ。

img_4795 想像通り、純正・中立な、「蕎麦の中の蕎麦」だ。太からず細からず、黒からず白からず、しなやかで味も香りも良い。蕎麦(つゆ)は辛くなく、穏やかな、出汁(だし)のきいた(つゆ)である。その辺りは「辛汁(からつゆ)」が自慢の「藪」とは一線を画する。薬味の葱はしゃきっと切ってあって、香りが良く、旨い。

 また、蕎麦の盛り方が良く、とかくよくありがちな、「絡まって手繰りにくい」ということがない。

 蕎麦湯はわざと蕎麦粉を溶くようなことをしていない、澄んで、香りのよい本当の茹で汁であった。おいしいので全部飲んだ。

 品が良く、店も綺麗であった。酒と肴、蕎麦で2千円と少し。安いな、と言う程ではないが、「そんなに高いわけではない」値段で、堪能できる飲み食いであった。

 外に出てみると、日比谷線が止まっていた。霞が関で発煙騒ぎがあったと言う。「霞が関・発煙・地下鉄」などと聞いて、昔の「地下鉄サリン」のことを思い出してゾッとするのは私だけではなかったろう。

 虎ノ門まで歩き、そこから新橋、浅草、北千住、と迂回乗り継ぎをして帰宅。

 平日にしては面白い飲み食いだった。

蕎麦屋でダラダラ

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 近所の蕎麦屋で蕎麦を頼まず、親子丼とビールを投げやりに頼み、店の隅のどうでもいいテレビを見ながらまず卵と鶏肉を肴にビールを飲んで、残った飯をおもむろに掻き込んで(シメ)る、というB級の昼下がりも非常に捨てがたいのだが、やっぱり名店「やぶ」あたりに来た日は、飲み料は菊正宗、肴は焼き海苔と決まったものだ。

DSC_0120 目玉が飛び出すほど高い、というわけではないにもせよ、半畳ばかりの切り海苔に700円は割高だ。だが、選りすぐりの浅草海苔の歯応えと香りが消えないよう、火種の入った炭櫃で供するものに、これまた関東風の塩辛い上等の醤油をつけて味わうのは、やめられない趣味である。ちょっぴり添えられるおろし山葵もたまらない。