更科堀井の年始品

投稿日:

 去る1月4日、旧友にして畏友のF君と蕎麦屋の梯子(ハシゴ)をしたが、その時の2軒目、麻布の総本家更科堀井を出る時、帳場(レジ)に出ていた店主さんから「これは御年始に」と小さな箱を貰った。

 家へ帰って開けてみると左の写真の通り、私も常日頃愛用している浅草・やげん堀の七味唐辛子であった。

 気が利いていて、うれしい。饂飩(うどん)、蕎麦、鍋物、関東煮(おでん)など、何に振りかけてもぴりっと旨い。さすがは更科堀井。

総本家 更科堀井

投稿日:

 今日はひとつ「大エルミタージュ美術館展」を見てやろうと、六本木まで出てきた私である。

 さて、展覧会を見終わって、昼めしはどうしようかな、と思案する。もう14時ほどにもなろうとしている。

 こうなれば、六本木まで出てきたついでだ。やはり麻布十番へ行って、名代の「更科(さらしな)」を手繰(たぐ)るべきである。昼遅い蕎麦屋は空いていて、展覧会の図録をめくりながら一杯やるのにも都合がよい筈だ。

 「総本家 更科堀井」へ歩いていく。六本木ヒルズから麻布十番まで、10分とはかからない。

 「一人ですがかまいませんか」と有名店「更科堀井」の暖簾(のれん)を臆せず(めく)る。

スライドショーには JavaScript が必要です。

 まずは蕎麦前に「純米・名倉山」の冷や一合と焼海苔。通しものの揚げ蕎麦を交々(こもごも)つまみつつ、ゆっくりと飲む。

 更科の総本家に来たからには名代の更科を手繰るのが本当なのだろうが、今日は気まぐれで、この店の一方の名物である「太打ち」を頼んでみた。

 断面が5ミリ四方はあろうかというごく太打ちの蕎麦で、歯応えがあり、そのため、一見少なめの見た目なのに満足のいく喰い応えがある。蕎麦(つゆ)がよくなじみ、旨い。

 微醺を帯び、秋葉原で少し買い物をして、上機嫌で帰宅した。

麻布十番 永坂更科 布屋太兵衛

投稿日:

 国会図書館へ行き、調べものをした。ところが今日はなんだかブログ書きなどばかりしてしまい、あまり本は読めなかった。

 (ひる)過ぎまで図書館にいた。それから、また蕎麦屋に行くことにした。

 このところ習慣のようになってしまっている蕎麦屋通いだが、今日は麻布十番にある更科御三家のうちの、まだ行っていない一軒、標記の「麻布十番 永坂更科 布屋太兵衛」へ行って見ることにした。

 所謂(いわゆる)「更科の御三家」が(たむ)ろする麻布十番は、永田町からは南北線で3駅、すぐに行ける。

 麻布十番の駅に着いたら4番出口を出る。広い通りの反対側に顔を向けると、この店は駅の出口から見えるところにある。スターバックスの向かいにあるので、すぐにそれとわかるだろう。

img_4841 古い看板だがビルは新しい。麻布十番の更科御三家は、元祖は同じ布屋太兵衛だが、いろいろあって3店に分かれ、この「布屋太兵衛」は個人経営ではなく会社組織である。その辺りの事は以前にこのブログにも記してある。

(「新撰 蕎麦事典」(新島繁 編、平成2年(1990年)11月28日初版発行、(株)食品出版社)から引用)

さらしな 更科 更科の総本家は東京・麻布十番にある永坂更科。寛政2年(1790)に初代太兵衛(8代目清右衛門)が「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」の看板をかかげた。これよりさき寛延(1748~51)ごろ、すでに横山町甲州屋が「さらしなそば」、浅草並木町斧屋の「更科そば」のほか、店名の上に「信濃」「戸隠」「木曽」「寝覚」などを冠するほど信州ソバの名声が高かった。永坂更科の看板商品は一番粉を使った白い御前そばで、本店のほか神田錦町・銀座・有楽町更科などが身近かな系列店として知られる。更科の屋号は、更科そばが喧伝されて生まれた俗称であろう。現在麻布十番には、永坂更科布屋太兵衛(小林正児社長)、麻布永坂更科本店(馬場進社長)、更科堀井(8代目・堀井良造社長)の3店がある。

 入り口はピシリと格調高いが、躊躇なく暖簾をくぐってみる。入り口の閉め切った印象に比べ店内は広々として明るく、趣味が良い。店員さんもにこやかだ。14時頃に行ったから空いていた。

img_4842 蕎麦屋に入るといつもは焼海苔と酒などとるのだが、この店は蕎麦屋には珍しく焼海苔がないようなので、板わさをとる。

 品よく花形に盛られた山葵(わさび)が非常によく効く。醤油も旨い。蒲鉾は凝った造り身にしてあって、山葵と醤油がなじんで旨い。

 酒は黒松白鷹の()や。板わさの楽しい歯応え、醤油の塩辛さと山葵の香気を楽しみつつ、ガラスの杯に注いでは交々(こもごも)口に運ぶ。

img_4843 一杯ほど酒の残っている頃おい、「御膳そば」をたのむ。この店も含め、名代(なだい)の「更科蕎麦」の特徴は、蕎麦の実の芯の粉を打った白く(しなや)かなところにある。

 飲みかつ蕎麦を注文するなどしているうち、隣席に白人の夫婦が来た。最近、東京で蕎麦を手繰っていると、10回に7回は隣席に白人が座る印象がある。旨い蕎麦を大いに楽しんでもらいたいが、彼らはこちらが蕎麦を正しく「ずずず~っ……」と啜ると下品だなんだと抗議し始めるので迷惑だ。

 だが今回の場合、運良くと言うか運悪くというか、彼らのほうが先に、閑静な店内をものともせずビデオチャットでやかましく親戚と喋りはじめ、「お互いおあいこ」になった。それでこっちも遠慮なく蕎麦を勢いよく啜り込むことができた次第だ。

 蕎麦(つゆ)には「あま(つゆ)」と「から(つゆ)」の2種類がついてきた。藪、砂場、また他の更科でも見たことのない方式だ。店員さんによると、「足し合わせてお好みの味でお召し上がりください」とのことである。

 あま汁は出汁(だし)と酒が効き、なおかつ濃く、旨い。またから汁もくっきりとした味で、どちらも捨てがたい。蕎麦猪口(そばちょこ)に少しずつとって、かわるがわる味わうことにした。

 ほのかな香りと(しなや)かな喉ごし。だが意外な歯ごたえも感じる。先日行った「更科堀井」と違った歯応えがあるように思った。同じ「麻布永坂更科」の一系でもこういうふうに違うんだな、とも思った。

 蕎麦の薬味の山葵がとてもよく効き、旨かった。

img_4845 蕎麦湯は濃からず薄からず、誠に中正で、あま汁とから汁を交互に差して楽しむことができた。

黒松白鷹 1合 816円
板わさ 924円
御膳そば 945円
合計 2,685円

 値段の方は、最近手繰(たぐ)った蕎麦の中では最も高い部類に入る。

 そうは言うものの、払えぬという程高いわけでもなく、誠に旨い蕎麦で、むしろ「払い甲斐」のある蕎麦であった。

img_4850 これで、自作の「東京蕎麦名店マップ」が、とりあえず全部埋まった。全部で12店、専門家でもない貧乏人としては、手繰りも手繰ったり、というところである。

永田町・国会図書館 → 麻布永坂 更科本店

投稿日:

 「暑さ寒さも彼岸まで」と言うが、本当だ。まるでスイッチで切り替えたかのように涼しくなった。虫の声も大きい。

 ただ、今年の秋雨の強さには閉口する。二百十日(にひゃくとおか)前後にはラッシュのように台風が暴れまわり、被害が出た。水害に遭った人にとっては「天高く馬肥ゆる」どころではあるまい。

 そんな土曜の朝だ。曇り空が重い。だが、垂れ込めていても仕方がない。どうにかして元気を出そうとする。

さえずり季題当番

 先週土曜日にTwitterの「さえずり派」俳句つながりの@donsigeさんから今週のお題当番が回ってきていたので、朝はそれを出題した。

 選んだのは「真夜中の月」で、なんとこれでも立派な見出し季語である。小さい歳時記には載っていないが、5巻本の「角川大歳時記 秋」には載っている

 先週のうちにブログの予約投稿でお題を作っておき、自吟も詠んでおいた。プラグイン「Jetpack」のパブリサイズ共有でツイートされる仕掛けだ。ところが、なぜか自吟だけ日にちのセットを間違えてしまったらしく、昨日ポストされてしまった

 なんともしまらぬことだったが、まあ、しょうがない。

国会図書館

 それから外へ出た。

 「太平記」を読もうと思い、最近刊行だからひょっとしてあるかな、と、近所にある越谷市立図書館の南部分室へ行ってみたのだが、検索用のキオスク端末で調べると、所蔵は市立本館で、南部分室には不在架だった。

 バスに乗って市立本館に行くと、バス代が400円や500円はかかってしまう。それならいっそ、と、結局永田町の国会図書館まで出てきた。市ヶ谷までは通勤定期で出られるので、永田町まで行っても残り2駅ほどしか払わなくてよく、往復でも300円ちょいで済んでしまうからだ。

 時間が11時前で少し遅くなっていたので、岩波の「太平記」第1巻の解説と、原書の最初の一巻をだいたい読んだくらい。

 その際に知ったことがある。Amazon・Kindle本で昔の写本の太平記が読めるが、これは1巻108円する。全40巻だと4,320円で、Kindle本としては馬鹿にならない。

 ところが、このKindle本の案内文を読むと、

「本電子書籍は、国立国会図書館が所蔵し、インターネット上に公開している資料で、著作権保護期間が満了したタイトルの画像データを、Kindle本として最適化し制作したものです。」

 とあって、国会図書館所蔵の古文書であることがわかるのだ。

 しかも、国会図書館で閲覧できるだけでなく、ネットで無料で読めることも判明したのであった。

 そのURLはこれだ。

%e3%80%8c%e5%a4%aa%e5%b9%b3%e8%a8%98%e3%80%8d1%e3%83%9a%e3%83%bc%e3%82%b8%e7%9b%ae しかし、まあ、タダって言えばタダなんだけど、この「変体仮名」のオンパレードが読みこなせる人なんて、国立大学の国文科で研究してた人とか、書道家くらいなもんだろう。

 とはいうものの、岩波文庫をテキストがわりにして、ゆっくり字面(じづら)を追うと、同じ文章であることがはっきりとわかるのであった。

 それから韓非子の調べ残しを少し読む。「説林(ぜいりん)」の「上」。この前、自分で書いた()み下し文が正しいかどうか確かめるためだ。結果、どうも怪しく、ところどころ違っていることが分かった。だが、まあ、大体合ってるから、もういいやあ、と、特に厳密に手直しはしなかった。

麻布永坂 更科本店

 午後遅く国会図書館から出てみたら、外は土砂降りの雨で、参ってしまう。朝家を出る時になんとか曇りのまま()つかな、と思ったので、傘を持ってこなかったのだ。

 仕方がない。ともかく、濡れながら歩いて駅に行く。

 今日はひとつ、「砂場」の名店、「巴町 砂場」へ行って見ようかと思ったのだが、ウェブで確かめてみると、土・日・祝は休みらしい。残念。

 それなら、永田町から麻布十番までは3駅ほどだから、そっちのほうへ行って見ようと思い直した。

 一昨日(おととい)、畏友F君と麻布十番の「更科堀井」へ行ったところだけれども、何、蕎麦屋に何度も行ったからって文句を言う人のあるわけでもなし。

 麻布十番には他に有名な2店、「麻布永坂 更科本店」と「永坂更科 布屋太兵衛 麻布総本店」がある。今日は一つ、「麻布永坂 更科本店」のほうへ行ってみよう。

img_4775 「麻布永坂 更科本店」は地下鉄「麻布十番」駅の「5a」出口から出ると、道路を挟んで正面すぐ、首都高に近い角の所にある。立派な店構えだから、すぐにそれとわかるだろう。

 高級なそうな店構えだが、蕎麦の値段なんて多寡が知れているから、物怖(ものお)じせずに入る。御一人様(オヒトリサマ)万歳というところだ。

 同源の他の2店と同様、寛延年間(1748~51)頃創業の老舗だが、建物は昔のものではない。だがその分、清潔で新しい。客室のデザインはかっこよく、手馴れた和装の女の人たちがこまめに世話をしてくれる。

 1階はテーブル席が十幾つか。奥と2階に宴席があるようで、今日は何か、どこかの会社の接待の席らしく、賑やかな一本〆(いっぽんじめ)の声がしている。

img_4779 早速一杯頼む。京都の清新、「澤屋まつもと」。甘からず辛からず、真っ直ぐの純米酒である。程好(ほどよ)く冷えて、疲れが取れる気がする。

 通しものには一昨日行った「更科堀井」と同じ、名代の更科蕎麦を軽く揚げて塩味を付けたものが出た。

img_4782 肴に、私のいつもの蕎麦屋でのならい、焼海苔を頼んでみる。

 他店より大きな炭櫃(すみびつ)、大きな切れで出てきた。火もほどよく熾っている。

 ただ、海苔の味は、他所(よそ)のほうが旨いように思った。

 そうは言うものの、炭櫃の蓋を閉めておけば、焼海苔は雨にもかかわらずよく乾き、歯応えも香りもどんどん良くなっていく。旨い山葵(わさび)(つま)んでは直接口に入れて味わいつつ、これまた旨い醤油を焼海苔にたっぷりとまぶし、味わいながらゆっくりと1合をのむ。

img_4784

 一杯ほど酒の残った頃おいに、「もり」を一枚頼む。

 「更科堀井」ほど白くはないが、間違いなく「更科」独特の、肌の白い、しなやかな蕎麦である。蕎麦(つゆ)は濃くはなく、あっさり、すっきり、はっきりとした旨いものだ。

img_4786 蕎麦をすっかり手繰り終わって、あとは蕎麦湯をゆっくり飲む。よく蕎麦粉の溶けた、重湯(おもゆ)のように濃い蕎麦湯で、飲みごたえよく、満足した。

img_4789 わかりやすい場所にあり、店は清潔である。肴や酒の種類も多く、堪能できる店だ。

 また、最近の東京の有名店の例に漏れず、白人が「ソバ・ランチ」を試みていたりするのも、まあ、珍しく面白いと思えば、逆に楽しい。

焼き海苔 400円
澤屋まつもと純米(京都)1合 720円
もり 880円
合計 2,000円
他に、通しもの、揚げ蕎麦

 合計2000円、多少高いが、払って惜しい値段ではなく、道楽にちょうど良かった。

 天気の(すぐ)れぬことはこのところ数日と同じで生憎(あいにく)だったものの、名店は(たず)甲斐(がい)があり、良い気分で過ごすことができた。

六本木・ダリ展 → 麻布十番・更科堀井

投稿日:
ダリ展

 朝から土砂降りの雨である。雨の範囲は大して広くはないように思うのだが、どうも東京周辺はひどい降りようだ。

 そんな中、六本木の国立新美術館へ「ダリ展」を見に行った。

 大変な人気で、大勢の人が詰めかけていたが、混雑で見られないというほどでもなく、むしろ、列が進みづらいことで、かえってじっくり鑑賞することができた。

 思っていたより盛りだくさんの内容で、大作の絵画だけでなく、ダリが挿絵を描いた「不思議の国のアリス」や、またその他数々の挿絵、ダリが制作した前衛映画「アンダルシアの犬」他2編の映像作品の上映、デザインした宝飾品の展示など、充実した内容だった。

 戦前から戦後にかけて、作風が少しづつ変わりながら、よりエキセントリックに、より前衛に、かつ多様に尖っていく様子、また晩年に至って壮年期のパラノイア的方向へ回帰していく様子などがよくわかる展示になっていた。

 遠景ほど克明に、かつ強烈な光を当てて描き込むあの独自の表現を存分に鑑賞することができた。ああいう長命した画家には当然のことながら、ダリも作風はデビュー前から死ぬまでに少しづつ変化しており、今挙げた遠景に強烈な光を当てる、「これぞダリ」というあの画風は、アメリカに亡命する前後の「シュールレアリスム」の、気鋭の若手の一人だった頃のことのようだ。

img_4758 いつものように図録を買った。美しく盛りだくさんの内容であり、私としては購入しがいのある、コストパフォーマンスの高い出来栄えの図録であるように思う。2900円。

img_4759 いつも思うのだが、図録が先に買えたら、あらかじめ理屈のようなことは納得してから見に行けるので、美術館ではかえって集中して作品が鑑賞できるようになって良いのだが、今回はそういう着意はなかったのが残念である。

総本家 更科堀井(さらしなほりい) 麻布十番本店

 以前から心に決めていたことは、六本木に行くことがあったら、必ずそのすぐ近く、麻布十番の「更科(さらしな)御三家」のどれかに行こうということである。

 以前書いたが、更科御三家(更科堀井・永坂更科・永坂更科布屋太兵衛)は、元は信州方面からやってきた布商人が元祖となった店で、江戸に定着して以来、経営主体はさまざまに変わって3つに分かれながらも、今も長く麻布十番で暖簾を守っている。

 ダリ展を見に六本木へ行くからには、「総本家 更科堀井 麻布十番本店」へも行ってみようと(かね)てから考えていた。そこで、先日「目黒のさんま祭り」へ一緒に行った旧友F君に声をかけ、ダリ展を見終わってから麻布十番の駅で落ち合い、更科堀井へ向かった。

img_4760 「更科堀井」は地下鉄麻布十番駅の7番出口から出ると近い。歩いてものの3、4分というところだろう。建物は左掲写真に御覧のとおり、ビルの1階にある。

 寛政元年(1798年)の創業以来(このかた)200年あまり、先の大戦後からの一時期、しばらくの中断はあったものの再興し、営々と続いてきた老舗である。

 この店独特の「更科蕎麦」は、蕎麦の実の芯の白いところのみを使ったもので、東京で他に有名な藪、砂場のどちらとも異なるものだ。

img_4765 まずはとにかく、酒に、肴である。

 通しものにはこの店名代(なだい)の更科蕎麦を軽く揚げ、程よく塩味を付けたものが出る。

img_4767 今日は畏友F君と一緒に来たので、純米「名倉山」を2合。肴にそれぞれ焼海苔と卵焼きをとる。

 焼海苔は藪などでも見られる、炭櫃の下に小さな熾火(おきび)の入ったもので供され、パリパリに乾いてうまい。

img_4768 卵焼きは東京風に甘じょっぱく、蕎麦(つゆ)出汁(ダシ)がきいたふんわり焼きである。大根おろしに蕎麦(つゆ)をよくまぶしたものが付け合わせになっており、これが濃醇甘口の名倉山に大変よく合う。

 いよいよ二人で、この店独特の「更科蕎麦」の「もり」を一枚づつ頼んでみた。これが驚くべし、さながら素麺(そうめん)冷麦(ひやむぎ)のように白いのである。よく見れば少し色づいているので冷麦ではないとわかるのみである。

img_4771 ところがこれを手繰りこめば、その香りと味はまごうことなき蕎麦。だが噛み応えものど越しもあくまでしなやかであり、いわゆる「挽きぐるみ」の色の濃い蕎麦とは一線も二線も画する独特のものだ。

 店の(しおり)によればこの品の良さから、戦前など「(かしこ)きあたり……」へ、なんと出前すら仰せつかったものであったそうな。

 「さらしな もり」930円、大盛りは270円プラス、焼海苔670円、卵焼き740円、名倉山純米1合700円であり、「びっくりするほど高いわけではない」値段である。

 うまい肴で呑み、まことに気持ちの良い蕎麦を手繰り、微醺を帯びて出ると、土砂降りだった雨がすっかり上がり、陽光が垣間見える夕方に換わっていた。

 F君と別れて、浮かれた調子で帰りの地下鉄に乗る。きこしめした「名倉山」の酔い心地は(すこぶ)る快く、帰りの電車の睡魔の、なんと心地よかったこと。

 暗くなって帰宅した。秋分の日、残念にも土砂降りの秋雨とは言いながら、芸術の秋と食欲の秋、どちらも堪能できた面白い休日であった。

天皇陛下万歳。

 国旗を降下する。