訃報
俳人の有馬朗人氏が去る12.7(月)までに亡くなっていたことを、昨夜 Facebook のタイムラインで知った。
有馬氏は、私にとっては高名な俳人で、かつて「NHK俳句」の選者をしていた人だ。有馬氏が選者の頃、NHK俳句にせっせと投句したものだった。残念ながら1句も採用はされなかったが。
私の愛用の歳時記、角川の「合本俳句歳時記第4版」には氏の作品が例句としていくつも取り上げられている。
合本 俳句歳時記 第四版(角川学芸出版、平成20年(2008)6月30日初版発行、ISBN978-4-04-621167-5)より
有馬朗人氏の作品のみ抜萃・引用
春
朧夜の消しゴムで消す我が名かな
光堂より一筋の雪解水
草餅を焼く天平の色に焼く
火の山に真向ひて播く花の種
受難日のすらりと抜けし魚の骨
蠅生まる白銀無垢の翅をもち
菜の花や西の遥かにぽるとがる
夏
長崎も丸山にゐて豆御飯
水中花誰か死ぬかも知れぬ夜も
一管の麦笛光る真昼の野
亀の子のその渾身の一歩かな
秋
後の月宗祇の超えし山一つ
国取りの国なる新酒汲みにけり
亡びたる城の高きに登りけり
陽関や天馬たらむと馬肥ゆる
銀杏散る万巻の書の頁より
天涯に風吹いてをりをみなへし
冬
千本の氷柱の中にめざめけり
竹林に寒声つかふ女かな
暖房のぬくもりを持ち鍵一房
薄墨のどこか朱を引く亥の子餅
うす紅の和菓子の紙や漱石忌
ドイツ製鉛筆を愛で青邨忌
珈琲の渦を見てゐる寅彦忌
冬眠の蛇に滅びし社あり
晩成を待つ顔をして狸かな
根の国のこの魴鮄のつらがまへ
寒牡丹夕影まとふこと迅し
新年
元朝や飛鳥の村の鍬一丁
あかねさす近江の国の飾臼
書初の龍は愈々翔たむとす
一息に魂を入れ木偶廻し
三山の真中に打つ鍬始
赤ん坊に敷く大いなる宝舟
粛として講書始の椅子一つ
初烏ニライカナイを呼びにけり
若菜摘む女に礎石のみの城
こうして改めて鑑賞してみると、悠々として、穏やかでありながら端正な視線による観察が感じられ、優しいのに格調があると思う。
しかし、無論、この方は俳人としてよりも、本業の学者にして東大学長、文部大臣をも歴任した政治家としての名の方が高い。
祈冥福。