煙草

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 家を建てる前頃、煙草をやめた。先おととしのことだ。

 約15年間喫った。やめる直前には一日に100本──喫煙に寛容な職場でもあったため──もの煙草を灰にしていた。

 本当に、いい時にやめたと思う。私が煙草をやめたあたりから、喫煙に寛容であった職場の方針が変わり、喫煙者に厳しくなった。しかし、私が煙草をやめたのはそれが理由ではない。単に小遣いが欲しかっただけだ。当時は本代にも事欠いていた。

 なんとかやめることができた。私の主人は私なのだ。

 やめてから、非常に自由になった。禁煙の場所など、つらくもなんともなくなった。また、最初から煙草をやらない人とは違って、そばでプカプカやられたところで別に屁でもない。昨日おとといまで一日に100本も喫っていたわけなんであるから、「もっとどんどん喫ってくれ」とでも言いたいほどである。喫煙場所・禁煙場所、そのどちらもが私にとって非常に自由な場所に変わった。

 煙草を喫っている間、小遣いに不自由していたが──そりゃそうだ、一日に5箱も空にしていたのだ。月に直せば3万円以上。月々、万札3枚に火をつけて灰にしていたわけだ──小遣いに余裕ができた。

 私は体のために煙草をやめたのではない。小遣いが欲しいという不純な理由である。

 やめて2年ほどの間、煙草を喫う夢をよく見た。リアルそのものだった。夢の中の煙草は、これまでに味わったこともないほど旨い。「ああ、なんてウマい煙草だ」と思うと同時に「これでせっかくの禁煙もオジャンだな」と自嘲気味の後悔が苦く胸をつき、それがまた逆に、夢の中の煙草を旨いものにする。目を覚ませば禁煙が破られておらず、ほっとする。

 最近はそんな旨い煙草の夢も見ることがなくなった。

 私の中では煙草は、青春の日々から自分の子供が生まれて育つまでにいたる日々を彩った、なつかしくさえあるたしなみごとになった。また煙草を喫うかもしれない、という不安も、今は既に去った。おそらく生涯煙草を喫うことはないんだろう。

 ……そう思うとすこし残念ですらある。今、私の小物入れの中に、ダビドフの細巻きとローランドのブライヤーパイプとシンクレアのネイビーカットと、JTの「小粋」という刻みの銘柄と、キャメルの両切りがひっそりと眠っている。なぜか、一日に100本も喫っていたキャビンマイルドはその中にはない。

禁煙をしていらっしゃる方のブログ(有名)
やさしい一日

財布を縫う

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 自宅の新築とは何の関係もない話だが。

 長年(約17年ほど)持ちつけていた財布がボロボロになってしまい、遂に使用する能わざる状態に陥ってしまった。本皮の財布で、「EDWIN」のロゴが入ったジーパン屋のブランドだ。頑丈で風合いも良く、気に入っていた。しかし頑丈さに甘えて、山に持っていったり仕事に使ったりして酷使していたらやはり革がダメになってしまった。さすがに17年も使ったんだから、モトはとったと思っていいだろう。当時で6千円のモノだし。

 そこで新しいものを見つけに買い物に行った。しかし、ないね。気に入った財布ってなかなかないものだ。あっ、ちょっとコレいいな、と思うと、途端に\15,000以上はする。

 それにしても、なんで色んな機能がついた、いかにもその機能が壊れやすそうな財布に限って安く、余計なものがついていないシンプルなものは高いのであろうか。財布にセルロイドのパスケースなんかついてても、すぐに割れてしまうし、イヤなんだけど。

 探せど探せど、予算の範囲で気に入ったものがない。そこで、ついに、革と針と糸を買ってきて、自作してしまった。

 「えっ、そんな、かえって高くついたでしょう!?」と思ったそこのアナタ。それがそんなことはなかったんですよ。40センチ×40センチ×厚さ2ミリの「オイルレザー」という材料の革を買ったらこれが\2,400である。それから、皮革用の針、「菱目打ち」という、縫い穴を空ける一種のキリ、麻糸、ファスナー、ファスナーのカシメ工具、鳩目ポンチ、その他どうしてもないと困るというような道具類が\5,000。合わせて\7,400ほどである。それで財布を作った。

 それだけの革があると、財布だけ作ってもかなり余る。そこで女房にカードケース、自分用のパスケースを作る。それでもまだ余る。そこで、子供がままごとのお買い物ごっこにつかう財布を作る。(子供用に本皮の手縫い財布とはなんというゼイタク!)

 そうして出来たのがコレ。紳士ものセットなどという揃いを買えば2万円以上はするんだから、これは格安。