月遅れ盆も旧七夕も明けた。週明けには旧盆、月明けには二百十日も来ようかという時候、突然涼しくなった昨日今日である。そろそろ新蕎麦、走り蕎麦の出るところであろうか。
さて、私の住む越谷市の蕎麦屋というと、北越谷にある「いしいのそば」が有名である。ここはこだわりの店で、おいしい。ただし、私の家からはやや遠く、駅からも遠いので、バスに乗るか歩くかになる。そこまでするのはちと億劫だから、どうしても車で行く理屈になり、そうすると酒が飲めない嫌いがある。
家の近所にはこの前まで地元の蕎麦屋さん「やぶそば 登戸店」があり、天婦羅でも丼物でも出前でも、何でもおいしかったが、惜しいかな、先年店じまいしてしまった。住宅街にある割には客が入っていないのを見たことがなく、よく繁盛しているように見受けられたので、店じまいは多分「引退」されたのではないかと思う。店主もおかみさんも若く見えたが、見た目より意外に高齢だったのだろうか。
近所にはいくつか別のお店もあったのだが、そのうちのあるお店などは火事騒ぎで閉店したりもした。蕎麦屋はどんどんなくなっていく。ラーメン屋は雨後の筍みたいにどんどんできるのに、これがまた、どれもこれもどうしようもない味で、案の定どんどん潰れていく。私のような蕎麦好きにとってはなんとも残念極まる世相である。
そんなわけで、もはや、近所に見るべき蕎麦屋はないものとあきらめていた。あとは駅ビル「VARIE」の中にある「越後 叶家」とか、そういう会社経営の店になってしまう。
ところが、迂闊であった。灯台下暗し、である。
新越谷駅の南側、VARIEの切れたあたり、以前よく行っていた「吉田耳鼻科」にほど近く、酒屋さんのある筋に、この蕎麦舗「SOBA満月」があった。たしかもともと古い蕎麦店だったと思うが、去年頃リニューアルオープンしたようだ。ふとしたことでそれを知ったのである。
この店は、「生粉打ち」、すなわち十割の蕎麦を店内製粉の手打ちで出すらしい。
行ってみた。
店内は明るくあっさりとしており、席も広々ととってあって、くつろげる。接客も明るい。表に面して製麺室があり、多分時分どきに行けば手打ちの様子が見られるのだろう。
蕎麦前に、まずはいちばんお安い酒、「吉乃川」を一本、肴はこれまた一番お安いシンプルなもの、「蕎麦味噌胡瓜」。
猪口はいろいろなものから好きなのを選ばせてくれる。暑いので、涼しげな緑のガラスのものにした。
これは旨い。
残暑とはいえまだ暑さの盛り、そこへよく冷えた胡瓜がたっぷりというのはなによりのものだ。蕎麦味噌はよく練ってあって、香ばしい蕎麦の香りと、実の歯ごたえがうれしい。蕎麦味噌はたっぷりと胡瓜につけてもうまいし、胡瓜だけ齧って、交々蕎麦味噌を舐める、というのもまたよろしい。
盃に一杯酒が残っている頃おいに、「もり」を一枚たのむ。単純にもりをたのむと、普通の二八が出るらしいのだが、200円増しにすると「生粉打ち」、すなわち十割の蕎麦を出してくれる。但し、生粉打ちは一日に10枚限定打ちであるらしい。まだあるか聞いてみるとあるということで、迷わず生粉打ちにする。
旨い。香りと言い、口触り、味、喉ごし、十割蕎麦らしい十割蕎麦だ。
とかく十割と言うと、豪快な手繰り心地ばかりを追及してか、太かったり切れたり、あるいはザラついたりするものだが、ここ満月の蕎麦は繊細を忘れず、精妙に切られていて、香り高い。店主の腕前、修行のほどがしのばれる。
蕎麦汁は甘すぎず辛すぎず、よく出汁の味がする。蕎麦によく馴染む。
蕎麦湯は濃厚で、蕎麦汁とこれまたよく合って、おいしい。
品 |
値段 |
酒「吉野川」 |
300円 |
蕎麦味噌胡瓜 |
400円 |
もりそば(生粉打ち) |
850円 |
税 |
124円 |
合計 |
1674円 |
それでお値段はそんなに高くない。
これはいい店に出会えたなあ、と思う。これから折々、覗いてみよう。
SOBA満月 (そば(蕎麦) / 新越谷駅、南越谷駅、蒲生駅)
昼総合点★★★★★ 5.0