一杯

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 昆布を細く切り、そこへ醤油をかけまわして昆布醤油を作る。

 このまま一杯やってもいいのだが、思いついて蕎麦粉を出す。薬缶(やかん)の湯で捏ね、蕎麦掻(そばがき)を作る。

 蕎麦掻を昆布醤油につけて、それを肴に一杯。

平成28年の仕事納め後

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虎ノ門・大坂屋砂場

 今年の仕事納めは今日だったが、昨夜は徹夜だった。

 朝には引けたが、疲れたので贅沢してやろうと思い、虎ノ門・大坂屋砂場で天婦羅蕎麦を手繰っていくことにした。

 JRで新橋まで行けば虎ノ門まではすぐだ。ものの数分も歩けば着く。

 注文に迷うが、お安いところで澤乃井のぬる燗、牛蒡の天せいろにする。

 通しものの佃煮昆布と、しばらくして出てきた天婦羅を肴にゆっくり一本飲んで、蕎麦を手繰る。(つゆ)に油が入り、蕎麦に馴染んでうまい。

  最後に蕎麦湯をたっぷり飲んであたたまる。

 実に旨かった。

 混んでいて、出る時には店の外に沢山の人が並んでいた。

 私が出ようとした時、出入り口の引き戸のすぐ前に初老の男が並んでいた。頭と同じように顔まで胡麻塩が汚いその男は、私と入れ違いに店に入るような感じで半身を入れてきたから、戸を閉めずに開けておいてやった。ところがそいつは店に入らず、やおら不機嫌そうに私が開けておいてやった引き戸をパチンと音を立てて閉め、低い声で「自分で閉めろよ」と吐き捨てた。

 男が私に向かってそう言ったのは明らかだったので、腹が立った。

 ナニヲ、お前が入ろうとしたから開けておいてやったんじゃないか、閉めるのが嫌ならそのまま開けときゃいいだろ白髪野郎、そうすりゃコッチだって気付いて戸ぐらい閉めてやったんだ、この雪洞(ボンボリ)爺ィ、と文句の一つも言いそうになった。

 だが、もしつかみ合いにでもなったら、私とこんな手弱爺(たよわじじい)如き勝負にもなりはせぬ、鎧袖一触であるだけに、かえって向うに大怪我をさせかねない。そんなことになって警察なんか来たら、逮捕されるのは間違いなく日常身体を鍛え腕に覚えもある私のほうである。年の瀬に損をするのも嫌なので、文句を言い返すのは思いとどまる。

 こういう所で、結果として、逆にトラブルを避けることができるというのも、体を鍛え、格闘の一つも学んでおくことの利益ではあるかもしれない。

 そんな嫌なことがあったので、折角の旨い蕎麦の後味が幾分()がれた。だが、名代の名店だから、それでも旨さのお釣りがあるというもので、満足した。

 自作「東京蕎麦名店マップ」に写真を足しておく。

皇居の外苑をうろつく
日比谷公会堂・市政會舘

 午後は唐突に暇だったので、虎ノ門から日比谷公園の方へ歩いて行ってみた。

 冬(うらら)かである。寒い。寒いが、良く晴れて日差しは強い。

松の雪吊(ゆきづり)

 意外にカメラマニアが沢山いて、バズーカ砲のような大きな望遠レンズで池や濠の鳥などを熱心に撮っている。

 季節らしく、雪国ではないけれども、松には雪吊(ゆきづり)がしてあった。

 祝田(いわいだ)橋を東に行き、日比谷の交差点を北に折れ、馬場先門から皇居前広場に入り、ずーっと北へ、桔梗門をちょっと見る。東御苑が見られないかな、と思ったが、桔梗門の警衛所の貼り紙を見てみたら、「年末年始は東御苑は開いていません」という意味のことが書いてあって、ガッカリする。踵を返して和田倉門へ抜ける。

 東京駅まで歩いて、それからどうしようか、秋葉原に寄って帰ろうか、と思いつく。

カメラ買ったこと

 秋葉原ヨドバシへ行った。

 カメラ売り場へ行ってみたら、前々から欲しいと思い、買おうとしてはいたものの、その(たび)に値上がりしたり、品切れだったりして買いそびれていたCanonのIXY 190の在庫があるではないか。しかも、税込14,900円の正価である。

 買い。

 ヨドバシポイントが1867ポイントあったから、それを使って13,033円で済んだ。今日Amazonプライムの方の値段を見てみたら15,717円で、数百円とは言え安かったので、得をした気分である。

 ところで、買った時のこと。

 IXY 190の注文カードを持って嬉々としてレジに行ったところ、店員さんから馴れた発音で「ヘロゥ」と言われた。店員さんがついこういう挨拶をしてしまうということは、よほど外国人の買い物客が多いものと見える。

雲克祭(ウンコクサイ)上尉
またの名をチャランポン大尉

 ……しかしそれにしても、そんなにワシは英語喋る人に見えたかっちゅーねん。ワシはどう見ても日本人やぞ。いや、ある意味、人民解放軍上尉・雲克祭(ウンコクサイ)か、謎のタイ王国陸軍人・チャランポン大尉などのアジア男には見えたかも知れん。いつものこういう怪しいナリでレジに行ったんだもんな。

徘徊

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 徘徊する。

 と言って、今日は徘徊するつもりでもなかった。子母澤寛の「ふところ手帖」を読みたかったから、図書館に行って、いつものように赤坂の砂場で蕎麦でも、と思っていた。

 その前に、床屋に寄る。正月用に調髪するにはまだ早いが、如何(いかん)せん髪が伸びすぎている。

 行きつけの床屋さん「ファミリーカットサロンE.T 南越谷店」の、顔見知りの理容師の女性は私よりうんと若い人だ。明るい美女で、よく話しかけてくれる。今日はひとつ話題でも、と思い、自分の薄くなってきた頭髪をネタに、

「抜け毛、ハゲというものは、これは俳句の季語になってましてね、『木の葉髪(このはがみ)』と言って、冬の季語なんですよ。有名な俳人、中村草田男の句に、『木葉髪(このはがみ)文芸長く(あざむ)きぬ』なんてのがありましてね」

……などと、無駄な知識を押し付けて差し上げる。……理容師さんには意味が解らなかったかも知れないが、まあ、理容師さんという職業上、髪の毛ネタというのは多い方がよかろうと思ったようなわけである。

 新越谷の自宅からは、半蔵門線に乗っていけば国会図書館のある永田町まで直通一本なのだが、通勤定期で市ヶ谷まで行けばそこから永田町まではふた駅で、この方が安くつく。それで、平日の通勤と同じように日比谷線経由で遠回りしていく。

 日比谷線の上野まで来てふと、床屋に行って頭もスースーするし、そうだ、この前愛用のカスケット無くしたんだった、同じようなやつをアメ横の同じ店で買おう、と思った。

 アメ横と言う所は、意外に店の入れ替わりが激しい。無くしたカスケットを買った店に行ってみたら、とうに別の、何か中華料理屋みたいな店に代わってしまっていた。

 おっさん向けの帽子を置いているところというのは少ない。しかたなしに他の帽子店を探して入ってみたのだが、どうも、1万円とかいう値札が付いていて手が出ない。贅沢をして1万円の帽子なんかかぶったら、もったいなさのために頭皮がかぶれ、ツルッパゲになる恐れがある。

 帽子を買うのをあきらめて、さてどうしようか、と思う。時間も中途半端である。昼近くなってしまったので、今から図書館へ行っても、文庫本1冊全部は読めないし……。

 神田へ行って「やぶ」か「まつや」に行こう、と思い立った。上野から神田はすぐである。秋葉原で降りれば(ふた)駅だ。

 ところが、いざ「やぶ」の前へ行くと、いつも以上の長蛇の列だ。辟易して、並ぶのをあきらめる。それでは、というので「まつや」に行って見たが、「やぶ」以上の行列で、更に気持ちが萎えてしまう。

 うーん、どうしよう。目先を変えて、日本橋のあたりまで出て、虎ノ門・大坂屋砂場へ行って見ようか、と考えを変える。

 新橋の駅で降りて、通りを歩いていく。烏森(からすもり)口というところから出たのだが、大坂屋砂場に向かってしばらく行くと、右手に色とりどりの(のぼり)が並び立っていて、その奥の方に、なにやら鳥居と燈明がゆかしげに鎮座している。

 覗いてみると、「烏森神社」とある。幟には「心願色みくじ」と書いてあって、なんなんだろう、と惹かれた。

 さほどゆかしいところでもないように見えたが、その実、創建縁起を辿(たど)ると、遠く平安時代に遡る古社で、祭神は倉稲魂命(うかのみたまのみこと)だという。倉稲魂命というのは俗に言う「お稲荷(いなり)さん」のことだが、普通の稲荷社とはたたずまいが少し違っている。普通の稲荷社は赤い鳥居が何重にもなっていたり、狐の使者(おつかい)が殊更に赤い前掛けをして狛犬(こまいぬ)座に据えられていたりするものだが、全然そういうことがない。

 沢山の人が参拝していたので、寄ってみた。

 さっそく名物らしい「心願色みくじ」というのへ初穂料を納める。神職さんの説明によると、祈願したいジャンルごとに色分けされた御神籤(おみくじ)をひくというものだ。ではひとつ、今日は金運を祈願してみようと思いつき、それをお願いする。金運は黄色の御神籤だ。

 「中吉」をひきあてた。頂いた(くじ)には、心願をジャンルと同じ色のペンで書き込んで、奉納するのである。私は金運祈願であるから、黄色いペンで願いを書き入れ、奉納処へ結びつける。ヒッヒッヒ、儲かるといいなあ。

 さて、そんなことなどありつつ。

 そのまま通りをまっすぐ西へ行けば、数分で東京屈指の蕎麦(みせ)、虎ノ門・大坂屋砂場に着くのだが、着いてみて残念、休みであった。良く確かめずに来たもんなあ。

 一度蕎麦に決まった口腹の欲求はなかなかひっこめられない。ではというので、スマートフォンでGoogle Mapsにアクセスして、すぐ近所の「巴町・砂場」を検索したら、これがまた、Google Mapsの優秀さ、「今から行っても閉まっています」と即座に警告してくれる。

 うーん。

 そうだ、浅草に行くと、仲見世に帽子専門店が何軒かあったなあ、と思い出す。それなら帽子を買って、それから浅草の並木で蕎麦を手繰(たぐ)ればいいじゃないか、と思いつく。都営浅草線で一本、数駅だ。

 着いてみると浅草は相変わらずの混雑っぷりだ。外国人の多いこと多いこと。紺碧の空にスカイツリーの屹立、そりゃあ観光にもってこいだ。

 人をかき分けて新仲見世通りを歩いていくと、「銀座トラヤ帽子店」の浅草店があった。

 こういう帽子専門店は値段が高い。だから立ち寄ってもダメかな、うーん、どうかな、と思ったのだが、年末らしく表に「2千円から」の札の出たワゴンがあって、形の古いものなどがたくさんある。二~三ひっくり返してみると、下のほうから軽くて黒いカスケットが出てきた。思いがけずなかなかいい品物で、縫製も布もしっかりしている。

 カスケット(キャスケットとも)というのは、ハンチングの一種だ。普通のハンチングは前後にまっすぐ縫い目が通り、「3枚はぎ合わせ」が普通だ。ところが、この「カスケット」と呼ばれる帽子は、中心から放射状に6枚はぎ合わせになっているのが特徴だ。戦前の公務員などがよくかぶっていたこと、また、有名なところでは「レーニン」がカスケット好きで、これをかぶった写真が多く残っている。

 乃木将軍と東郷提督が二人でカスケットをかぶった写真も有名だ。

 で、おお、これこれ、こういうのが欲しいんだよな、と手に取っていたら、店員さんが出てきて、「お客さん、掘り出しましたねえ。これ、処分品なんですけど、カシミヤで、なかなか出てない帽子なんですよ。お安くなってますから、いかがでしょう?」と薦めてくる。もとより、これは大変気に入ったので、即決、3千円で買う。かぶって帰る旨伝えると、きちんと値札を切り取り、袋をつけずに手渡してくれる。

 所詮(しょせん)、飛び込みでヒョイと買った安物だ、と気楽な気持ちでいたのだが、後でタグをひっくり返して見たら、この帽子は大掘り出し物だった。「ボルサリーノ」の銘品なのである。

 この帽子の型番は「BS249」というのだが、後でネットで検索したら、なんと1万6千円である。これはまったく、掘り出したものだ。

 ボルサリーノのカシミヤのカスケットが3千円というのは安かった。

 それから、並木通りの方へ出て、「並木藪蕎麦」へ行ったのだが、もう14時過ぎにもなろうというのに、(みせ)前は行列である。驚いた。

 それでも、15分ほど並んでいたら入ることができた。

 ぬる燗で酒を一本。ここの通しものは固く練った蕎麦味噌で、辛口の菊正宗によく合って、うまい。

 いつもなら蕎麦屋の酒は一合くらいにしておくのだが、なんだか(あきた)りない感じがして、焼海苔でもう一合。ここの焼海苔も火の(おこ)った炭櫃(すみびつ)で出してくれ、ホカホカのパリパリに乾いていて旨い。

 一杯ほど酒の残っている頃おいに、「ざる」を一枚。並木藪蕎麦独特の塩辛い蕎麦(つゆ)は、何度来ても飽きないおいしさだ。

 蕎麦湯をたくさん飲んで、ホカホカに温まって舗を出る。今日は冬麗(とうれい)にも拘わらず気温が低いが、それすら快く感じるほどの酔い心地と温まり方である。

 自作「東京蕎麦名店マップ」に写真を足す。

 せっかく浅草にきたのだから、と神谷バーに寄る。

 電気ブランを一杯。肴に枝豆を頼んだら、店員さんが「すみません、今日枝豆ないんです」と珍しいことを言う。仕方なしに、たまたま目についた「公魚(わかさぎ)の天婦羅」を頼む。単に安いから頼んだだけだったのだが、これがなかなか大ヒットの旨さで、よく揚がっているし、種も美味しく、思いがけない口福が得られたことであった。

 酔っ払って帰宅。

昆布(こぶ)とろ

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 「昆布(こぶ)とろ」で一杯。

 「昆布とろ」の作り方は簡単だ。出汁(だし)昆布を適量とり、これを鋏などでできるだけ細く切る。鉢に入れて醤油をかけ回し、2~3分おいてよく掻き回すと昆布の粘りが出る。

 これを肴に飲むのだが、日本酒によいし、塩分は強いがカロリーが低いのと昆布の繊維やミネラルが健康に良いことで、なかなか悪くない肴である。

 日本酒に合う肴は、飯につけても旨い。昆布とろの残りで熱い飯を掻き込むのはやめられない旨さだし、茶漬けにしてもよい。

蕎麦屋でダラダラ

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 近所の蕎麦屋で蕎麦を頼まず、親子丼とビールを投げやりに頼み、店の隅のどうでもいいテレビを見ながらまず卵と鶏肉を肴にビールを飲んで、残った飯をおもむろに掻き込んで(シメ)る、というB級の昼下がりも非常に捨てがたいのだが、やっぱり名店「やぶ」あたりに来た日は、飲み料は菊正宗、肴は焼き海苔と決まったものだ。

DSC_0120 目玉が飛び出すほど高い、というわけではないにもせよ、半畳ばかりの切り海苔に700円は割高だ。だが、選りすぐりの浅草海苔の歯応えと香りが消えないよう、火種の入った炭櫃で供するものに、これまた関東風の塩辛い上等の醤油をつけて味わうのは、やめられない趣味である。ちょっぴり添えられるおろし山葵もたまらない。

北海道で飲み食いしたもの

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はじめに

 急に、北海道で飲み食いしたいろいろなものを思い出した。

 私は昭和60年(1985)から平成5年(1993)まで、北海道の旭川で暮らした。

旭川の立地と気候

 旭川というところは北海道第二の都市である。札幌に次ぐ規模の街だ。ところが、このことは意外に知られておらず、帯広が北海道で二番目の都市だと思っている人も多い。

 旭川は多くの人が “北海道で飲み食いしたもの” の続きを読む