コスタリカの軍事に思う

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 コスタリカは非武装中立だと言うが、トリックはある。

 すなわち、常備軍はないものの、コスタリカの憲法ではアメリカ大陸の安定や国防のための交戦権は否定されていない。そのため、有事に臨時の軍事組織を編成することができ、その場合にはあらかじめ訓練された予備役が召集令にしたがい兵役に馳せ参じる。徴兵もあり、いざとなれば若者を召集することもできる。日本でそのような強引なことは無理だろう。

 コスタリカの予備役制度は、旧体制派の反乱を懸念した内戦時の首魁フィゲーレスが、自らに近い者を訓練し、武力対立の恐れに備えていたことを背景に発足した。1955年に隣国ニカラグア政府の支援を受けた旧体制派が国境を越えて侵入したとき、実際に予備役が召集されている。

 常備軍が廃止されたコスタリカといえども、規律に従う「力」というものは必要で、そのため約1万人の規模をもつ国家警察が国境警備や海上監視などを行っている。その中には、暴徒鎮圧などの中心となる4500人規模の警備隊もある。

 人口わずか500万人足らずのコスタリカに1万人の潜在的パワーがあることは、日本の人口に置き換えれば20万人にも匹敵しよう。そこへ、有事には前述の予備兵役召集と徴兵が加わり、2万人程度の規模の動員ができる。つまり、いざというとき、日本に置き換えると60万人規模に匹敵する軍事力を発揮できるのだ。

 また、通常の警察と異なり、諜報活動を担う諜報安全省の監督下にある特殊部隊は、自動小銃のみならず、各種高度な軍事装備を備えている。米軍との共同訓練にも熱心だ。

 こうして概観してみると「軍隊なんか持たない」と言ってるくせに着々と常備軍事力を蓄えている日本と、「常備軍は廃止しました(でも強力な警察による潜在的軍事力と、予備兵役も徴兵もあって2万人動員できるけどねテヘペロ)」というコスタリカなど、五十歩百歩の似たりよったりである。

 思うに、バチカンみたいな小さな主権体だって、お飾り的とはいえ、今でもスイス傭兵に戦斧(パイク)を持たせて警護させ、厳然と睨みを効かせている。

 人間の歴史は殺し合いの歴史、万巻でも及ばぬ膨大な戦争巻物の集積だ。

「犬猫その他多くの哺乳類と同じように腹を見せて無抵抗恭順の姿勢を見せれば相手にも惻隠の情というものがあり、降参さえすれば侵略されることはない」

というような漠然とした平和獲得方法を夢想する向きがあることも無理はないが、残念ながら人間なんてものは、自ら理性の動物などと定義していながら、その実、偸盗(ちゅうとう)、邪淫、妄語、綺語、悪口、両舌、慳貪(けんどん)瞋恚(しんに)、邪見、嫉妬、差別など、どす黒くおぞましいものが渦巻く腐った大脳を搭載した厄介な(ケダモノ)だ。犬猫のように清純純真無垢天然のそれとは異なる。

 今後千年を経れば、あるいは軍隊も戦争もなく、ひいては盗みも人殺しもいじめも差別もない天国がこの世に実現するかもしれないが、実に無念なことに、私たちが孫くらいの世代に残しうるものは、結局やっぱり軍隊と戦争と盗みと人殺しといじめと差別のある陰惨な世界でしかない。

 それを直視し、その上で生き残るための曲芸じみた振る舞いを演じ続けるしかない。


 コスタリカの非武装中立にシンパシーを寄せるような文章をThreadsに見かけ、それへなんとはない違和感を感じたので、それへのアンチテーゼのコメントは遠慮し、全く独立に新規スレッドとして書いたものに加筆・編集し、転載したものです。

スウェーデン

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スウェーデン、NATO加盟

 ついにあの、中立の王国スウェーデンが、「もう中立やめますッ!」と、ブチギレてしまった。

 無論、ウクライナ紛争の影響によるものだ。

 勿体(もったい)ない。スウェーデンは、実は戦闘機を含 “スウェーデン” の続きを読む

ジェーン年鑑の思い出

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 新聞の軍事に関する記事などで、データの出典元として、かつてはよく「シプリ年鑑」などとともに「ジェーン海軍年鑑」という書名が記載されていたのをご記憶の方も多いと思う。

 実は、「ジェーン海軍年鑑」という書名の本は、ない。図書館へ行ってこの書名のとおりで探しても、出てはこない。そもそも、この本は図書館にはない。


 英国ジェーンズ社の浩瀚(こうかん)にして膨大な年鑑群「ジェー “ジェーン年鑑の思い出” の続きを読む

読書

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中立国の戦い―スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標 (光人社NF文庫)

 「アルムおんじ」の話などするうち、スイス傭兵の話から、近代のスイスの苦闘についても興味を覚え、ちょっと読んでみた。

 永世中立国スイスは、のほほんと平和に暮らす田舎国家などではなく、実は全身これハリネズミのように武装した国民皆兵の国であることはよく知られている。しかし、私たち日本人は理由もなく漠然と、スイスの軍事力は単に潜在的抑止力として準備されているだけで、全く他国と干戈(かんか)を交えないものであるかのようなイメージを持ってしまってはいないだろうか。

 ところが、ところが。スイスは、実は第2次世界大戦において意外に激しい戦闘を行っているのだ。中立を守るために、である。いかなる国の軍隊も、どんな理由があろうと、スイスの領土を侵すことを許さないという意思を断固として示したのである。無論、兵の血と生命によって、である。

 しかし、それは簡単なことではなく、迷う国内世論の処理を含め、苦しい選択と難しい判断を積み重ね、ひとつひとつの局面を切り抜けていったことが本書には克明に描かれている。

 大戦中のスイスの戦闘で、本書でも大きく取り上げられているのは対領空侵犯措置の戦闘である。ドイツであろうと米英連合国であろうと、スイスの領空を犯す航空機にはスクランブルをかけ、枢軸国側航空機を12機、連合国側航空機を13機、合計25機を撃墜している。しかし、領空侵犯機への対処は極めて難しく、逆に空戦を仕掛けられ、スイス自身はその10倍、200機もの航空機を失い、300人もの死傷者を出した。空中戦は昔も現代も先制攻撃が常道、つまり先手必勝がベスト・プラクティスなのであるが、対領空侵犯措置では、先に手を出すことができないのだ。

 また、アメリカなどは国際法上永世中立国の地位を完全に認められているスイスに対し、完全に国際法違反の都市無差別爆撃を行い、100名ものスイス一般市民が死亡した。このことは後世もアメリカの汚点として、しこりとなって残っている。

 スイスはこのように、おびただしい犠牲の上に中立を堅持した。

 スイスだけでなく、大戦中、スウェーデン、スペインが中立を守るためにどれほどの犠牲を払い、戦ったかということに光を当て、日本に広く紹介したという点で、功績の大きい一冊であると思う。アマゾンのレビューでは資料の選び方などに一部批判の意見もあるようだが、そのことは本書の価値を(いささ)かも減じない。

傭兵の二千年史 (講談社現代新書)

 「アルムおんじ」の記事の流れで、ちょっとスイス傭兵に興味を覚えて。

毛沢東 日本軍と共謀した男 (新潮新書)

 毛沢東が実は日本軍と共謀して蒋介石の国民党軍と戦っていたという奇怪な事実は、現在の中共が主張する抗日戦争の歴史など根底からひっくり返ってしまうようなことである。

 だって、中国は韓国ほどには頭のおかしい要求はしないけれども、謝罪しろだのなんだのとうるさいことには変わりがない。ところが、謝罪しろも弁償しろもヘッタクレも、大日本帝国と一緒になって蒋介石と戦争してた、ってんだから。

 戦後になって、蒋介石率いる国民党は逃げてばかりいたのだなどと中傷し、毛沢東率いる八路軍こそが抗日戦線の主役であった、などと、言い分が変わっていく様子が本書ではよくわかる。

東京タラレバ娘

 図書館で読んでやろ、と思ってたら、販促のためか、Kindleなら第1巻のみタダだった。

 なるほど、最近ポスターやキャラクターグッズなどもよく見かけるし、ドラマ化もされるようで、ヒットするだけあって面白い。

 残りは高いから図書館で読もうと思ったが、前掲の3冊を読むので時間切れとなり、読めなかった。