「強靭」「したたか」「しなやか」考

投稿日:

 「アイツはなかなかしたたかな奴だ」という時、そこに込められた意味合いは、多くの人にとって「なかなかのハード・ネゴシエーターで、立ち回り素早くかつ抜け目なく、少し狡猾なところもある」というようなことでまずニ致はあるまい。

 だが、「したたか」は漢字で「強か」と書く。「向う脛をしたたかに打った」などという用例では、そのまま「強く打った」という意味になる。その意味からすると、「なかなかしたたかな奴」というのは「アイツはなかなか強い奴だ」ということであって、「立ち回り素早く抜け目なく少し狡猾なところ」などという含みは、字づらの上では、まるでない。

 別談、「しなやか」という和語がある。「彼女はしなやかな佇まいのひとだ」というとき、その女性について想起されるのは「スマートで、物腰柔らかく、柳のように優しくそれでいてしっかりした精神の持ち主だ」というようなことだといっても、それほど異とするには当たらないだろう。

 ところが、「しなやか」は漢字で書くと「靭やか」である。これは「靭性」という物性に関する用語の意味や、もっとわかりやすいところでは「強靭」という言葉が、大変強いことを表す漢字2字を重合させたものであることからもわかるとおり、「大変強い様子」を表す。

 「強靭」という言葉から想起されるものは、とても頑丈な、岩石か鋼鉄のようなイメージで、和語で表したときの「したたかで、しなやか」という感じは全然ない。

 我々が「しなやか」の語感から受け取ることができる意味合いの通りの漢字を探すと「繊やか」などが近いように思われるが、これは「そびやか」と読み、違う言葉だ。「繊」の意味は「繊維」「繊細」という語につかわれているとおりの意味で、細く柔らかな様子だ。だが、「そびやか」は一般的に使われている和語とは言い難く、話し言葉でこれを使っても通用しないだろう。

 さておき。

 サザン・オールスターズの往年のヒット曲「ミス・ブランニュー・デイ」の歌詞の中に、

〽 誰のため本当の君を捨てるの Crazy
  しなやかと軽さを履き違えてる

……というひと節があるのだが、ここまで考え来たったところを合わせてこの歌詞を味わうと、なかなかに深い。いや、桑田佳祐その人がいかに天才といえども、そこまで考えて作詞したのかどうかは、一般ファンからは知る由もないのだが。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください