春の変わった季語

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 私の愛用の歳時記は角川のものだ。他に平凡社のものも30年近く使っていたが、落丁があり、買ったときに気づかず惜しかった。

 角川の方はスタンダードで編集にも癖がなく、この歳時記から選んだ季語であれば、俳人の先生方やマニアなどから文句が出るというような面倒臭いこともほとんどないから、選んでおいて間違いがない。

 角川の歳時記は、各季合本になったものと、角川ソフィア文庫から出ている分冊のものがあり、内容的にはどちらも同じものだ。文庫の方は持ち歩きに便利なのと、多少、合本にない「おまけ」がついていて楽しいということがある。私は随時鞄に入れておいて持ち歩く分には、文庫の方を利用している。

 さておき、春の季語も味わい深い。上記角川歳時記にはモノに関する変わった季語が少し載せられている。面白いから、いくつか抜き書きしてみたい。ほとんどが玩具や遊びに関するものだ。

● 凧

 紙鳶(しえん)、いかのぼり、字凧、絵凧、奴凧、切凧、懸凧(かがりだこ)、はた…と傍題にある。

 私などが子供の頃は、凧揚げは正月明けの遊びだったので、「へえ、これが春の季語なの?」とも思える。

 別の本で読んだのだが、現代の凧はもともとは「いかのぼり」と言っていたらしい。ところが、江戸時代に、江戸っ子たちが「へっ、上方者はこれだからシャラクセェ、江戸ではなんでも逆にいくんでぇ、イカのことはタコって言うんでえ、てやんでぇ、べらぼうめ」…と言ったかどうかは定かではないが、洒落のめしていかのぼりを「タコ」と呼ぶようになったのだと言う。

● 風船

 紙風船、ゴム風船、風船売り…と傍題にある。

 以前、クリスマス時期に子供たちをつれてディズニーランドに遊びに行った折、冬麗らかな青空にミッキーマウスの風船が持ち主の手を離れてふらふらと飛んでいくのを詠んだことがあるが、これは冬麗を季語に据えたのに風船をも詠み込んでしまい、後で春の季語だと気づいて、季節違いの二季語が残念だった。

● 風車

 傍題に「風車売り」。これも「へえ、これが春?」と誰もが言うだろう。三好達治の名句に 街角の風を売るなり風車 …というのがある。

● 石鹸玉(しゃぼんだま)

 「江戸時代には無患子(むくろじ)の実を煎じた液を用いた」とあり、石鹸がない頃も楽しまれていたことがわかる。たしかに春の雰囲気をまとうが、夏でも秋でも子供たちはシャボン玉で遊んではいる。

● 鞦韆

 予備知識なしで、あるいはまた、俳句に詳しい人以外で、この言葉の訓み方と意味を知っているという人を私は聞いたことがない。

 これは「しゅうせん」で、ぶらんこのことなのである。 鞦韆と書いて「ぶらんこ」と()ませてもかまわない。

 傍題には他に秋千、ぶらんこ、ふららこ、ふらんど、ゆさはり、半仙戯、とも載っている。

 「なんで、春?」とこれも不思議だが、どうも中国の習慣や行事がもとになっているらしい。

投稿者: 佐藤俊夫

 50代後半の爺。技術者。元陸上自衛官。2等陸佐で定年退官。ITストラテジストテクニカルエンジニア(システム管理)基本情報技術者

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