今週10月31日(月)から昨日11月2日(水)までの3日間、人間ドックに入っていた。50歳の節目検診である。
職場の施策なので、いきおい、同じ職場の、同じ年齢の者ばかりが集まる。結果、同期生や仲の良い旧知の知り合いが集まることとなり、まるで同窓会合宿のおもむきで、なにやら楽しかった。但し、「一切、酒・食抜き」の同窓会だから、なかなか清潔である。
時程
前日まで
常識通り、数日前から筋っぽい食べ物、わかめとか胡麻、繊維豊富な野菜などは控える。内視鏡検査に影響するからだ。前夜からは飲食禁止となる。
初日
入院・受付。
爾後三日間を通じて待ち時間が多く、結構ヒマであるから、本などを持ち込むのがよい。私が持ち込んだのは、再読だが「輝きの一瞬 短くて心に残る30編」という講談社文庫の短編集と、愛用の角川文庫歳時記のうち「秋」巻だ。
結果から言うとこれは正解であった。というのも、待ち時間が多いとはいうものの、10分20分置きに何かしらすることがあり、ブレスの長大な本を持っていくと、読書時間が細切れになって気が散るからだ。10分20分でひと息つけるようなものを持っていくといいと思う。
言うまでもなく、歳時記は一季語一季語を数分単位で味わうことができるし、落想を得次第、詠んだものを書き留めるなりすればいいわけだから、人間ドックにはうってつけである。
「何が読書だ俳句だ、俺はパソコンと仕事を持っていくッ!」という根性のあるアナタは大変立派ですから、どうぞそうしてください。……いやあ、私には真似できません。すみません、私はヘタレですので(笑)。
初日の時程は……
- 体温・身長・体重・体脂肪率・腹囲(メタボリック)・血圧・脈拍
- 血液・尿検査
- 腹部超音波エコー
- 心電図
- 糖負荷試験
- 眼底検査
- 胸部レントゲン検査
- 栄養士による栄養指導
血液は相当取られる。分量そのものは少ないし、今はディスポーザブル方式の真空瓶でとっかえひっかえするから、針こそ何度も刺し込むことはないが、それでも7、8本もあの真空試験管が並ぶとギョッとする。しかし、臨床検査技師さん、看護師さんにすっかり身を委ね、任せておけば特に心配することもない。
糖負荷試験では純糖のサイダーをゴクゴクと飲んで、その後定刻ごとに採血する。それによって糖を代謝する能力がどれほどあるか測定するわけである。
で、この「純糖サイダー」が、精製されたブドウ糖と純水などで作られているのか、非常に美味なのである。しかも、実にほどよく冷やされている。半分ほど飲み干して「旨いッ!」と嘆じたら、看護師さんに笑われてしまった。とまれ、人間ドック入院間、このサイダーが最も旨かった。一緒に入院していた人たちも、異口同音に「アレは旨かった」と言っている。
尚、昼食・夕食は検査向けの消化の良い病院食である。病院食とはいいながら、病気で入院しているわけではないので、夕食などは私にとっては大変旨かった。これでビールの一杯もあれば極楽だな、と思ったが、残念なことに酒は厳禁である。
2日目
二日目は、早朝から大腸カメラのための下剤を1.5リットルほど、1時間強くらいかけて服むところから始まる。
大腸カメラに関しては、この下剤が不味いというのでよく話題に上る。
水で指示通りに薄めて服むのだが、この時、よく冷えた水で薄めると不味さが我慢しやすくなる。また、私の睨んだところ、体液等との濃度の調整のためであろう、少し塩味が感じられるのだ。この塩味がコップの底にたまるため、飲み干す際に不味く感じる。そこで、箸やスプーンでよく攪拌すると、あまり不味くなくなる。
便に固形物が交じらなくなり、さながら尿のような状態になるまで下剤を服む。便器に座って尻から小便のようなものを出していると、なんだか女性の感覚が解ってくるような気がして妙である。
この時、先に述べたように、前日までに筋っぽい食べ物を控えておかないと、いつまでたっても便に滓のようなものが交じり、下剤を何度もお代わりする羽目になるから要注意である。こうなると下剤が不味いことより何より、いつまでも服用が終わらず、大腸カメラの順番が後回しになって無駄に時間を過ごすことになるから気を付けた方が良い。また、便がなかなか綺麗にならないと、何度もトイレに通うことになるので、しまいには尻が爛れてヒリヒリと痛くなり、辛い目にあう。私は幸いにしてそうはならなかったが、周囲には何人かそういう人がいた。
担当の看護師さんによると、「大腸カメラに限ってのことですが、普段、所謂健康に良い食生活、つまり、海藻や野菜、豆、芋など、食物繊維をたくさん摂っている人ほど、こういうふうに苦労する傾向にあるんですよねえ……」とのことであった。そういえば、苦労していた人たちはみなスリムで健康そうな人たちばかりであった。イヤ、でも、だからと言って普段肉や油ばっかり食ってたら、別のところが悪くなりますぜ(笑)。
この日の時程は……
- 体温・血圧・脈拍
- 大腸カメラ
- 聴力
- 医師による生活習慣病に関する講話
尚、朝食なし、昼・夕食は検査向けの消化の良い病院食。この日の夕食も、淡白・少量ながら、まことにうまかった。これなら毎日食っててもいいかな、と思った。
3日目
最終日の時程はごく簡単である。
- 体温・血圧・脈拍
- 胃カメラ
- 医師による総合所見・指導・診断
尚、朝食なし、昼食は胃カメラなどの検査終了後向けの消化の良い病院食。
医師の総合所見を聴き、昼食後退院。
悪いところの見つかった人も何人かあったようで、この後、居残って、だいぶ長時間、治療などについて医師と相談していたようである。
結果
悪いところ
- 胃カメラで、
「あなたは食道と胃の境が非常に逆流しやすい形をしている。なのに、よく中年の男性に見られる『逆流性食道炎』の所見がない。その理由は胃液が少ないからである。胃液が少なければ当然胃酸も少なくなるから食道炎に罹りにくい。しかし、胃液全体が少ないのは体全般の健康から言ってよろしくない。
胃液が少ない理由だが、胃カメラの所見として、あなたの胃壁には『委縮』と言われる状態が見られる。萎縮とは、つまり、正常な胃壁をフカフカの絨毯に例えると、あなたの胃はすり減って固くなり、毛が抜けてペッタンコになった廃品絨毯のようなものだ。これは、普通なら豊富に分泌される筈の胃液が出なくなってしまっている状態である。
あなたの胃がそうなってしまった理由は、ずばり、『ピロリ菌』の仕業である。ピロリ菌についてはご存知のことと思う。怪我の功名のようなもので、そのせいで逆流性食道炎にならず、また、これまで偶々重大な胃潰瘍などの症状もなかったようだが、このままピロリ菌を放置すれば胃癌リスクが高まるから、除菌しなければならない。
ピロリ菌の有無については、胃カメラの時に採取した組織で今から検査して確定するが、当医の長年の経験から言って、このパターンはほぼ間違いなくピロリ菌に感染している例だと思う。検査結果は追而はっきりしてから連絡するが、それに先立って、早く済むよう、あらかじめ来月の除菌治療の予約を取っておくこと。」
……と言われた。
ピロリ菌は私の年代を最後に、私より年上の人たちには非常に保菌者が多いことが知られている。また地域性もあるやに聞く。感染していたらしいのも止むを得ないところではある。
- ごく軽い難聴。「両耳の『軽度感音難聴』、音の帯域の一部のもの」と言われた。
……まあ、若い頃から怒号と轟音の職場で暮らしてきたからなあ……。今から治せと言われても、これもどうしようもない。
- 大腸に2ミリくらいのポリープがあった。
ところが、面白いことに、「ま、これは心配ないと言えば心配ないんですが、一応検査のために組織の一部を採りますね」と先生が言って、モニタの視野にカニみたいな「挟むアレ」が出てきて、そのポリープというものを摘んで引っ張ったら、先生、「あっ、全部とれちゃった。……まあ、一応検査しますけど、これ多分なんともないですよ」とのことであった。
良いところ
これらは私自身の健康管理が良いということではなく、妻の御三度の食事によるものだ。私はこれまで偶々単身赴任がなく、弁当持ちで通勤しているので、長いこと三度三度、妻の作るものばかり食べているのだ。
帰宅して、妻に礼を言い、そのことを話したら、「うふふん、そうかしらん」と、妻も満更でもないようだ。
ええ、そうです。惚気です。すみません(笑)。
その他の事項
たまたま気のおけない同期生が多く集まったものだから、待ち時間にヒソヒソとバカ話や雑談に打ち興じていた。
2日目の大腸カメラが済み、3日目の胃カメラの時である。
「ナァ、佐藤。あの、ドアの開いた内視鏡室の中ほどにチラホラ見える内視鏡の装置なんだがな」
「おう、あの黒い、ホースみたいなやつか?」
「そうだ。……アレ、昨日、尻に入れた奴と同じじゃないか?」
「……(笑)、バカ、んなワケあるかよ。別の装置なんじゃねえの!?……いや、待て、いまドアが開いたときにチラッと見えたから見直したんだが、……。……確かに、昨日、俺らの尻に入ったやつと同じだな……。」
「オイ、佐藤よ、大丈夫かな」
「……。いや、でも、……しかし、形は同じだな……。」
そうしたら、別の同期生が早々と検査を済ませて出てきた。
「おい、胃カメラはどうだった?」と私。
「おう、あのカメラな、昨日、尻に入れたのと同じやつらしいぞ。ほのかになにやら『味』と『香り』がした」
「ええっ!!マジかよ!」
「でも、一人ひとり、本人の尻に入れたのと同じので胃も診るらしいから、まあ、心配いらん、って、医師先生が言ってた」
「おいおい、やめてくれよ~っ!」
「……バカ。嘘に決まってンだろ」
「はぁ、びっくりした。」
と、バカ話はそれで終わったものの、素人目には大腸の時も胃の時も同じに見えた内視鏡、昨日オノレのケツメドに入ったものと同じ装置かどうか、聞くのが怖かったから医師先生にも看護師さんにも聞かずに済んでしまい、結局ナゾのままである。