何時だったか何処でだったか、思い出せないくらい昔のこと、――と言っても、大人になってからのことであることは確かで、だから30年くらい前だと思う――、ラジオからハスキーなウィスパー・ヴォイスの、ゆっくりとした気持ち良い歌が流れてきた。
外国語の女性ボーカルで、聴いたことのない曲だった。英語ではない。何語かわからないのだが何となく気になった。どうやらフランス語らしい。「何だろう、この歌」と思ううち一曲終わり、DJが「『ミカド』の新曲、何々でした」と紹介した。
その「ミカド」という名前だけをなぜか忘れず覚えたまま、何十年と過ぎてしまった。その当時直後の頃も、何年も経ってからも、時々思い出すことはあったが、レコード屋などでその「ミカド」に出会うことはなかった。また、その曲調や歌声も覚えているのに、最初の一度きりラジオで聴いて以来、他で耳にしたことは二度となかった。
その後、インターネット時代が来て、うろ覚えのものでも何でも、いくつかのキーワードを捻り出すことさえできれば、Google等で簡単に調べがつくようになった。そこで、15年程前に「ミカド」と入力して検索してみたことがある。しかし、その頃はまだ、手掛かりになるようなものは何も出なかった。すぐ気楽に訊ねられるような友人にはそんなことに詳しい音楽ファンはいなかったし、また、些事でもあるから、わざわざ拘って訊いたり調べたりしようという気にもならなかった。
先程、ふとこのことを思い出し、YouTubeに「MIKADO フランス」と入力してみた。
一発目の、一番上の検索結果の、1曲目に、遠い記憶の曲が出た。
まったく、私はなんと素晴らしい時代に生きていることだろう。暫時呆然と曲に聴き入ってしまった。……フランス語はおろか、英語だって全くダメな私なので、聴いても曲の内容は解らないが。
検索結果から、ミカドは男女二人組の音楽ユニットで、当時細野晴臣が日本に紹介し、一定数のファンを獲得したものであるらしい、ということなどが判った。
また、遠い記憶のこの曲は、「Naufrage en hiver」という題名で、よくわからないが、「冬の難破」というような意味のようだ。当時、日本では「冬のノフラージュ」という曲名で紹介されていたらしい。この曲の全文翻訳詞を紹介しておられるサイトもある。
他に、フランスに輸出されているお菓子の「ポッキー」は「MIKADO」という商品名だそうで、これは日本風な名前付けというわけではなく、フランスの玩具に「MIKADO」というものがあり、竹ひごでできていて、積み上げた竹ひごをジェンガのように抜き取っていって点数を競うようなものらしいが、ポッキーがこの竹ひごの玩具に似ているから、ミカドと言う名前になったらしい。……なんぞという、この歌とは全く関係のない無駄知識も増えた。