「朧月夜」・「朧月」・「朧」という季語がある。
三つとも似たような言葉であるが、あらためて歳時記を引いてみると、それぞれ別のものとして記載されている。
以下それぞれ、「角川俳句大歳時記『春』」(ISBN978-4046210319)から引用した。
(p.50から)
【朧月夜】三春 (傍題 朧夜)
■ 解説 ぼんやりとかすんだ春の月の夜。空気中の水蒸気によって月がほのかにぼやけて見えるさまは、春ならではの濃密な情緒を感じさせる。肌にさわる空気もなまぬるく、幻想的、官能的な雰囲気に満ちた季語であるだけに、即き過ぎにならないように作句上の工夫が必要となる。(藤原龍一郎)
(p.75から)
【朧月】三春 (傍題 月朧・淡月)
■ 解説 春月のなかでも特に朧にかすむ月をいう。あるいは地上の朧の濃くないときでも、この季節に多いヴェールのような薄雲の広がる夜には、雲を通して月は朧に見え、暈がかかることも多い。いずれにしても、秋の澄み渡った空に皎々と照る月とは対照的に、滲んだ輪郭を以て重たげに昇るのが朧月である。湿り気を帯びた温かい夜気が辺りを包み、折しも咲く様々な花の芳香もあいまって、朧月には仰ぐ者の春愁を誘う趣がある。(正木ゆう子)
(p.76から)
【朧】三春 (傍題 草朧・岩朧・谷朧・灯朧・鐘朧・朧影・庭朧・家朧・海朧・朧めく)
■ 解説 春になって気温が上がると、上昇気流が活発になり、微細な水滴や埃が上昇して大気の見通しが悪くなる、というと身も蓋もないが、それを昼は霞といい、夜は朧とよべば、とたんに情緒を生む。ぼんやりとかすんだ夜気のなかでは、ものの輪郭も色も音もどこか奥床しく優しげで、そのために多分に気分を伴って使われることが多く、草朧、庭朧、鐘朧、海朧、谷朧などと美しくいう。語感も柔らかく、曖昧さをよしとする日本人の美意識にかなった言葉である。(正木ゆう子)