最近続いているパターンだが、今週末も金曜日から泊まり込みで徹夜仕事、土曜日の今朝引けた。疲れた。まあ、大変だがこれで口を糊しているのだからしかたがない。稼ぎの分は働く。
朝9時頃に「七里蹴ッ灰……」くらいの荒涼たる気持ちで職場の門からまろび出て、帰途についた。秋色が濃い。天気は曇りで、陽光が散乱し、却って眩しい秋の朝だ。樹葉もそろそろ緑に倦み飽いているように見える。
すっかり涼しくなった風の中を歩く。
職場近くのスターバックスでコーヒーなど飲んでいるうち、せっかく国会図書館の近くにいるのだから、もう少し「太平記」でも読んでみようか、という気になる。
無論、あの日本最長の古典文学を今日一日で全部は読めない。だが、国会図書館の活用法として、すばやく資料を調べる、ということがあるから、ひとつ、太平記全40巻、岩波文庫では全5巻だが、このなかから、もともと興味を持った切っ掛けの、楠正成に関する記述の部分ばかり抜き出した目録でも作ってみようではないか。
市ヶ谷の職場から国会図書館のある永田町までは3~4km程で、さほど遠くない。秋色など味わいつつ歩いても構わないが、どうせなら開館間もない午前9時半の空いているうちに入りたいから、有楽町線か南北線で二駅、地下鉄で行く。
角川俳句大歳時記でさえずり季題
先日も書いたが、国会図書館はWiFi完備で、閲覧室ではコンセントも使える。
そこで閲覧室の机にさっそく店をひろげていると、Twitterの俳句知り合いの@donsigeさんからリプライが来た。「来週の『さえずり季題』出題よろしく」とのことである。
無論応諾、なんと都合のいい時に国会図書館に来ていることか。いつもは使っていない歳時記をここで借りて、そこから出題しよう、と思いつく。
私が所有している歳時記は、角川の合本、それから同じく文庫、平凡社のポケット、他にノーブランドのものが一つ二つ、そんなものなのだが、今日は前から手元に欲しいなあと思いつつも高価だから手を出しかねている、あの浩瀚な「角川俳句大歳時記」の秋の巻を借り出して、そこから知らない季語を拾って出題しようではないか。
さっそく借り出して捲ってみると、あるある。いろんな季語があるじゃあないのグフフフ、というわけで、その中から面白そうなのを選び、来週の出題を作った。
来週の出題をお楽しみに、というところである。
太平記・楠正成登場の段の題目録
さて本題の、今日国会図書館へ来た目的、標記のまとめをした。
次のとおりである。
岩波第1巻
第三巻
笠木臨幸の事 1
第三巻 楠謀反の事、并桜山謀反の事 3
第三巻 赤坂軍の事、同城落つること 8
第七巻 千剣破城軍の事 3
岩波第2巻
第九巻
千剣破城寄手南都に引く事 8
第十一巻 正成兵庫に参る事 5
第十五巻 同じき二十七日京合戦の事 7
第十五巻 同じき三十日合戦の事 8
第十五巻 手島軍の事 11
第十五巻 湊川合戦の事 12
岩波第3巻
第十六巻
正成兵庫に
下向し
子息に
遺訓の事 7
第十六巻 尊氏義貞兵庫湊川合戦の事 8
第十六巻 正成討死の事 10
第十六巻 重ねて山門臨幸の事
第十六巻 正行父の首を見て悲哀の事 14
多少漏れがあるかもしれないが、太平記には楠正成に関する記述がこれだけの段にわたって含まれていることがわかった。
調べながら楠正成の人生を読み、いやもう、涙、涙。
東京・日本橋 室町砂場
朝からそんなことで、徹夜明けの目をムリヤリ見開いて本なんか捲った。
昼過ぎて腹も減ってきた。
図書館を出て、いつもあまり気にしていない、ベンチに座っている銅像にからんでみたりなどする。
もう昼も遅い。そこで、今日はひとつ、前から行こうと思っていた、砂場御三家の一軒、「室町砂場」に行ってみようと思い立った。
この木曜日にも代休で午後がヒマだったから、虎ノ門の砂場に行ったのだ。なんだか、毎回毎回蕎麦ばかり手繰って、我ながら好きだなあ、と思う。先週行った三ノ輪の砂場総本家を勘定に入れるなら、東京の砂場御三家はコンプリートということにもなろうか。
室町砂場は日本橋に本店、赤坂にもう一軒支店がある。国会図書館のある永田町からなら、赤坂の方が歩いて行けるくらい近いのだが、室町砂場自体に行ったことがないので、今日はひとつ、半蔵門線に乗って日本橋まで行ってみようではないか。
室町砂場の最寄駅は、神田か、三越前、あるいは大手町である。
今日の場合、永田町から半蔵門線に乗れば、皇居の北ッかわをぐるりと回り、三越前までものの10分ほどで着く。
地下鉄「三越前」の駅の、「A10」という出口から、国道17号線に出られる。「室町砂場」までは歩いて3~4分もかからない。
奥に坪庭、その左に別仕切りの小部屋、奥に入れ込みの座敷があり、テーブル席が十幾つか。せせこましくなく、ゆっくり座れる。
今日も焼海苔に酒をたのむ。これは単純に好物だから。
チョンと赤いものが乗った小鉢は通しもので、海月を梅肉で和えたものだ。塩気が効き過ぎず、紫蘇のいい香りがして、海月はほどよい大きさと歯ごたえだ。飲もうと思えばこの小鉢だけで五合くらい飲んでしまえる気がする。店員さんに訊くと「これだけでお肴のご注文もできますよ」とのことであった。
この肴と焼海苔、酒を交々やって、杯ひとつ分の酒が残った頃に徐ろに「もり」を一枚注文する。
この店の蕎麦は白くて歯ごたえの良い「さらしな粉」で、つゆは濃いめ、まことに品のある、旨い蕎麦だ。
薬味の葱は他所でよくあるようなビショビショしたものではなく、香りがよく、しかもシャキッとしていて旨い。栞を見ると、「当店の葱は千住の葱で、水で晒さないようにしています」という意味のことが書いてあって、なるほどと思った。
テーブルに置かれている栞に、「当店は『たぬき』と『きつね』を置いておりません。それは、お客様を『ばかす』のもいかがなものかという考えからです」という意味のことが書いてあり、なかなか洒落が効いていて、いいなあ、と思った。
東京屈指の綺麗な名店で気持ちよく一杯飲み、上等の蕎麦を手繰って、全部でちょうど1700円だから、これはそんなに高くない、実に楽しい飲み食いだと思う。
火災に遭う前の連雀町「かんだやぶそば」、閉める前の上野「池の端藪蕎麦」、それから今も盛業の浅草「並木籔蕎麦」、それぞれ既に行った。
つまり、これで、東京の蕎麦の名店のうち、籔・砂場と、コンプリートしたわけだ。次は麻布十番の更科、これは3店あると聞くが、この3店へ順番に行って見ようと思う。
焼ける前の「かんだやぶそば」と、閉店した「池の端籔蕎麦」は、惜しいところでギリギリ滑り込みだったな、という気がする。先日池の端へ行った時、思いがけず重機で取り壊しているのを見て、愕然としたものだ。
道路原標
微醺を帯びて室町砂場を後にし、川沿いに日本橋のほうへ歩く。
東京・日本橋の名物といえば、かの有名な「道路原標」というものがある。残念なことに、今までにこれを見たことがなかった。実は先日神田川クルーズに乗船してみた時に日本橋に来ていて、その時見れば良かったのだが、道路原標のことは全く念頭になく、すっかり忘れていた。
この「道路原標」は、日本の道路里程はすべてここから測られるという原標で、日本橋の中央の道路表面に埋め込まれている。いつもは車がビュンビュン通るので、実物は遠目にしか見られない。観光客は橋の北詰めにある複製の道路原標を見学するのがならわしだ。
ところが、今日日本橋まで来たそのとき、たまたま、日中にもかかわらず、信号の成り行きで自動車が日本橋上から一台もいなくなった。北の信号も南の信号も赤で、車が入ってこない。交通量は結構多かったのに、本当にたまたま、そういう瞬間が訪れた。
今だ、というわけで、ゆっくりと日本橋の真ん中まで歩き、落ち着き払って、真正の「道路原標」を写真に収めることができた。これはラッキー。
これがその写真である。